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マンション管理最前線

専門用語シリーズ 「あいみつ」



相見積もりのことです。


「あいみつ」と言っても、「あいだみつを」さんのことじゃありません。

ところで、今、あいださんが生きてたら、「いざとなると役に立たねえんだよなあ 民主党」とか「原発なんか、なくったって、生きていけるんだよ。人間だもの」とか詠んだかもしれないなあ。

などと考えてると、脱線ばかりなので、本題に移りましょう。

「あいみつ」というのは、「相見積もり」(あいみつもり)の略です。(ちなみに、「せんみつ」は「せんだみつお」の略)

「相見積もり」というのは、なにか工事などを行なう際に、業者1社だけから見積もりをとるのではなく、数社に声をかけて、見積もりをとって、金額や内容を吟味してから、1社を決める、ということです。

数社から見積もりを取ることで、「ぼったくり業者に騙されない」「その工事の相場金額がわかる」「安価に済むかもしれない」といった利点があります。




ということで、「工事関係の知識がちょっとある人」が、管理組合役員になると、やたら、「それはあいみつをとったのか?」と叫びます。また、「マンション管理セミナー」なんかに参加して、この業界の知識をちょっと得た人も、すぐに、「あいみつ」と言いたがります。一種の専門用語なので、「オレは、こういうのも知ってるぜ」とえばりたいのかもしれません。(そういう虚栄心は男性に多い)

さて、私に関して言うと、相撲の「あい四つ」は好きですが、「あいみつ」は正直嫌いです。
だって、面倒じゃないですか? ひとつの工事に関して、3社とか4社とかから、見積もりをとる作業って、大変ですよ。
「大規模修繕工事のような数百万円以上の規模の工事」であれば、金額が大きいですから、「あいみつ」をとるべきだとは思うのですが、「数万円程度」の工事で、あいみつをとるのは、正直無駄な面があります。

それでも、中途半端なマンション管理知識のある役員が、「どんな小さな工事でも、あいみつを取らないいけないんだよ」とか強行に主張します。ネット上でも、「必ず、あいみつをとるべきです」とか「必須作業です」とか、無責任な言葉が多いです。役員さんは、管理会社に命令するだけだから、お金もかからないし、手間もかからないでしょうけど、実際に、業者に指示して、あいみつをとる立場としては、面倒です。

管理会社主導で工事を行なう際には、管理会社としては、同種工事の経験や過去の実績、管理会社との親密度により、「この会社で行こう」という腹積もりがあります。うちみたいに、「工事でぼろ儲けしよう、なんて思わない、良心的な管理会社」の場合、「ぼったくり料金」なんか出させませんから、その1社に任せれば、たいていはうまくいくんです。でも、「3社から見積もりをとれ」なんて命令されると、いちおう、管理組合の命令なので無視はできず、他に2社に声をかけます。
見積もりというのは、電話1本でとれるわけではなく、業者は現場を見に来ます。これだって、人間が動くわけですから、「時間と経費」がかかります。3社のうち、工事を受注できるのは1社だけですから、他の、選に漏れた2社に関しては、「下調べや積算に関わる労力や経費」はすべて無駄になります。その下調べに現場でつきあう我々管理人の労力も無駄になります。(違う業者が下見に来るたびに、その都度細かく、説明するのはけっこう大変なんです。同じことを繰り返さないといけないのは精神的な苦痛だし)

5万円とか10万円程度の工事では、ぼったくるにしたって、そんなたいしたことはないし、そんな小さな工事のために、3社が、わざわざ現地に来て調べるのも、面倒だし、無駄です。
業者側も、「それって、あいみつのためのアリバイ作りで、うちに声をかけてるんでしょう? どうせ、うちには発注来ないんでしょう?」と、見透かしている場合もあります。そういう業者は、当然、見積もり作成は「ただ働き」以外の何物でもないですから、すごく嫌がるのです。そこを「悪いけど頼むよ、適当な見積書でいいからさ。とにかく、ここの管理組合は、あいみつをとらないとだめなんだよ」と、管理会社側が頭を下げてお願いするのです。

こういう「面倒な作業」をわかっている管理会社では、小額な工事の場合、「そんなにあいみつをとらせたいなら、役員さんのほうで、業者を探して、そこに見積もりを取らせてくださいよ。うちのほうは、別に、どうしてもうちの協力会社にやらせたいわけじゃないですから」と、けつをまくってしまう場合もあります。

こうなると、「それだったら、管理会社さんに任せます」と矛先をひっこめる管理組合もありますが、どうしても、バカの一つ覚えで「あいみつが絶対に必要」と考える組合もあるわけで、管理会社を経由せずに、組合側でネットなんかで業者を探してあいみつをとらせるケースもあります。これはこれで、いいことだと思うのですが、素人が、業者に声をかけると、「どういう仕様で工事を行なう」という「基準」がはっきりしないまま、数社に声をかけることにより、業者によって、「材料とか工法が違う」ことになり、見積もり金額が出ても、「会社によって、工事の中身や質が違うため、金額だけでは比較検討ができない」ってことになったりします。また、管理会社主導でも管理組合主導でも、いずれにしても、「業者が来たら、管理人さんが相手をして説明してね」って頼まれますので、管理人としては、どっちにしても疲れます。時間も浪費して、その間、通常業務ができません。

実際に、いろいろな工事を経験してきた人間からすると、「相見積もり」(要するに入札と同じです)って、疑問符なんですよね。テレビアンテナとか専門的な知識の必要な工事なんかでは、多少高くても、その専門技術を持った業者に任せるべきなのに、安い金額を出してきた「素人業者」に任せて、あとで、大失敗した、という経験もあります。

そんなわけですから、「なんでもかんでも、相見積もり」というのはやめたほうがいいんじゃないでしょうか? 組合の役員さんも、中途半端な知識で、かきまわすのはやめて欲しいと思います。「オレはビデオ撮影が趣味なんだ。だから、防犯カメラシステム導入に関しては、細かくチェックさせてもらう」という理事長が過去にいましたが、「子供の運動会のビデオ撮影」と「防犯カメラ」は、かなり違うと思います。その理事長の言うことを聞いた結果、とんでもない、「使いにくくてしょうがねえ。これじゃ、防犯の役には立たない」っていうシステムを買わされちゃいましたし。
無論、「専門的な知識」をちゃんと持っている役員さんなら、その人にお任せしますが、とにかく、「中途半端な知識」とか「他の組合役員にえばりたいために、専門家ぶってる」というのは始末に悪いです。

そんなこんなで思うのですが、「30万円程度以下」の工事は、あいみつとかは不要じゃないかな? そういう「線引き」が必要かもしれません。また、「餅は餅屋」で、専門的な技術のいる工事は、その専門業者に任せればいいんじゃないかと思います。

とにかく、組合の役員さんって、「あいみつ」「あいみつ」とわめいて、金額に細かなチェックを入れる割には、実際の工事には立ち会わずに、「管理人さんよろしく」って、ほったらかしにするの、やめてくれないかな? 一番大事なのは、工事そのものなのに。竣工後のチェックもろくにしてくれないし。

全般的に言えるのは、「口でうるさいことを言う人ほど、自分で汗をかくことはしない」ってこと。組合役員の中には、「無責任な、組合評論家」という人種が多いのです。

困ったもんです。

※「悪質な管理会社の場合」
みなさんが一番心配しているのは、「管理会社が悪質な場合」だと思いますので補足説明をしておきます。
管理会社が「ぼったくってやろう」と思っている場合、「管理会社さんで、知り合いの数社に声をかけて、あいみつをお願いします」と頼んではいけません。知ってる業者同士で談合させます。そして、料金を引き上げます。
こういう場合は、「管理会社さんで1社推薦して下さい」「他の2社は、組合役員の知り合いとか、ネットで調べるとか、近所で探してみる」とかで選びます」というように、必ず、管理会社に関係のない業者を入れてください。でないと、公平な「相見積もり」はできません。ということは、「役員が、その工事のことをよく勉強して、その業者に説明できる能力が必要」だし、「業者を探す労力を惜しまない」ということが必要になります。要するに、「組合役員も汗をかきなさい」ということです。なんでもかんでも、管理会社に任せれば、当然、ぼったくられる確率も高くなります。

※追記 「あいみつに拘る管理組合の姿勢に慣れている管理会社の場合」
本命の業者1社に見積もりを頼んで、その見積書が出来上がってきたあと、他の2社(管理会社と、日頃、つきあいのある業者)に対して、「悪いけど、これを参考にして、ダミーの見積書を作ってくれ」と頼みます。当然、金額は、本命業者よりもちょっと高くします。他の2社は、現地調査には来ません。そんな暇もお金もありませんから。ただ、架空の書類を作るだけです。そうやって、いちおう、表面的には「3社に見積もりを出させました」ということにするケースもあります。



2012/8



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