管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「民泊問題」への各種論評に不満あり





2016/2

 私の実家は百姓なんですが、兼業で民宿もやっていた時期があり、実は、「旅館業」なんかについて、ちょっと詳しかったりします。また、その関係で、学生時代にホテルでアルバイトしていたこともあり、宿泊業界のこともけっこう詳しいです。

 今、「民泊」のことが話題で、いろんな評論家なり、弁護士なり、マンション管理士なり、不動産業界に詳しい人なり・・・ 各種の論評が出てますが、どれも、「ちゃんとわかってないなあ」と思います。

 例えば、ここでも書きましたが、 マンション管理の最前線のことを知らない人たちは、「民泊で出るゴミは事業系ゴミであり、家庭ごみを収集する、マンションのゴミ集積場には出せない」をわかっておらず、ネット検索しても、私以外で、このことに触れている人はいませんでした。まあ、管理人視点じゃないと気が付かないことなんだと思います。(ゴミって、とても重要なことなんだけどね)

 また、ゴミのこと以外でも、「事業として部屋を貸し出すとすると、集合住宅として契約している、マンション保険は適用外になる可能性もある」ということを指摘している人もいます。火災保険なんかも、一般家庭と旅館なんかでは違いますから、そういう「保険」の類も大きな問題になりますが、そのことを指摘する人も少ないし、マスコミには出てきません。

 民泊問題で関わってくる法律にしても、「区分所有法」「マンション管理適正化法」「消防法」「旅館業法」・・・・ たくさんあります。役所の縦割りも弊害を生み出しています。「区分所有法」は国交省の管轄だし、「旅館業法」は厚労省の管轄になります。役人は自分の所轄のことは詳しいですが、クロスオーバーすることだと詳しくなくなります。まして、今回の件は「特区」という問題もありますし、「観光」「国益」という要素も加わり、国の組織もいろいろだし、自治体組織でもいろいろだし、民間もからむし、町内会組織もからむし、いろんな役所&組織の「利害」がからんでくるので、面倒です。実際、もし民泊が流行って、いろんな民泊施設が増えたとして、今〜五輪の時期に大勢の観光客が来ているときはいいかもしれませんが、もし、観光客が減ったら、維持経費のかかる、一般の旅館ホテルは、維持経費の安い民泊には勝てないため、倒産する旅館やホテルが出てくるかもしれません。一時的な好況のことだけ考えればいいってもんじゃないんです。

 とにかく、このように、民泊問題はいろんなことが複雑にからみあってくる問題なので、知識の浅はかなマスコミの人たちはろくなことを書けません。自称専門家の人たちも、えらそうに評論していても、実は知識に片手落ちの面が多々あり、上述の「ゴミの件」のこととか全然わかってなかったり、つまりは、ちゃんとした評論もないってわけです。

 また、法律に詳しい人があれこれ論評しているのを見ていると、「おいおい、法律も大事だけど、法律や条例だけクリアすればいいってもんじゃないよ。マンションというのは、管理規約や使用細則という、そのマンションごとの自治憲法みたいなものがあるんだぜ。その点もちゃんと考慮しないとだめじゃねえか」とツッコミたくなることもあります。



 「旅館事業として行なう場合は、消防設備も普通のマンションとは違い・・・・」などと、細かい話をするとキリがないんですが、「大前提もわかってねえなあ」と思うことがあります。それは、
「マンションには分譲マンションと賃貸専用マンションがある」ってことです。

 これって、「建物の外見ですぐにわかる」ってもんじゃないので、ややこしいのですが。それに日本の法律では、「マンションというのは分譲マンションのことだけである」とされていて、上述の「マンション管理適正化法」でも、その対象は「分譲マンション」だけなんです。一般の感覚では、「賃貸マンションだってマンションだろ?」って考えると思いますが、実は法的に、マンションじゃないんです。ほんと、役人や国会議員が考えることって、アホだなあ。

「分譲マンション」は、部屋ひとつひとつが、別々の所有者になっており、「管理組合」という組織が法的に強制的に作られ、所有者は全員そこに強制加入させられます。マンションのことは管理組合で運営していきます。多数の組合員がいますから、会議をして決めていかないといけません。まあ、「議会」みたいなもんです。住民は議員ってことですね。

いっぽう、「賃貸専用マンション」は、その建物全体のオーナーというのがいます。つまり、一棟まるまる、その人の所有物なのです。資産家って奴ですな。(芸能人の中には、人気の有るころに大金を稼いで、マンション1棟を建てて、人気が落ちぶれても、その賃貸料収入で生活している人なんかがけっこういます、「笑点」の山田隆夫さんもそう)
 この場合、そのマンションのことは、所有者である「1名のオーナー」がすべて決めます。ですから、「住民全員の合意形成が必要」なんてことはないのです。いわば、北朝鮮のデブ小僧みたいなもんです。管理組合も存在しません。

※上記のことで、ちょっとややこしいのは、「分譲マンションの、ある一室のオーナーが、自分の部屋を第三者に貸す場合」です。これは、借り主からすると「賃貸マンションを借りている」ということになり、不動産屋の店頭に貼ってある「物件案内」でも「賃貸」ってことになりますが、そのマンションの建物自体は「分譲マンション」であり「賃貸マンション」ではありません。あ〜、ややこしい。

 このように、「分譲マンション」と「賃貸マンション」では「運営」「意思統一」の面では全然違うので、民泊問題を話す時に、分譲マンションと賃貸マンションを同じ土俵で論じてはいけないのです。

 こういうのをマスコミも役所もごちゃごちゃにしているので、この「民泊問題」はなんかややこしいのです。

<閑話休題 公的施設のいい加減さの実例>
ネットが普及する前の時代の、新聞記事で見たものですが、某通産省管轄の「留学生支援団体」が、留学生のための宿泊施設(法的分類では「寄宿舎」の類になり、「旅館」ではない)を所有運営していたのですが、ここに空き部屋があった際に、この部屋を一般の人に「一泊いくら」で泊めていたのです。まあ、その団体としたら、「空き部屋の有効活用」ってことなんですが、一般人を宿泊させるというのは「旅館業法」のくくりになり、ちゃんと申請して許可を受けないといけません。(実際は消防設備の改造などが必要だから、そういう設備投資をしないと許可は出ない)
つまり、公的組織が「違法旅館業」をやっていたというわけです。そこの理事長は、「そんな法律は知らなかった」とか、しらを切ってましたが、ほんとひどいもんです。所轄の通産省も、実態を知っていたのに、知らんぷり。なお、この団体は、その留学生を旅行に連れて行ったり、施設見学に連れて行く際に、これまた「違法」な、「白ナンバー観光バス」を利用していたのも明らかになり、怒られていました。まったく、こういう連中のいい加減さには反吐が出ます。今のネット時代ならボロクソ叩かれていることでしょう


 以上、「マスコミも役人も、大前提の、分譲と賃貸の違いくらいは理解してくれよなあ」&「マンションの最前線のことを聞きたいのなら、弁護士やマンション管理士ではなく、管理人に聞けよ」っていう、お願いでした。

 なお、管理人としての個人的意見を言わせてもらうと、民泊なんかやられたら、清掃にしても管理にしても、ますます大変になり、仕事が増えるんだから、「そんなもの、やるんじゃねえよ! 給料かわらねえのに、そんなに仕事増やすんじゃねえ」」っていうのが正直な気持ちです。

「導入するなら金をくれ!」(by 安藤祐実)





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