管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

分譲後第一期で一気に修繕積立金を
大幅に値上げしたマンション
(実話)

2020/10








いまだに、ほとんどのマンションで、「分譲時に設定された<修繕積立金>の金額はあまりにも安すぎて、長期的にまともな修繕はできない」状態になっており、入居後、管理を任された管理組合は、修繕積立金の値上げを絶対にやらないといけないのですが、お金に関することは区分所有者からの反対も多く、値上げには甚大な労苦が必要で、簡単にはできません。

これは、「分譲時に、本来必要な修繕積立金の正しい金額設定にして売り出すと、購入者の月々のローン返済・管理費・修繕積立金の合計額が、とても高額になってしまい、これでは、購入者が毎月きちんとお金を払うことが難しいと感じてしまい、マンションを売りにくいから」という分譲会社側の事情によるものです。

逆に言うと、ほとんどのマンションが、分譲会社側の「詐欺行為」に基づいて売られている、とも言えます。
本来は、こういう売り方は法的に規制しないといけないと思います。国交省、しっかりして欲しい。


特に、昔、M井という財閥系のデベロッパーは、突出して、修繕積立金の金額が低く、それこそ、「60平米の部屋」で「毎月の修繕積立金が1500円」なんていう、ありえない低額に設定して売ってました。これだと、売るほうは楽ですが、買ったほうは、居住して数年で、「こんな金額じゃ、第一回の大規模修繕工事すらできないじゃないか?」と気づき、すったもんだして、大幅な修繕積立金の値上げを実現させないといけなくなり、管理組合は非常に苦労する羽目になります。「喜んで値上げに同意します」なんて人は誰もいませんから、最悪、住民の間で断裂が生じることもあります。


つまりは、無責任な分譲会社のために、購入者が苦労するということなんです。



というわけで、マンション住民やマンション管理士さんらのブログやツイッターの中には、「修繕積立金の値上げに関する苦労話」がいっぱいあります。
皆さん、「値上げ」には「あ〜 ほんと、大変だったよ」と、音を上げてます。

さて、このように、管理組合サイドに「多大な苦労」が必要な「値上げ」なんですが、ほとんど何の苦労もなしに、「数倍」に及ぶ大幅な「修繕積立金」の値上げを成し遂げたマンションがあります。

これ実話なんですけど、実話だからこそ、「そんなバカな」「ありえない」「うそくさい」と感じる点があると思います。でも、ほんとに実話なんで、真実をそのままご紹介します。

なお、このケースは「まれ」なものであり、その点では「読者の皆さんには、あまり参考にならない」と思いますので、あらかじめご了承ください。




舞台は、某M井系のマンション。
管理会社は、分譲会社の系列の子会社です。

上述のとおり、このマンションの「初期の修繕積立金の設定は極めて低いもの」でした。
住民は「うちは修繕積立金が低くてラッキー」とか思って買った、無知な人ばかりです。

しかし、管理会社のほうは最初から「この金額では無理だ。初回の大規模修繕工事もできない。破綻する」とわかっています。
ここで普通の管理会社だと、「ほったらかし」のケースが多く、わざわざ自分から「火中の栗を拾う」「寝た子を起こす」ことはしないのですが、この管理会社は、「長年、このマンションを管理してちゃんと利益を上げるには早めに値上げをして健全会計にしたほうがいい」と考えたのか考えなかったのか・・・・

なんと、管理会社主導で、「第一期の理事会」で「一気」に、「修繕積立金を3.4倍にする」という議案を総会にあげて、可決させてしまったのです。

この件、ツイッターに挙げた際に「値上げは通常決議だから、無理やりやればできないことはない」という意見がありましたが、このマンションの場合、「管理規約の中に、管理費と修繕積立金の具体的な金額が記載されている」という状況で、この場合、「金額を改定するのは、規約の変更になるため、普通決議ではなく、特別決議になる」という解釈で、特別決議の議案となりました。
(※現在では、「規約に、管理会社の具体名や管理費等の具体的な金額を記載するのは卑怯な手である」「そういうのは無効だ」という意見もあって、「通常決議でも構わない」という考え方も認められているようです)

ご存知のとおり、特別決議となると、ハードルは一気に高くなります。なにしろ、全区分所有者の4分の3以上の賛成が必要ですから。


でも、これがなんとか賛成票を集めて可決してしまったのです。(賛成票というよりも実際は委任状ですけけどね。総会直前に多少の督促はしましたが、比較的容易に多数の委任状が集まりました)


これがなんでうまく可決できたのか? 理由はいろいろあると思います。



「購入者のほとんどが、”初めてマンションを購入する”という、いわば、素人だった。当然、組合役員になった経験もない」

「第一期の理事会というのは、役員みんなが自分が何をするのか、まったくわかってなくて、管理会社にすべて任せていた」(つまり、無責任で無能)

「購入時は、分譲会社の言うがままに誓約書を書いたり捺印したりばっかりしていて、分譲会社の言うとおりに素直に従う癖がついていた」

「理事会も毎月開催ではなく、”なにか問題があった時にだけ開催”という感じで、事実上、”3か月に1回”程度しか開催されず、役員同士の交流もなかった」

「管理人はフルタイムで働いていたが、清掃しかしない人で、管理に関して口をはさむこともしなかった」

「情報公開がまったくなく、掲示板はすかすかだった。理事会の開催予告もなく、開催後の内容発表もなかった」

「まだ、ネットが普及していない時代だったので、住民が外部から得られる情報が少なかった」

「とにかく、住民全員が無関心だった」
(「子供が生まれたばかり」「これから生まれる」という家庭が多く、自分のことでせいいっぱいだったのかも)

「管理会社がすべて進めたので、役員には当事者意識がなく、総会議案に責任を負う意識もなかった」

「地域的に民度の低いところだった」

「竣工後1年目だったため、賃貸にして出て行った区分所有者もおらず、死亡して相続でもめている部屋もなく、単身赴任でご主人がいなくなった部屋もなく、部屋を娘に譲って親が出て行った部屋もなく、入居時に集めた連絡先に変更もなく、全区分所有者を把握しやすい状態だった」
(※これ、特別決議の際は重要な点です)

「総会の議案書の出欠票は、議決権行使書ではなく、委任状であり、”すべて理事会さんにお任せします”と、みんな考えていた」
(※というか、「管理会社」と「管理組合」の区別もつかない住民ばかりだった)

「とにかく、事前に何も発表していなかったので、そもそも、反対意見が出なかった」

「総会議案書は文字数がやたら多く、みんな真面目に読むことはなく、ただ単に、委任状に署名しただけだった」

「総会には出席する人がほとんどおらず、総会の場で反対意見を述べる人もいなかった。だから、荒れることもなかった」

こういったことが、この「荒業」を成功させた要因ではないかと分析しています。

なお、当然のことながら、「値上げされた金額が実際に銀行から引き落としされた時」は、多くの「なんじゃ、こりゃ!」「ふざけるな!」「だまし討ちだ!」という怒号が上がったようですが、
一期の役員はすでに任期を終えてますし、文句を言われても、「管理会社が勝手にやったことです」と責任転嫁して知らんぷりです。
その時の役員である「二期役員」は、当然「私たちは何も知りません」と言います。

管理会社のほうは、「みなさんが賛成したんですよ。委任状を出したんですから」と回答します。

ただ、誠意を見せたというか、その後、管理会社のほうで、「なぜ値上げをしないといけないか?」の説明会を開催しました。しかし、「可決後」ですから、反対派の人たちはいまさらどうしようもないし、説明を聞くと「そうなのかあ〜 しょうがないかあ」と思うだけで・・・・ 特に波乱もなく終わってしまいました。

それから、しばらく「不満の声」はくすぶっていましたが、徐々に、「あの時に値上げしてよかった」と思う人が増え、特に、初回の大規模修繕工事をした際は、「値上げしてなかったら、工事はできなかったんだよな」と理解し、反対意見は消え、「よくやってくれた」という評価が増えました。

まあ、「結果オーライ」ってことです。

特にこのケースでは、管理会社がすべて勝手にやったことなので「通常、値上げ議案の際に、反対意見の矢面にさらされて苦労する管理組合役員」というのが存在せず、「精神的苦痛」や「議案可決のための苦労」が住民側にはまったくないというのが特徴です。これは、けっこう重要なことです。



なお、このような「凄技」を披露した管理会社でしたが、このことで、この会社を「素晴らしい会社だなあ」とか思わないでください。
「自転車置き場に収納できない自転車が、部屋の前の廊下にあふれているのを放置」
「避難梯子の落下位置にモノが置いてあって、事実上避難できないことも放置」
「規約に違反してペットを飼う世帯が続出しても放置」
「フロントは、三か月に一回くらいしか来ない」
などなど、その管理の実情はひどく、その後、リプレイスになりました。