管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

入社研修について



 どんな会社でも、社員を雇う時は、ひととおりの研修をすると思います。さて、私の場合は。
 
 入社初日、会社へ行くと、会社での研修はまったくなく、いきなり現場に連れていかれました。会社からもらったのは、「高層住宅管理業なんたら組合」という団体が発行している「管理員業務マニュアル」という冊子のみです。(それから、制服ももらいました) 会社から現場への車中、少し目を通しましたが、誰でも知っているようなありきたりの文章しか載っていません。まあ、心構えの説明みたいなものです。

 現場について、前任者と顔合わせ。本社の社員は、「これからBさん(前任者)といっしょに勤務して、仕事を覚えてもらうから、がんばって。期間は10日間だからね」と言って、すぐに戻ってしまいました。「10日か、まあそれくらい研修してもらえればいいなあ」と思いましたが、この10日という期間は、研修制度としての数字ではなく、ただ単に、Bさんが10日後に退職するからでした。Bさん曰く、「山内さん、10日間もあるなんていいなあ。俺のときなんか、2日だけだよ。何にも覚えらんねえよ」とのこと。要するに、管理会社株ム下弦にとって、研修などどうでもいいということでしょう。(でも、この会社”ISO9001”取得して、大々的に宣伝してるんですけど)

 さて、研修(といえるかどうかわかりませんが)が始まりました。しかし、このマンションとしての業務マニュアルというのはありませんでした。すべてはBさんの頭の中に入っているだけです。それに驚いたことに、この現場には「業務日誌」のようなものはないのです。「会社からは、日誌を書けとか報告書を作れとか、何にも指示されていないよ。何かあったときはそのつど電話すればいいし」というお答え。幸いなことに、消防設備点検とか排水管清掃などの定期的業務は、Bさんがカレンダーに書き込んであって、過去のカレンダーを保管してあるために、日程はわかりました。

 まあ確かに、人がしょっちゅう入れ替わる部署でもなく(この業界は人事異動がほとんどない)、本人が頭の中に入れておけば、なんら問題はないようです。でも、人が代わる時は、いちいち口に出して教えてもらって、メモしないと、こちらは覚えられません。そのマンションごとのマニュアルを作っておいたほうがいいと思います。管理人の実際の業務は、マンションごとに千差万別なので、上記団体で出しているようなありきたりのマニュアルは、ほとんど役に立ちません。

 「研修っていってもなあ。実際にその場面にならねえと教えられねえことが多いしなあ。それに俺、人に物を教えるの苦手だし」というBさん。毎日のルーティンワークに関しては、5日程度で覚えてしまったため、その後はダラダラと時を過ごしてしまいました。といっても、何もしないでいると、あとで自分が苦労するので、清掃のおばさんに教えてもらったり、「住民はどんな人がいるの?」とBさんに聞いて、住民の名簿を作ったりしました。とにかく自分から動かないと研修になりません。会社側は何もしてくれません。

 そんなこんなで10日が過ぎ、そのまま強制的にひとり立ちです。自分の場合、経験豊富な清掃パートさんがいたため、その後もいろいろ聞くことができ、なんとかこなすことができましたが、彼女がいなかったら、かなりあたふたしたと思います。でも、小さなマンションでは普通は、清掃スタッフが別にいることは珍しく、管理人の単独勤務ですから、相当苦労するのではないでしょうか?

 警備職の場合は、法定の研修が義務付けられており、定期的に研修が行われますが、マンション管理人はそういうものはなく、会社がやらなければ、結局何もありません。実際、入社後数年たちますが、研修・講習会の類はまったくありません。この仕事、ある意味、会社からは見捨てられた仕事のようです。

 などと、ひどい面ばかりを書きましたが、近所の大手マンション管理会社所属の管理人さんは、定期的に研修に出席していますし、自治体では職業訓練として、「マンション管理人コース」を開設しているところもあるようです。