管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

理事長へ提出する「報告書」の書き方が徐々に「役人的」になっている
管理人の処世術





 まずは、この記事をお読みください。 http://tsuraiyo.com/NT3508-MANHALL.html
 
 京都のマンションで起きた「マンホール転落事故」に関して書いた記事です。これは裁判で有罪判決が出て、現場の管理人にも、禁固1年執行猶予3年っていう厳しい判決が出ています。上記ページにも書きましたが、激貧給料の管理人さんからしたら、精一杯の仕事をしていたのに、「管理人に有罪判決」「組合側は責任を問わない」っていうのは、ひどい裁判だと思います。

 おそらく、この一件以後、全国の管理人さんは、「一生懸命仕事をしていても有罪にされるなんて、なんという理不尽な!」と嘆いていることでしょう。そして、「そんな馬鹿な責任を押し付けられないように、なんとかしないと」と、頭を使っていることと思います。

 そんなわけで、私も、「いざというときのための、責任逃れの処世術を使っております。それは、毎日書いている「理事長への業務日報」という手紙の中の話です。



今回は「玄関ホールのガラスが割られてしまった」という事件が起きた際のことを一例に説明しましょう。前提条件は、「理事長は、会社勤めなので、日中は連絡が取れない」ということです。 

<まずは、起きた事の詳細を丁寧に記録>
 あとで、「そんなこと、報告を受けてなかった」とか「実物を見てないのでよくわからなかった」と、理事長から言われないように、細かいことまで全部説明します。特に、こういう事件では「写真」が大事になります。すぐに掃除は始めずに、ガラスが割られて、玄関ホール内で飛散している状況を写真に撮ります。「こんなことが起きたんです!」と説明するためです。なお、写真を撮る際は、ガラスの破片のアップの写真を撮っても、その大きさがわかりません。しかし、後ろのほうから全体の様子を撮ると、ガラスがよくわかりません。ですから、こういう時に備えて、「センブンスターの空き箱」(警察が写真を撮るときの真似)を用意していあるので、「全体写真」と、「センブンスターの空き箱といっしょに写したガラスの破片」の写真の両方を撮影します。
 そのあと、「この掃除は時間がかかるなあ。ガラスが細かく飛び散っているから」と判断し、玄関ホールという、最も人通りの多い場所をというのを考慮して、まずは、「ガラスが飛散した一帯」を「立入禁止」にします。(駐車禁止用のコーンとか流用) 
 そして、「何者かによってガラスが割られてしまったので、一時的に、立入禁止にします」と貼り紙をします。住民の「危険回避」を第一に考えてるんだぞ、という安全アピールの意味もありますが、なるべく、多くの住民に状況を知ってもらうためです。(あとで、裁判とかになった際に、管理人さんは一生懸命適切に対応していた、ということを知ってもらわないといけない。何も言わずに、さっさと掃除をして、きれいにしてしまうと、住民はことの経緯がわからないままになってしまう)
 そして、掃除に取り掛かります。これも、清掃員さんが一生懸命ガラスの破片を丁寧に拾っている姿の写真を撮ります。当然、こういう「時間のかかる作業」が割り込んでくると、通常の清掃作業に支障が出て、あとで、「4階の鉄骨階段のところにポイ捨てしてあった、タバコの吸い殻がそのままじゃないか! 掃除してないんだろ! 職務怠慢だ」とか苦情が来る可能性があります。その時に備えて、「こういう事件があって、そっちに手間がかかって、通常清掃作業ができなかったのです」という言い訳をする証拠を残しておかないといけません。
 ガラスはほんと危ないので、念入りに清掃をします。そして、次は、ガラスが割れてしまったことによる、「あいた穴から、雨風が吹き込んでくる」ことへの対応です。近所のホームセンターへ行って、ブルーシートとガムテープを買ってきて(この程度の金額であれば、管理人の独断でも大丈夫という経験則がある。当然、領収書をもらってくる)、それを使って応急措置をします。これは、管理人が作業をしている様子を清掃員さんに写真を撮ってもらいます。

 いちおう、これで「危険回避」「雨風対応」の一次対応は完了です。「誰が割ったのか?」は、防犯カメラを見ればすぐにわかると思いますが、その閲覧作業は、煩雑な手続きも必要なので後回しにしておきます。警察への被害届も、管理人にはその権限がないのでしません。
 なお、普通であれば、ここですぐに「ガラス屋さんに電話をして、割れたガラスを取り外し、新しいガラスをはめ込んでもらう」という手続きに移行します。ただし、これは、「高額な出費」になるものであり、管理人の独断ではできません。ですから、ガラス屋への「発注」はしませんが、すぐに発注できるようにするための準備は行います。
 取引のあるガラス屋に連絡をして、「このガラスを取り替える場合の見積もりを作ってよ」と頼み、できれば当日、現場を見に来てもらい、おおよその金額を提示してもらいます。
 また、この一連の流れを、管理会社のフロントにも報告しておきます。

 ここまで「応急処置」をしたら、いったん、休止します。次は、理事長への報告書作成です。これは、終業時間までに作成し、理事長のポストに投函します。


主体は、理事長。必ず指示を仰ぐ>
 管理組合活動の「指揮権」や「命令権」「決定権」はあくまでも、法律上の「管理者」である「理事長」にあります。ですから、管理人の独断で行動はできません。ですから、必ず、「玄関ホールのガラスが割られてしまったのですが、どうしたらいいでしょうか? 理事長の指示に従いますので、ご命令下さい」という「指示を仰ぐ」文章にします。(要するに、責任を理事長に押し付ける)
 もちろん、単に「指示して下さい」とお願いしても、「能力もない」「常識もない」「じゃんけんに負けただけ」「多忙」な理事長が指示できるわけがありません。
 まずは、詳細な報告をして、判断のもとになる情報を与えます。RJC48会員の理事長なら、それだけで十分でしょうが、うちの場合は、「こういうふうにやるのがいいですよ」という雛形あきこも提供しないといけません。


「ガラスの復旧」・・・ある意味、こういう事件は簡単です。「割れたガラスは新品に交換する」という選択肢しかないからです。まあ、「ガラスじゃなくて、アクリルにしよう」なんていう選択肢はあるかもしれませんが、まあとにかく、穴のあいた部分に、何かをはめ込んで、雨風を防ぐことには変わりありません。「認知症徘徊老人が・・・・」みたいな、難しい対応は不要です。
復旧のための金額もわかってますから、それを伝えて、「緊急の案件で、すぐにやらないと住民生活に支障が出ますし、この程度の金額でしたら、理事会を開催しなくても、理事長の独断で復旧工事ができますよ。来月の理事会開催まで待ってたら、住民から苦情が来ますよ」というのを教えてあげます。まあ、「10万円以下」の工事なら「理事長の単独決済」で問題ないでしょう。「なかなか決心できない」性質の理事長の場合は、「では、電話でもいいですから、会計役員と副理事長に相談して承諾を貰えばいいんじゃないですか? そうすれば独断ってことにはなりませんよ」 そういうことを教えてあげます。(その場合は、その役員向けにアレンジした報告書を同時に渡しておく)
 普通、副理事長とかは、自分に責任がないことがわかっているので、「理事長が言うことなんだから、それに賛成しておけばいいだろ」くらいにしか思わないので、反対されることは、まずありません。ただ、たまに「ヘソマガリ」の副理事長もいて、「1万円の工事だろうと、相見積をとらないとだめだ」とごねる人もいます。その時は、その副理事長に相談させず、別の役員に相談させるように仕向けます。

「事後承諾」・・・管理人は、応急措置のために、独断で、ブルーシートやガムテープを買いました。これも、細かいことを言う役員に、あとで突っ込まれるかもしれません。ですから、「理事長が仕事中で、電話をかけられないため、こういう応急措置をしました。私は、これがベストだと思って行動しましたが、まずかったでしょうか? 今からでも、何か別の方法があれば、それに従いますので指示して下さい」と書いておきます。何も、反論がなければ、承諾が得られたということになり、「その応急措置は適正だった」ということになります。

「犯人探し」・・・実はこれが一番面倒です。
まず、「重大な犯罪なので、カメラ映像で犯人を探したほうがいいと思いますが、防犯カメラの映像を見ますか?」と質問します。映像を見るには、うちの場合、いろいろな手続が必要ですし、見る際には役員の立会が必要になります。また、もともとのカメラ設置の際に、「管理人に映像を見られるのは嫌だ」と考える役員がいたために、映像閲覧のルールは、「基本的に、役員が操作して見るもので、管理人には見せない」ということになっています。ただ、実際は、レコーダーの操作をできる役員はゼロ。誰も覚えようとしません。本当は「防犯担当役員」とか作れば良かったのですが、そういうのがいないのです。だから、現実には、管理人がレコーダーの操作をします。この際も、「規則上は管理人は操作できませんし、管理委託契約の中にも、そういうことは入っていません」ということを、理事長に念を押すことが必要になります。「それでも、管理人にやらせますか?」と質問し、「契約業務以外のことを無理を言ってやらせている」という意識をちゃんと持ってもらいます。こうしておかないと、あとで、「犯人は、居住住民の中のAさんだった」ってわかった時に、「見つけたのは管理人だ。管理人を恨んでやる」とか、管理人がターゲットになってしまうからです。ターゲットは、「管理組合全体」になってもらわないと困るのです。
 そして、「役員が見るのはめんどくさい」ってことで結果的に犯人探しをしないこともあります。これもあとで、他の住民から「なんで犯人を探さなかったんだ!」と怒られる可能性もあります。それにそなえて、「あくまでも管理人は、カメラ映像を見たほうがいいですよ、と提案したんだという証拠」を残しておきます。
 特に、今回のような事件の場合、「犯人は、マンションに居住する中学生」なんて場合が多いです。しっかりした理事長であれば、犯人を特定し、その証拠を、その子の親に見せて「弁償させる」ということをするでしょうが、同じ住民同士で、そういう関係になることを嫌がる理事長も多く、「犯人探しはいいよ。組合のお金でガラスを入れ替えればいいだけの話でしょ。」と逃げる理事長もいます。こういうのも、あとで、管理人の責任にならないようにしないといけません。

 
「被害届」・・・
 玄関ホールのガラスの破損となると、「10万円」くらいの被害額になる場合もあります。こうなると、警察に被害届を出すのが普通です。これも、理事長に対して、「高額な被害を受けていますから、警察に被害届を出したほうがいいと思います。なお、管理会社には被害届を出す権限はありません。このガラスの所有者である、管理組合の代表者である理事長が出さないといけません」と説明をします。
 たいていの理事長は「めんどくさい」「当事者になりたくない」「警察にいきたくない」ということから、被害届を出してくれません。そういうのも、あとで批判をする住民がいますから、「管理人が薦めたのに、理事長が拒否した」という証拠を残しておかないといけません。

 まあ、とにかく、管理人として、いろいろな経験をするごとに、「責任回避」の思想が育ってきて、自分自身で「すごい、役人的な文だなあ」とあきれてしまうような文を書いています。なんか、嫌ですが、自己防衛のためにはしかたないです。京都の事件の管理人みたいにはなりたくないですから。

 以上のように、そんなこんなで、「あとから、管理人に責任の追求が来ないように」、あれこれ、対策をしているわけです。意思決定はあくまでも「理事長」ですから。

<子供に対する配慮>
 京都の事故も死亡したのは子供でした。長年、管理人をしていると、「子供というのは、想像もしないようなすごいことをやる」というのがわかってきます。ですから、特に「夏休み」とか、「子供が学校にいかずに、朝からマンション内にいる」という時期は、非常に要注意な時期で、心配性になります。
 
 例えば、「隣接する住宅との境にある鉄製フェンスが錆びてグラグラになっている」という場合。
 子供というのは、こういう「グラグラ」が大好きで、フェンスに登って、グラグラさせて、ブランコのように動かして楽しんだりします。その結果、突然、フェンスの支柱が根元から折れて、フェンスによじのぼっていた子供が転落し、ケガをする可能性があります。管理人を長くやっていると、こういう、いろいろなことを「予見」するようになってきます。
 普通の理事長は「大人」ですから、「大人」の観点からしか、物事を考えられません。「そんなことしないよ。心配しすぎだよ」と言いますが、管理人業というのは、「1%でも可能性がある」ということには、その危険性を予知しておかないといけません。ですから、私は、ちょっとしたことでも、「いたずら小僧が***したら、最悪、死亡事故が起きるかもしれませんから、すぐに対策を打ったほうがいいですよ」と、進言します。できれば、ネット検索をかけて、「過去に、こういった実例が有りますよ」という紹介を加えておくのがベターです。

 そして、こういうのはすべて、記録の残る「文書」で報告します。口頭では、あとから、理事長に「管理人はそんなことは言ってなかったよ」と言われればおしまいだからです。「言った」「言わない」は、裁判では無意味になります。
 



2014/8



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