管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

リノベーションとは?  転売専門業者の誕生 






2017/2


読者から、「リノベーション」と「リフォーム」の違いを教えてください、という質問が来たので、この場で最新情報に基づいて、個人的な見解をご説明したいと思います。

なお、この件については、本HPでは過去に何度か書いておりますので、そこをまず読んでいただいてもけっこうです。

中古マンション売買における 「転売専門の業者」 という存在
(2014/1)

中古マンションのリノベーションのブーム弊害も多いです
(2014/10)

リノベーション工事で漏水事故発生 リフォーム工事業者のレベル低下が深刻
(2015/8)

今回の記事は上記過去記事と重なる部分もありますが、ご了承下さい。


まず言っておきたいのは、私は、以前は「リノベーション」という言葉を使っていませんでした。

「リフォーム」と、「フルリフォーム」または「大規模リフォーム」という使い分けをしていました。

この「フルリフォーム」という言葉が、「リノベーション」に変わったと考えてください。

本当は、こういうわかりにくい、ややこしい横文字は使いたくないので、なるべく「リノベ」という言葉は言ってなかったのですが、相手をする工事業者が「リノベしますのでよろしく」とか「リノベーション工事のお知らせ」とかいう貼り紙を貼ったりして、マンション管理業界の中でも、マンション住民の中にも「リノベーション」という用語が普及してきたので、しかたなく、「リノベーション」という言葉を使うようになりました。

そういうわけで、基本的には「フルリフォーム」=「リノベーション」と私は考えています。

そうやって定義をすると。

「リフォーム」・・・住宅内の「一部分」を工事するということ。「壁紙を変える」「トイレを変える」「キッチンを変える」「ユニットバスを変える」「床をじゅうたんからフローリングに替える」といったことです。なお、「湯沸かし器を変える」という、比較的小さなものも「リフォーム工事」ということになります。
一部分の工事なので、原則として、住民は、その部屋に居住したままです。

「フルリフォーム」・・・住宅内のほとんどすべてを変えてしまうことです。きっかけとしては、「息子が結婚して、お嫁さんといっしょに、この部屋に住むことになったので、親は出て行って、別のところに住む。息子たちの好きなように改造して、新築マンションのようにして、お嫁さんを迎え入れる」なんてことがありました。また、古くなった部屋を売却して、新しい人がそれを買い、自分の好きなように、大掛かりに改造工事をすることもあります。これもフルリフォームになります。

さて、この「フルリフォーム」という言葉が「リノベーション」に変わろうとする時代には、こんなことがありました。

「Aさんの部屋を、売却し、Bさんが購入し、Bさんが居住する」(もしくは誰かに賃貸する)というのが今までの不動産取引の形態だったのに、「不況の深刻化による、”競売物件”の増加」という社会の背景もあり、その中間に「買い取り専門業者」つまり
「転売専門業者」という形態が現れました。そして、その「転売専門業者」は、古いマンションを扱う際は、かなりの確率でフルリフォームをするようになりました。そして、「リノベーション専門業者」という新形態が現れたわけです。この商売は、必ずしも、「建設会社」でもなく、「不動産会社」というわけでもありません。よって、そういう「免許」関係が不要なので、新規参入しやすいかったという面があります。(※「転売専門業者」という用語は私が勝手に作ったものであり、社会一般で通用するものではありません。)

とにかく、「Aさんの部屋をBさんが買う」という図式の中間に
「C社がいったん買い取って区分所有者になり、部屋をフルリフォームしてきれいにして、転売する」という構造が入ってきたのです。

実際のところ、この5年くらいの、当マンションの部屋の売買はすべてこの方式で「転売業者」がからんでいます。
管理会社としては、「区分所有者の名義変更」の事務処理が「2倍」になりますから、たまったもんじゃない、嫌な傾向です。

この転売業者が生み出したのが、「リノベーション」という用語で、こういう新しい用語を作ることで、「ただのリフォームじゃないんだな」って、消費者に勘違いさせる効果はあったと思います。

具体的な商売方法の例を説明しますと。こういう業者は、部屋を売却したい人がいて、その人が「1000万円で売りたい」と思っている場合、簡単には言い値では売れませんから、「900万円ならすぐに買いますよ」と値切ります。売主は値切られるのは嫌ですが、すぐに現金化してくれるのはありがたいので、それで売ってしまいます。
そこに、700万円くらいかけて、リノベーション工事を施し、その部屋に、2200万円くらいの価格をつけて転売します。転売業者の儲けは、600万円となります。たいした労力をかけていない割には利益の大きい商売だと思います。
(ただ、東京五輪決定後は工事費用が高騰しているので、売値もそれなりに高くなっていて、「その値段じゃなかなか売れないだろう」という価格になり、工事完了後、半年経過しても売れないので、値引きして売り切った部屋もあります。)

さて、このリノベ業者なんですが、なにしろ「イメージ戦略」が大事なので、「きれいにする」「今風にする」「オシャレにする」という思想があって、今までの「フルリフォーム」と比較して、思い切った工事をします。

あえて言うと、このあたりが「フルリフォーム」と「リノベーション」の差かもしれません。
具体的に「思い切った」の内容を説明すると、過去のフルリフォームはたしかに、住宅内の全設備を新規交換していましたが、「お風呂のあった場所にはお風呂を」「トイレのあった場所にはトイレを」というふうに、「場所」を変えることはしてませんでした。
しかし、リノベになってからは、床下のモルタルを削って、その中の水道配管も全部取っ払って、水道やら電気の「配置」も変えてしまい、「今まで洋室だったところがユニットバスになってしまう」など、自由なレイアウトで住宅設備を配置することをするようになりました。これはリノベの特徴かもしれません。
実例としては、当マンションの中には一部「単身者用ワンルーム」があるのですが、そこは「トイレとお風呂がいっしょになっている、ホテルみたいなユニットバス」なんですが、「別々のほうが喜ばれる」ということで、トイレを離れた場所に設置するリノベをしたりしてました。これは従来のフルリフォームではやってなかったことです。


こういったことをするため、リノベは工事期間が非常に長いです。最低でも30日、長いと2ケ月かかります。また、床下のモルタルを削るなどの大工事をするため、騒音や振動がものすごく、ご近所どころか建物全体に迷惑をかけ、それに対する、苦情処理対応も大変です。(矢面に立たされる管理人が一番大変)
また、「電気配線も完全に変えてしまう」ことから、「テレビアンテナ配線を断線してしまい、階下の部屋の全部のテレビが映らなくなった」といったトラブルも起こします。


こういった様々なトラブルを起こすくせに、その対応をリノベ業者がすることはなく、そこの社員は現地にはまったく来ず、現場の工事業者にすべて押し付けています。ひどいもんです。ご近所への謝罪くらい自分でやれよ。「FAXで謝罪文送りますから、管理人さんのほうで掲示板に貼っておいてください」って、なんなんだよ。

※リノベ業者は、そのほとんどが東京在住の会社です。ですから、そこの社員が遠く離れた当地にまで来ることはまずありません。

さて、こうやって、「水道配管や電気配線も含めて、完全に別物」の部屋になってしまうと、そのあとの維持管理が問題になってしまいます。
「配管も新品になったんだからいいのでは?」と思うかもしれませんが、残念ながら、こういうリノベーションをする工事会社の質が下がっており、リノベしたばかりなのに、「3年後に漏水が発生した」なんてことが起きます。
こうなると、マンションで保管している図面を使って調べようとしても、もう、図面通りではない配管になっているため、その図面は価値がないのです。かといって、新しい図面を居住者が持っているかというと当然持っておらず。リノベ業者に対応してもらおうとしても、反応が鈍く、なかなか動かず  なんてこともあり、ろくなもんじゃないです。ひどい場合、「会社がなくなっている」なんて実例もあります。

古いマンションでは、管理組合で「水道管の延命措置」なんかもしますが、これも、建設当初の配管や水道管の材質にもとづいて計画を立てて工事を行うのですが、リノベした部屋では水道管の材質が違っていたりして、計画どおりの工法で、その部屋の工事ができなかったりします。

ついこの前も、建物全体のアンテナ線の工事があったんですが、リノベした部屋がどのような配線に変えたのかわからず、アンテナ工事業者が、「あの部屋だけ処置できません。困りました」って頭を抱えていました。本来なら、制度として、「リノベ工事の際の詳細な図面を管理組合に提出する」ということをさせないと、あとあとの建物管理に問題が出てきます。(当マンションでは、現在、リノベの申請があった際は、私の個人的配慮で、「図面も添付してくれないと受け付けられないよ」と言ってるのですが、「あとで持ってきます」とかいいながら、永遠に持ってこなかったり、まあ、ひどいもんです)

こういったわけで、「リフォーム」と「フルリフォーム」と「リノベーション」の違い、皆さんにも理解していただけたでしょうか?   あくまでも、私の個人的見解ですけどね。


とにかく、管理会社としては、リノベーションは困ったもんです。これだけ管理人に面倒かけるのに、私はいままで「挨拶のタオル」の一本ももらったことがありません。

私の感覚では
「リノベ業者」って、かなり悪質ですよ、とお伝えしたいです。

ところで、ここまで書くと、「リノベ業者にやらせないで、古いままで買って、買主が自分の好きなようにリノベーション工事をしたほうが、費用も安いし、自分の好きな部屋にできていいのでは?」「なんで、転売専門業者なんてのが現れるの?」と思う、鋭い人がいると思います。
これ、たしかの、そのとおりなんですが、新しい買主がマンションを買う際の「ローン」に、そのカラクリの一端があります。

今みたいに金利が低いと、「ローンは借りるだけ借りたほうが得」という時代になっています。
その場合、「古いままの部屋を900万円で購入する」としたら、この900万円に対する住宅ローンしか使えません。その後の、リノベ工事にかけるお金に関しては、現金で工事業者に払わないといけません。もしくは、住宅ローンよりも金利の高い「リフォームローン」など一般的なローンを組みます。
これが「リノベ済み物件 2200万円」を住宅ローンで購入するとしたら、2200万円に対する住宅ローンが使えます。これだと、手持ちの現金が少ない人でも買えるわけです。

これからローン金利がどうなるかわかりませんが、今のような「低金利」の時代は、「リノベ業者」「転売業者」にとってはいい環境なのだと思います。