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マンション管理最前線

犬猫の「体長」・「体高」  その定義とは??




キツネの体長は?


 反町隆史&松嶋菜々子さん夫妻の事件(犬を飼ってはいけないマンションで、反町隆史と松嶋菜々子の飼育していたドーベルマンが、同じマンションに居住していたアートデザイナー、佐藤氏の妻に噛みついた事件。マンションの不動産管理会社が、反町・松嶋夫妻を相手に、5220万円の損害賠償請求の訴えを起こし、東京地裁は385万円の支払いを命じた)がワイドショーなどで報道されて以降、「マンションにおいて犬を飼うことの問題点」が注目されています。

 そして、その流れで「マンションにおけるペット飼育に関するルール」が注目されています。

 このルールなんですが、意外な盲点があります。今回は、そのことを書きます。

 たいていの「飼育細則」では、飼える数の制限とか、大きさの制限があります。そこで出てくる用語が
体長または体高というもの。これが曲者なんです。当マンションでも、以前、問題になったことがあります。

私は動物は大好きですが、「都会のマンションの中で動物を飼っても、その動物たちが幸せなわけがない。交通事故にあう可能性も高いし。周囲にはペットが苦手な人もいる。ペットを飼う人なんか、ただの自己満足であり、本当は動物を犠牲にして、自分だけが楽しければいいと思っている、自己中心主義の人間だ。私は本当に動物のことを考えているから動物は飼わない」と思ってますから飼ってません。ですから、こういう専門用語の正確な意味も知りませんでした。



「体長」
この用語の意味を、普通の人に聞くと、たいていの人が、(犬猫の場合の話です) 「鼻先から、お尻まで」(=しっぽは含まない)と返答します。中には、「鼻先から、尻尾を伸ばした状態の先っぽまで」と答える人もいます。しかし、動物学的には、どちらも不正解なんだそうです。
正しくは、専門的には「体長は肩端または胸骨端より坐骨端までの直線距離」となっているそうです。要するに、頭と尻尾を除いた「胴体部分」と解釈していいようです。


「体高」
これも、普通の人に聞くと、たいていは「足の先から、頭のてっぺんまでの高さ」と答えます。または、(エサを欲しがって前足を上に上げて立ったときみたいに)「目一杯背伸びをして立ち上がった際の、地面から、前足のつま先までの高さ」というような珍回答をする人もいます。
でも、実際は、「体高はキ甲部の最高点より地上までの垂直距離」、なんだそうです。


正直言って、この「正解」を私も知りませんでした。

このように、
一般の人は「頭まで含めて考えている」のが普通です。でも、正解は「頭を含めない」ものなのです。

そうなると、「一般的な解釈」と「動物学的な解釈」では、乖離が生じます。これが、トラブルの元なのです。

「ペット飼育可能」「ただし、飼育細則があるのでこれを守ることが必須条件」というマンションを購入する際、「ペットをすでに飼っている」、もしくは、「これから買う予定」の人は、当然、飼育細則に記載されている「条件」を読みます。
この時に「頭を含めている」と解釈している人と、「胴体だけ」と解釈している人では、飼える犬の大きさが全然違ってきます。

例えば「体長は50センチまで」(※「体長」の定義についての記載は無し)という規則だとします。
この場合、「頭を含めて」と思っている人は、チワワとか、そういう「小型犬」しか飼えないことになります。でも、これが「胴体部分だけ」ということになると、「ビーグル」とか「テリア」などの「中型犬でもOK」ということになります。
これはけっこう大きな違いです。

なお、マンションを購入する際の、マンションの分譲会社とか、仲介の不動産業者などは、こういった細かなことの知識はありませんし、あったとしても、ウソ八百、いい加減なことを回答しますから、この連中の言うことは信用しないで下さい。だいたい、体長の定義をきちんと明確に書いていない飼育細則を作ること自体、「いい加減」ってことなんですから。

これは、飼い主本人にも重大なことなんですが、管理人の実経験からすると、むしろ、他の「飼わない人」にも大きな影響があります。つまり、「頭部も含めて50センチ」と思っている人は、「このマンションはペット飼育は可能だけど、小型犬しか飼えないルールになっている。であれば、飛び掛られて怪我をするなんてことはないだろう」と思って購入するかもしれません。こういう人が、実際に、他の住民が「抱っこするのも難しい大きさの中型犬」を持ち込んでいるのを見たら、「それはおかしいぞ。規則違反だ!」って怒るでしょう。そして、管理組合に申し立て、「体長ってのは胴体部分だけのことなんです」って説明を受けて、「ジェジェジェ! そんなこと私は知らなかった。そんな、一般的解釈と異なる規則は無効だ!」なんてことになると、事はこじれていきます。

もっとややこしい例を紹介します。マンションの中には、「体長60センチまで」というルールと同時に、「マンション内の共用部分を通行する際は、必ず抱きかかえて通行すること」という規則を明記しているところもあります。
私が推測するに、この飼育細則を作った人は、「頭部も含めて」と解釈していると思います。じゃないと、「必ず抱きかかえる」という規則と矛盾が起きますから。胴体だけで60センチある犬は、個体によっては「レトリバー犬」などの大型犬も含まれることになり、実際はかなり大きくて重くて、抱きかかえることは無理ですから。
上記マンションで、胴体部分だけで60センチと解釈して中型犬を持ち込んだ飼い主は、「”60センチまで飼える”ことはありがたいが、この犬を、ずっと抱きかかえてマンション内を歩くのは無理だよ」ってことで、すぐに、抱きかかえなくなります。そうなると、他の住民に噛み付く犬も出てくるでしょう。いろいろと問題が起きそうです。

このように、いつも私が言っているように、マンション業界ってのは、非常にいい加減な業界です。しっかりしていれば、「体長の定義」も、飼育細則の中にきちんと明記するはずですし、抱きかかえるのが無理な大きさの犬を飼育OKとするのであれば、「必ず抱きかかえること」という条文は入れないはずです。

つまり、こういう問題は、分譲会社がしっかりしていれば、未然に防げる問題なのです。その点が非常に残念です。

というわけで、きちんとした用語の定義が記載されていないマンションで、ある程度大きな犬を飼う場合は、トラブル必至、というつもりで飼って下さい。飼わない人も、定義のないマンションは遠慮したほうがいいと思います。

特に、今回の問題は、「学術的な正解」と「一般人の常識」が、完全に分かれているものですから、「これが正解なんですから、それに従ってください!」という人と「動物学的にはそうかもしれないが、普通の人はそんなふうには解釈しない!」と主張する人が、確実に揉めますから、大変な問題なんです。なにしろ、大型犬なんかでは、「頭部」を含めるか含めないかで、30センチくらい数値が変わりますからねえ。

余談ですが、もっと細かな話をしますと、動物学的な正確な計測方法では「毛」が含まれないそうです。毛を全部刈った状態での計測が正解です。となると、プードルなんかはずいぶん、見た目と実際の計測値が変わると思います。羊なんかはどうなるんだろう?

そんなこんなで、飼育細則を制定する場合は、上記の知識をふまえたうえで熟考の上で制定して欲しいと思います。

余談2:
「そんなアホな?」と思うかもしれませんが、実際にあったケースで、赤ん坊の時の大きさで、「体長50センチ以下なんだから飼っていいだろ!」とレトリバー(大型犬です)を飼おうとした人がいました。そんなこと言ったら、ピレネーみたいな超大型犬だって飼えちゃいますよ。こういう、バカ飼い主とつきあわないといけませんから、管理人は疲れます。
ですから、規則には「成犬時の」という文字を加えておくべきです。

余談3:
マンションによっては「体長制限」の他に「体重10キロまで」といった制限を記載しているところもあります。体重で書けば、「体長の定義なんか関係なくていいのでは?」と感心するのですが、実は、今は「肥満犬」とか「肥満猫」が増えてまして。飼っているうちにどんどん太って重くなっていき、「抱っこできない」なんて場合もあります。それを見た他住民が、「あの犬は絶対に体重10キロを肥えている。飼育禁止にすべきだろ!」と苦情を申し立てる場合もあります。体重制限は「変化があるもの」という点で、ややこしいものです。

良心的な飼育細則の一例

飼育できる犬の大きさは以下のとおりとする

○成犬時の体長(肩端または胸骨端より坐骨端までの直線距離 ただし、毛の厚みは含まず  図参照)は60センチ以下とする
○成犬時の体高(キ甲部の最高点より地上までの垂直距離 ただし、毛の厚みは含まず  図参照) は60センチ以下とする

と書いて、かつ、わかりやすいように、「図」を挿入します。なんたって、絵が一番ですから。

図を入れられない場合は、言葉を理解しやすい平易なものにしましょう。

「犬を横からみて、胸から、お尻の先端までの長さのこと」とか
「犬が立った状態で、地面から背中までの高さのこと」とか。
(あ〜、でも、「立った状態」ってのが、前足を上に上げて、立ち上がった状態と、勘違いする人もいるかもしれないなあ。う〜ん。定義する言葉って難しい)




2013/8



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