管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

けなすはやすし 褒めるはかたし

2019/7



評価の声はなかなか表面にはでないもんです






新しく、管理組合の理事長とか役員になった人へのアドバイス。

テレビ番組なんかもそうなんですが、「苦情」とか「非難」の電話というのは、よく、テレビ局に寄せられるもんですが、「高評価」「良かったよ」といった意見は、わざわざテレビ局に電話までして、言う人は少ないもんです。

ですから、日頃「政権べったり」のニュースしか流さない番組が珍しく「政権批判」をしたり、「山本太郎のれいわ新選組」のことを取り上げた時なんかは、テレビ局に電話とかツイッターとかで「良かったよ」と褒めてあげて下さい。現場はそういう声が励みになりますので。

さて、管理組合活動も似たような面があります。

「あんなのだめだよ!」「理事会はちゃんと活動してるのか!」といった「苦情」「文句」の投書はよく来ますが、「あれ、いいですね」「ありがとうございます」「ご苦労さまです」といった投書はめったに来るもんではありません。

近所のマンションの管理組合の新理事長が、そこの管理人さんの紹介で私のところに来ました。

この理事長、「共用****」というのに興味があるようです。「共用自転車」を揃えて、駐輪場不足を一気に解決したいようです。そういうノウハウは私も持ってますが、この町の住民の民度だとなかなか難しい気がします。

そこで、まずは「自転車用の空気入れ」「台車」を提案しました。

これは、うちのマンションでもすでに導入していて、うまくいっているからです。

この理事長、「盗まれたときのことを考えて、じゃあ、ホームセンターで安いのを買ってきて置いてみます」と言いました。これ、みんな「安いのでいい。盗まれるから」って考えます。でも、あえて「高級品で使いやすものを買ったほうがいいですよ」とアドバイスしました。特に「台車」というのは、「業務用じゃないんだから小さいのでいいでしょ」と小さいのを買うと、実際に使用する際に「腰をかがめないと使えない。姿勢がつらくて腰が痛くなる」となります。また、安物は車輪やベアリングの品質が悪いので、スムーズに押せません。これは実際にうちのマンションで経験した失敗です。
なので「高級品を買いましょう」と勧めました。

すると、「空気入れは高いといっても3000円程度だけど、台車の高いものって、1万円以上しますよ。そんな高いものを購入すると、万一、盗まれた時に責任を問われるのでは?」と心配します。そして、「管理室の中に保管して、管理人さんに申し込んで貸し出す制度にしよう」とか「予約制にしよう」とか「貸し出し台帳に記入してハンコを押してもらおう」とか、めんどくさい制度にしたがります。しかし、それは全部却下。「玄関ホールとかに置いて、24時間好きな時に予約も貸し出し手続きもなしに自由に使えるようにしましょう」としました。



防犯対策としては、「防犯カメラにばっちり映る場所を定位置にする」とか「台車本体に、@@@マンション管理組合という文字を大きく書く」とか、いろいろな手はあります。
ただ、盗むやつは盗みますので、ここでは考え方を転換して、「盗まれてもいいじゃん」って思うことが大事です。「盗まれたらどうしよう?」とヒヤヒヤして、実際に盗まれたら、「決めた理事長が悪い」とか「管理人の管理が悪い」と責任者を責めるのではなく、「共用なんだから盗まれることもありますよ。当たり前じゃないですか? 誰かの責任とかじゃないですよ」「大勢の住民の役に立つことなんですから、盗まれたのを買い換えるのも必要経費ですよ」と開き直ることが大事なのです。

そうすると気持ち的にも楽になります。現実的には、「盗難を想定して、2年に一回は新品に買い換える」くらいのつもりで、お金もあらかじめ準備をしておくといいです。そして、「管理組合ではそういう姿勢でいます」というのを、しっかりと広報しておくことが大事なんです。
(実際、うちのマンションの共用台車も、導入後5年間のうちに1回だけ盗まれています)

「盗まれることも想定済みです」って言いふらしておけば、「おい、盗まれたぞ! 理事長の責任だ!」とか言う人は出てきません。
コンビニとかスーパーだって、セルフサービスでやる以上、「万引は絶対に発生する」という前提で経営してますし。同じことです。

なお、台車の注意点としては、「クソガキややんちゃなちびっこが上に乗って走り回る」といういたずらが懸念され、その結果「怪我する」ということが想定されます。これについては「遊ばないで下さい」「なにかあっても管理組合は責任を負いません」という表示をしっかり書いておくことが大事です。

さて、そういう広報とか対策をちゃんとしてないと、「あんな大きくて目立つものを玄関ホールに置くな、みっともない。資産価値が下がる」「子供が怪我をしたら、誰が責任をとるんだ?」といった苦情が多数寄せられます。
役員さんというのは、こういう苦情を気にするもんです。

いっぽうで、「これは便利だ。前から欲しかったんだ」「ありがとう。しょっちゅう使ってます」といった声はなかなか公式には出ないです。
そう、日本人って、褒めるのが下手なんです。「いいアイデアですね。理事会さん、グッドジョブです!」なんていう投書はまずないです。

そうなると、「あれは失敗だったのかな?」と思ってしまいがちです。そして、「やっぱりやめます」とかなるパターンがけっこうあります。

しかし、実際には多くの住民が「これはいい」「ありがとう」「助かるよ」と思っているのです。ただ、「投書して伝えるほどのものではない」ということです。ですから、役員が、知り合いの住民に直接「あの新しい台車どうですか?」と聞いたり、「エレベーターの中でいっしょになった人に何気なく話しかけたりする」と、「いやあ、あれ、いいですよねえ。うちの管理組合素晴らしいですよ」という声が返ってきたりするものです。


というわけで、「苦情の投書がちょっと来た」からと落ち込まないで下さい。実際は、それ以上の「高評価」の声が出ているものです。



とにもかくにも、「広報が大事」ってことです。

そして、一般の住民の皆さんにお願いしたいのですが、「管理組合」や「管理会社」が、「いいこと」をした時は、ぜひ、「褒めて欲しい」ということなんです。それも、自分の心の中で褒めるのではなく、公的に声に出して褒めて欲しいということです。

褒めることは伸ばすこと。

ぜひ、よろしくお願いします。

「共用」に関しては、上記のもの以外にも、「脚立」とか「鍵穴専用潤滑スプレー」とか「電動工具」とか「電池のチェッカー」とか「トイレが詰まったときのためのカッポン」とか・・・・ めったに使うもんではないが、あるととても助かるというものを揃えると、住民に喜ばれますよ。