管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

救急車を呼んではみたものの、玄関ドアが開けられない
さあ、どうしよう?    [PA連携]の話も。



高齢化社会。大変っす。

老朽化し、高齢化している、当マンション。最近の話題は「高齢者」に関することばかりになりました。若い人の多いマンションでは理解できないかもしれませんが、いずれはわが身です。どうか、お付き合い下さい。

先日、ある住民(単身高齢者)が、救急車を呼びました。救急隊がかけつけ、その部屋の中に入ろうとしましたが、要救助者(住民Aさん)が奥の和室で動けなくなっているようで、玄関のドアの鍵を本人があけることができず。救急隊が中に入れません。そこで、救急隊員が管理人室に来て、「マスターキーはありませんか?」と聞いてきました。

当HPの読者の皆さんには周知のことですが、一般的な分譲マンションには「マスターキー」はありません。そんなものを持っていたら、「いくらでも泥棒ができる」ってことですから。社会的地位も低い、怪しい、とされる「管理人」に、そんな大事な「マスターキー」を保管させるなんて、そんな危険なことはしません。

それで、「いや、ないんですよ」と返答。私も心配になって、Aさんの部屋に行きました。インターホンを押しましたが、インターホンには答えてくれず、部屋の奥のほうから、「ここにいるんだけど、体が痛くて、全然動けないんだ!」という声が聞こえます。
「動けないのに、なんで、救急車を呼ぶことができたんですか?」
「コードレスホンだから、すぐそばに電話機はあったんだよ」
「あ、なるほど。じゃあ、今のままだとうまく会話できないので、私が今から電話をかけますから。それで会話しましょう」
「OK」
ということで、それから以後は電話での会話。(私の私用携帯電話を使いました。この通話料も自腹です)

「まったく、動けないって、いったいどうしたんですか?」
「う〜ん。なんかねえ、ギックリ腰みたいなんだ。さっき、古新聞をまとめて、それを運ぼうとしたら、ガクって、なっちゃったんだよ。それで、倒れてしまって、まったく、動けないんだ。体の向きを変えることも難しい。俺は一人暮らしだから家族もいないし。だから、お手上げ状態なんだよ」
「なるほど。じゃあ、心臓発作とか脳溢血とか、そういう緊急の状態ではないってことですね」
(この辺の話は救急隊員にも聞こえるように復唱する)
「そうなんだ。でも、とにかく、ちょっとでも動かすとものすごい激痛なんで、病院に行って、なんとかして欲しいんだよ」
「そうですか? でも、とにかく、玄関ドアをあけてくれないと、救急隊員も中に入れないですよ。管理人はマスターキーを持ってないですし」
「え? マンションって、管理人がマスターキーを持ってるんじゃないの?」
「いいえ、持ってないですよ」
「そうなんだ。知らんかった。じゃあ、どうしよう? この部屋の鍵は、他には誰も持ってないし」
「ベランダ側の部屋のサッシは開いてますか? そうしたら、お隣の部屋からベランダ越しに中に入れますけど」
「いや、だめだ、鍵かけてる。鍵には手が届かない」
「う〜ん、どうしましょうか?」(救急隊員ともども、頭を抱える)
「カギ屋さんを呼んで、鍵を壊して、もらいましょうか?」(この部屋の鍵は最新式のすごい奴なので、鍵屋でもあけることができず、無理やりあけるには壊すしかない)
「いや、それは困る。そんなことをしたら、すごいお金がかかっちゃうでしょ? そんなお金は、年金暮らしの俺にはない」
「そうですね」
「う〜ん」

「あ、そういえば、Aさんって、この前の大規模修繕工事の時に、玄関ドアの内側の新聞受けの箱の部分がじゃまだからって、たしか、撤去しちゃったんですよね」
「うん、そうだよ。あれがあると、新聞を引き抜きにくいので、取り外しちゃったよ」
(新聞受けに指を突っ込んで開けてみる。部屋の中で寝ているAさんが見える。)
「これだったら、なんとかいけますねえ。じゃあ、新聞受けから、私が杖を投げ込みますよ。」
「え? 杖?」
「はい、うちは高齢者の多いマンションなので、こういう場合に備えて、廃品の杖をストックしてあるんですよ」
(この中にも絶妙なダジャレが含まれている)
「そうなの?」
「なんとか、そこから、玄関まで、赤ん坊みたいに、這って、動くことは無理ですか?」
「這うだけなら、なんとかなるかもしれない。やってみるよ」
3分くらいかけて、ゆっくりと這って、玄関部分まで来てもらう。その間に私は物置の中に保管しておいた、杖を持ってくる。
「じゃあ、この杖を新聞受けの中を通して、中に入れますから。受け取ったら、これを使って、なんとかがんばって、ドアの鍵を開ける位置まで腕を伸ばして、なんとか、鍵を開けてください」
「うん、がんばってみる」

というわけで、悪戦苦闘の末、なんとか、内側から鍵をあけてもらい、救急隊員が中に入った次第です。そして、救急車で病院へ搬送したというわけ。その際も、ちょっと体を動かしただけでも、Aさんには激痛が走るので大変でした。ギックリ腰、おそるべしです。

いやあ、ほんとに、大変でした。しかしまあ、単身者の場合、こういうことが起きる可能性は今後もあるわけで、どうしたらいいんでしょうかねえ? 頭を悩ませます。
「管理人に、その部屋の予備キーを持っていてもらう」なんてことが提案されるかもしれないなあ。でも、そんな大事なものをきちんと保管する設備も能力もないし。困ったなあ。

<追加説明>
この時に、その場にいた救急隊員に、「こういう場合ってけっこうあるでしょ? いつもはどうしてるの?」って聞きました。救急隊員の話では、こういう場合は、「PA連携」という仕組みがあって、「どうしても、部屋のドアを開けて中に入らないといけない場合は、消防車を呼ぶ」そうです。消防車は、「部屋のドアを壊す道具」が積載されており、その道具を使って、無理やり、ドアを開けて中に入ります。火事の場合は当然そういうことが必要だし、心臓疾患等で一刻を争う場合は、本人の同意がなくても、あけてしまうそうです。
今回の場合は、「ギックリ腰」という病状で、「緊急処置をしないと命が失われる」というわけでもなく、本人が「壊すのを拒否している」ということもあり、「PA連携」はしなかったということですが、もし、本人が了承すれば、消防車を呼んで、無理やりドアを壊したそうです。
なるほどね。そういう体制になってるんだ、と納得した次第。そういえば、救急車の後方に、小さな消防車がくっついて走っているのをたまに見かけるけど、あれは、そういうことだったんだなあ。

<こんなコメントがありました>
こういう場合に備えてどうするか? ということなんですが、ブログにコメントしていただいた方が、いいアイデアを書いてくれたので、ここに転載します。

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今回の件で一人暮らしの知人から聞いたことが有ります。
それは、「鍵をかけずに(施錠せずに)チェーンをかけておく」のだそうです。
(マンションだとチェーンではなくて金属パイプのようなものですね)
そうすると一応防犯上も安心で、万が一動けなくなって救急車を呼んだときもそのチェーンを切れば入れるし、後の修理もドアや鍵を壊すより安価で済むからということだそうです。
ただ居留守は使えないねと笑っていました。

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これ使える方法じゃないかな? ありがとうございます。





2013/2