管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「相見積くん」の一言で狂った歯車



2020/2初稿 2020/5追記  2021/7さらに追記
相見積もりが、結局高くつくことに


相見積もり」(あいみつもり)

これって、ある種の「魔法の呪文」と言えるかもしれません。
「相見積もりをすることで、工事費用が大幅に減額され、管理組合のお金を節約できて、みんなから感謝された」
「”相見積もりはしたのか!”という言葉を会議で発することによって、周囲のド素人住民から”うわ、この人、なんかすごい! かっこいい!”と思われた」
なんてことを経験すると、うれしくなっちゃって、その後も、呪文のように使い続けるものです。

まあ、私も、「高額な予算を使うもの」に関して、「相見積もり」を求めて、「安くする」のは悪いことではないと思いますが、「時は金なり」と言いまして、「相見積もりをすることによって、時間が余計にかかったら、そのことによって失うものの価値のほうが相見積で減額できた金額よりも大きくなって、本末転倒ではないか?」とも思うわけです。
(※10万円以下の少額工事に相見積もりを求めるのも、ナンセンスだと思ってます)

さて、あるマンションでこんなことが起きました。

場面は総会です。2019年4月のことです。(当時の消費税はまだ8%)



議案は、「機械式駐車場の老朽化に伴う、更新工事」でした。

「老朽化で不具合がいろいろと生じていて、更新工事をしないとまずい」状況で工事をすることになりました。
金額は2000万円近くかかる大工事です。

ですから、「相見積もりをして、安くする」というのはいいことだとは思いますが、「性質」と「タイミング」がよくありませんでした。

機械式駐車場というのは、扱っている会社の数がかなり限られています。基本は「製造メーカーがメンテナンスもする」となっています。なので、「他社にも見積もりをとる」というのが物理的に難しいです。それに、今までの会社と違う会社に変えると、今後の維持管理や保証など、不具合なことが出てきます。
ですから、会社を替えないほうがいいものであると言えます。

また、相見積をするにしても、それは総会議案になる前の、工事計画の準備段階でするものです。総会の議案で、すでに決定している業者が出した見積書を添付して、それの議決をしようとしている時に、そこで「相見積をとって最も安い業者にしろ!」と叫ぶのは、本人は気持ちいいかもしれませんが、周囲は大迷惑です。(しかし、このマンションの管理組合は広報活動を全然しておらず、理事会で何が話し合われているのか? 他の住民には一切報告しない密室政治をしており、あいみつ君が口を出す機会がありませんでした)

それに、この工事は「急がないといけないもの」です。現に、機械式駐車場にいろいろな不具合が発生しているために更新工事を行なうのですから。
なので、議案には書いていませんが、実際には、施工業者と打ち合わせ済みで、総会終了後、すぐに速攻で工事に取り掛かる予定を組んでいました。

なので、普通なら、「もう遅いです。決めてしまいましたから。ご意見はありがたくちょうだいします」とか言って、議案を議決すればいいんですが、この時の議長(=理事長)が、「相見積を取れ!」と叫ぶ「チャッチャマン」住民の圧力に負けて、こんなことを言い出したのです。

「今回の議案は、”機械式駐車場の更新工事をする”ってことを決める議案でして、どの業者が工事をするかを決めることまでは含んではいません。今後、相見積もりをとって、一番安い業者を選びます。そういうことでいかがでしょうか? 納得していただけますか? (あいみつ君はこの時に頷く)(そして、管理会社フロントのほうを見て)  それでいいですね、管理会社さんのほうも」

とか発言してしまったのです。
これには、臨席していたフロントも困ったようですが、理事長のメンツをつぶすわけにはいかず、「あ、はい、さようでございます」とうなづいてしまったのです。(このフロントも馬鹿です)

というわけで、「あいみつくん」の一言で、「工事発注をいったんキャンセルして、工事業者の選定をやり直し」になってしまったのです。これじゃあ、星一徹なみのちゃぶ台返しと変わりません。暴挙です。でも、「単年度輪番制の役員」は、「この総会が終われば俺たちは関係なし。あとは次期役員に全部押し付ければいい」と思ってますから、自分たちに実害はなく、屁でもないです。



困ったのは、次期役員たちです。いったん総会の場で「相見積もりします」と議長が言ったことを反故にもできず・・・・・
それで相見積もりをすることになりましたが、他社を探しては見たものの、金額云々の前に、やっぱり、その工事の特殊性から、当初の業者を使うしかなく・・・・・

そして、管理組合の意思決定機関である「理事会」は、月に一回しか開催されないため、意思決定が非常に遅く、「やっぱり、当初の業者に任せましょう」と決めたのは、7月の理事会でのこと。
(本当は、この時期には工事は終わっていたはず)

そして、あいみつくんに茶々を入れられないように、施工業者に対して「値下げを要求」したのですが、それには応じてくれたものの、「実は、工事が決まっていたのをいったんキャンセルしたので、下請け業者に賠償金を払わないといけず、値下げ分はそれで相殺され、かつ、少し金額は上がります」という本末転倒の結果になりました。(金額を下げるために、あいみつを取らせたのに、結果的に金額が上がってしまった)

ここでようやく、再度、正式発注をかけたわけですが・・・・ 世の中は「東京五輪」の準備の工事のために、工事関係の業者は忙しいわけで、いったんキャンセルされた工事を再度やるにしてもすぐには手配ができず・・・・ 急がせても、結局、工事実施は11月に先延ばしされました。

その間にも、老朽化した駐車場ではトラブルが頻発しており、利用者からは苦情殺到です。しかし、その原因を作ったのは「前期の理事長」と「あいみつくん」であり、今の理事会役員ではありません。つまり、「なんで、無関係のワタシ達が、他人のせいで、みんなから怒られないといけないんだ」ってことで、役員の皆さんは、憤慨しています。

さて「お金」のことですが・・・・
11月の工事ということは、消費税は10%に値上げされているわけでして・・・・・

値上がりした金額に、さらに、消費増税が加算され、結局、当初の予算よりも大きく上がってしまいました。

「相見積もりして安くしろ!」と言ったのに、「相見積もりしたら高くなった」という矛盾です。

さらにさらに・・・



10月の台風災害で、業者が「ここの工事よりも、被害を受けた箇所の復旧工事が多忙で」ということで、業者都合で、工事の延期を言ってきて・・・・・11月には工事ができなくなり・・・・

結局、工事は2020年4月になりました。つまり、11ケ月も遅れたわけです。

その間には、また、機械トラブルが数度発生し、利用者から、「管理組合は何をしてるんだ! 工事は5月のはずだったろ!」突き上げを食らっています。また、壊れたところを放置するわけにもいかず、応急の補修工事が必要になり、それについても多額の出費がありました。(予定どおりに工事をしていれば、新品に変わってますから、当然、補修工事費もかかりません)
また、「更新工事が完了し、ちゃんとしたきれいな機械になったら、新しく車を買ってマンション内に置こう」と計画していた住民から、「車を買って、あちこち旅行に行こうと思っていた計画が狂ったじゃないか!」というお叱りも受け・・・・

こういう複数の苦情の矢面に立たされた今期の理事長は、「前期理事長がやったことで、なんで、俺がこんな目に遭わないといけないんだ!」と、ブチ切れてしまい、「理事長職のストライキ」を敢行。この場合、副理事長が代行しないといけませんが、「副理事長職」というのは、「要領が良くて、何も仕事をしたくない、ずるい人間が手を上げてなる役職」ですから、代行などするわけもなく・・・・ 無論、他の役員は理事長の代わりになることもなく、理事会活動ができなくなりました。

もう、ボロボロです。


「あいみつくん」の一言が生んだ悲劇でした。

◎注
なお、このマンションは「マンション管理士」と顧問契約をしており、この総会の場にも、マンション管理士は同席していました。しかし、何も発言せず、この混乱を止めることができませんでした。何のための「専門家」なんでしょうか? こういうこともあるため、私はマンション管理士に対する信頼が低いのです。

<以下 2020年5月に追記>

そしてそして・・・・・
4月に工事をする予定でいたら、今度は、コロナという最大の悲劇が日本を襲いました。
「感染防止のため、休業します」という業者をなんとか説得し、工事させることにできたんですが・・・・・なんと・・・・・部品がない。

そう、外国産の部品が、コロナのために輸入できず、入手できていないのです。「職人の手配ができても、部品がないのでは工事はできません」ということで、またまた、延期に。。。。

そのうえ、「緊急事態宣言」が発令されて、工事業者も休業状態に・・・・

いったい、いつになったら、この工事はできるのでしょうか?

それもこれも、一人の「あいみつ君」のせいです。



 <以下 2021年7月に追記>

このマンション、2020年の末に、ようやく工事が実施できたのですが、工事費が予定よりも上昇してしまいました。しかし、予算を変えるわけにはいかず、組合側は「管理会社の方でかぶってよ」と要求し、管理会社は渋々それを了解します。(管理会社の手数料を減らしたわけです)
そんなもんをかぶらされると、担当フロントのやる気はなくなるわけでして。
駐車場工事の実務上、一番面倒な「工事期間中に駐車できなくなる車を、一時、別の駐車場に移動するために、移動先を確保する」という作業を、「これは組合さんの方でやってください。もともとの見積もりには入ってませんし」と、押し付けたのです。

これ、「押し付けること」もすごいと思うのですが、「一時移動させるための処置」が、「機械式駐車場更新工事」の見積書の中に入ってなかったことが驚きです。住民や役員は誰も気づいてなかったそうです。全然、見積書を精査してなかったんですね。(※上述の「あいみつ君」は、そこを指摘すべきだった。そうしたら、みんなから感謝されたのに)

結局、役員数名で近所を駆け回り、探しましたが、「月極駐車場」を契約しようとすると、2週間程度の利用でも、「一ヶ月分」のお金を取られますし、かつ、仲介不動産屋の仲介料や敷金なんかも取られるそうで、合計で「3ヶ月分の費用がかかる」んだそうです。
「コインパーキングを長期契約できないか」も検討したそうですが、近隣のコインパーキング場では、そういうこともできず。
あれこれ悩んだ結果、「しょうがない。コインパーキングを普通に使ってもらおう。なるべく上限料金設定のあるところを使ってもらえば、そんなに高額にならないだろう」とそろばんを弾きました。
なので、「駐車場費用が総額でいくらになるのかもわからない状態」で工事を開始したそうです。
結果的には、コインパーキングも「一週間連続で置いておくと、すごい金額になってしまう」とかで、月極駐車場を契約して3ヶ月分のお金を払ったのとあまり変わらないような膨大な金額になったらしいです。
そして、その費用は、管理組合会計の「予備費」から出したそうで、このお金だけで、その年の予備費は消えてしまったそうです。

そして、無事に工事が完了したあとにもトラブルが発生しました。

機械が更新されたことで、「プログラム」といいましょうか、機械式駐車場のパレットがあれこれ移動して、自分の車の出し入れをする機構が微妙に変わってしまい、以前なら「30秒で出せた自分の車が、更新工事以降、2分かかるようになってしまった」とか、逆に「以前は2分かかったのに、30秒で取り出せるようになった」とか、変化が生じたそうです。
このことに、当然、苦情が出るわけでして、「なんで、うちの車を出し入れするのにかかる時間が遅くなったんだ! だったら料金を値下げしろ!」とか「あっちは早くなったそうじゃないか! あっちとうちを交換しろ!」とか、文句を言い出す利用者が現れました。

この苦情を受け付ける理事会役員ですが、この人達は、「駐車場更新工事の方法を検討した年の役員」ではなく、全員入れ替わっており、「俺達が関わったわけじゃないのに、なんで、文句を言われなくちゃいけないんだよ!」と怒り出します。でもって、普通なら「管理会社がしっかりしろ!」となるわけですが、管理会社のほうも、「無理やり、利益を削られた被害者」ですから、素直に丁寧に対応するわけもなく・・・・・・

こんな感じで、しっちゃかめっちゃかになってしまったそうです。

それもこれも、一人の「あいみつ君」と、その言葉に対応した「その年の理事長」のせいです。

読者の皆さんは、このような失敗をしないよう、教訓として下さいませ。