管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「血の海」の専門家???   え?





2018/11


<要注意!!!>
本記事は非常に気味の悪い内容になっています。そういう耐性のない人は決して読み進めないで下さい。無理に読んで気分を害して「オエ!」ってなっても、当方は一切責任をオエ  もとい 負えません。







それでも読む覚悟のある人だけ、下にスクロールして下さい。























長年、管理人業をやっておりますと、悲惨な出来事にも遭遇するものです。

「孤独死で、死後1ケ月経過した腐乱御遺体を見てしまった」なんてのは、いまや、どこにでもある話で、とりたてて言うべきこともでもないですし、いろいろなマンションの早朝に新聞を配達する人の中には、「今まで4回、飛び降り遺体を第一発見した」なんて人もいますが。。。。。


「飛び降り自殺 2回」
「刺殺事件 1回」

という遭遇率は、マンション管理業界従業員の中では、経験値がわりと高いのではないかと思っております。

こういう事件があると、警察がやってきて、沢口靖子みたいなきれいな人は絶対に来ませんが、いわゆる鑑識の人たちがいろいろと調べていきます。その際に、「指紋を調べるための特殊な粉(アルミパウダー)」なんかを撒いていきますが、あれですね。やったらやりっぱなしです。警察の連中は掃除をしません。ひでえもんです。その他、捜査のためにあれこれいじっていきますが、それもやりっぱなし。植木鉢とか移動したら元に戻せよ。「どうせ、マンション管理人清掃員がやってくれるだろう」って、ハナから思ってるんです。
ところで、あの「粉」って、水に濡れると真っ黒になります。そして、濡れると掃除がしにくいです。それなのに、「粉を撒いてほったらかし」ってのはひどい話です。

「ほったらかし」といえば、御遺体に関してもそうなんです。御遺体本体は「病院」とか「解剖」のほうに持って行ってくれますが、「血の海」は残したままです。掃除はしてくれません。となると、どうするか? 管理員清掃員がやるしかありません。
刺殺事件なら、「犯人、お前が掃除しろ!」と言いたいですし、自殺であれば、遺族に掃除をしてもらいたいところですが、そうもいきません。特に「自殺」のうちの一件は、「このあたりで一番高い建物を探してわざわざやってきた外部の人間」でしたから、それこそ、はた迷惑であり、マジで、「遺族が掃除すべきだろ!」って思いました。

そして「血の海」なんですが、言葉で簡単に「海」って言いますが、人間の血って、けっこう量があります。ほんとに「こりゃあ、海だわ」って思うこともあります。それだけ大量に出血するのです。

さて、血の海の掃除方法ですが、これが「水を流せばそれでOK」という場所であれば簡単ですが、なかなかそうはいきません。
「水道がなくて、水を持ってこれない場所で死んでいる」
「水を持ってくることは可能だが、排水口が近くにないため、血を流そうとすると、広範囲に広がってしまう危険性がある」(広がったのも最終的には流すことはできるとしても、そこが他住民の部屋の前の廊下だったりすると、「うちの前に血を流さないでよ!」と怒られることは必至なので、なかなかうまくいかない)
また、発見が遅れたり、その後の「閉鎖」をちゃんとしてないと、あやまって血の海の中に足を踏み入れた人の足跡が広範囲に広がってしまう、なんてこともあり、マジで大変な作業です。
コンクリ打ちっぱなしのところで、そのコンクリが経年劣化で細い亀裂が走っていたりすると、血はその中に染み込み、筋肉少女隊みたいになり、もはや掃除できません。
特に「刺殺事件」の時は、このマンション内で刺殺されたのではなく、別の場所で刺されていて、その被害者が助けを求めてか? 当マンションの敷地の中に入り込んできたので、刺した場所から息切れた場所まで「血の川」ができていました。

「え? お宅のマンションは、管理人は清掃しなくていいんでしょ? 清掃は清掃員がやるんでしょ?」っておっしゃるかもしれません。それは事実ですけど、「血の海を見た清掃員が卒倒して、救急車を呼んだ」「清掃員が、”今日は帰らせていただきます”とばっくれた」「清掃員が私の顔をじっと見つめた」なんて場合、私がやることになります・・・・・・

やるといっても、マンション管理会社のほうで、「血の海の処分方法」なんていうマニュアルがありません。自分の「少ない脳みそ」で考えないといけません。
それで「2回目の血の海の処理」のときから「新兵器」を使うことにしました。

それは、
「大人用の紙おむつ」



この前放送していた「科捜研の女」の中で取り上げられていましたが、「高分子吸水ポリマー」というのが役に立つのです。
実は、この「大人用紙オムツ」というのは、以前利用していた住民が亡くなった際に、「余ったんだけど、管理人さん、使わない?」と御遺族から押し付けられて受け取ったものでした。「こんなもん、管理人が何に使うんだよ?」って思ったんですけど、その後、近所の管理人仲間から、「あれ、すごく水分を吸うから清掃に使えるよ」ってことを聞いていて、それで捨てずに保管していたのです。


でもって、「血の海」の時に、これを使ってみたら、「お〜、すごい」という感じで、雑巾とかタオルのときの感覚とは別次元の吸水(吸血ですね、正確には)を発揮して、けっこうきれいに「血の海」を消滅させることができたのです。


というわけで、万一の時に備えて、うちの管理室には、「大人用紙おむつ」が保管されています。また、医療用のゴム手袋やマスクや、消毒液なんかも常備しています。(すべて自腹)

それでもって、血の海の処理方法を知っている私は、他の管理人も、「これがいいよ」なんてことを吹聴していたもんですから・・・・・




さっきですね。ちょっと離れたマンションの管理会社のフロント君が私のところに来て。。。。。  「実はさきほど、うちで管理するマンションで飛び降りがありまして・・・・・・ そこの管理員が、”そんな仕事は絶対に嫌だ”と言い張りまして、それでお宅様の話を伺いまして   中略    お願いできないでしょうか?」 という要請です。
妖精だったら、のらえもん先生にお任せしたいところですが、どうしてもってことで、お助けにいった次第です。
いちおう、うちの理事長には電話連絡をして、承諾を得ています。
(本当はもちろん断りたいのですが、以前、うちの住民が夜中に酔っ払って、このマンションの敷地内に入り込み、ゲロを吐いたという前科があるため、それが負い目になり、そこを突かれると無碍に断れなかったのです)

もちろん、勤務中なので報酬をもらうわけにはいかず、紙おむつなどの消耗品を使用した分の実費しか受け取っておりません。
そのフロントくんと二人で始末をしました。なので、今は気分が最悪です。




ところで、こうやって、きれいに跡形もなく清掃しても、住民の中には、交通事故の現場みたいに、落下場所に「花」を手向ける人がいます。
気持ちはわかるので「やめろ」と私は言えませんが、他の住民の中には「縁起が悪い、とっぱらってよ」という人もいますし、「自殺したことがバレバレじゃないの? 資産価値が下がっちゃうわよ。すぐに捨ててよ」と文句を言う人もいます。こういう苦情も全部管理人宛です。
血の海の次は苦情の海です。

同じ苦情なら九条のほうにして欲しいなあ。

管理人の苦労を「ねぎ」らってくれよ。

(緞帳が下りる)

※今回の話は、喬太郎の人情噺を想像しながら読んでいただけると感情移入しやすいかと思います。