管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

住民の中でやってくれる人がいるんだけど・・・



ビジネスライクのほうが楽だったりする

今回の話題。マンションの管理組合役員を経験した人なら、「あるある」という話かもしれません。

<住民の中に、その道のプロがいるケース>
「自転車置き場が足らないので、植栽の一部を壊して、駐輪場に転用しよう」なんてことありますよね。その際に、管理会社を通じて、工事業者に見積もりを取らせると、「ええ? こんなにお金がかかるの?」と驚くことがあります。
それで、「なんとかもっと安くできないのかなあ?」と思い、そんな時に、「うちの***号室のAさんって、土木工事会社の社長らしいわよ。Aさんに頼めば?」って声が出たりします。

不況の現在、Aさんも仕事が欲しいので、頼まれれば、「いいよ、やるよ」ってことで請け負ってくれました。管理会社指定業者の3割引くらいの金額です。
普通なら、「住民の中にプロがいてよかった。おかげで安くできた」ってことで万々歳なんですが、駐輪場の屋根の材質が悪く、3年後に、ボロボロになっちゃって。それで、Aさんの株が大暴落。「Aさんになんか頼むから、こんなことになるのよ」という陰口が多数。Aさんの奥さんが、精神的に追い詰められ、、このマンションに住めなくなって、出て行った。なんてことがありました。

そうなんです。住民の中に、その道のプロがいると、安くやってくれて、管理組合的には助かるんですが、それが良質な工事であれば問題なく、請け負った住民の株も上がるんですが、質の悪い工事だと、なにしろ、その住民は、このマンションに住んでいる人ですから、もろに、苦情やら悪評が伝わってしまうわけで、いたたまれなくなるのです。

また、ちゃんとした工事をする業者であっても、顔見知りということで、「あれもサービスしてよ」「これも無料でおまけしてよ」なんて、管理組合側から頼まれると、断れなくて請け負ってしまい、「結局、全然儲からなかった」なんてことにもなります。そういう人は、「もう、今後はうちには頼まないでよ」って言い出すケースもあります。

「プロ」といっても千差万別で、良質ではないプロがいますから、要注意なんです。また、同じ土木工事でも、それぞれの「専門」とか「得意分野」がありますから、「Aさんは建設会社の社長だから、Aさんに任せよう」って言っても、実は、その工事に関する分野は専門外だったりして、でも、仕事が欲しいから、専門外の仕事をうけちゃったりして、それで失敗したりして・・・・とか、「実はAさんの会社は倒産寸前で厳しい状況で、最初から、このマンションを出て行くつもりでいたので、悪質な工事をして、そのまま逃げちゃった」、なんてことも、この時代ですとあります。住民にやってもらう場合に、Aさんの資産状況まで調べて「そう簡単には倒産しない」なんて、調査はできませんからね。

 いろいろあるんです。



<プロじゃなくて、セミプロとかアマチュアのケース>
ちゃんとしたプロだと、それなりにちゃんとしてるんですが、たとえば、「俺、日曜大工、得意だよ」というレベルの住民がいるケース。これがややこしいです。
「あそこに花壇を作りたい。レンガで囲って、ちゃんとした花壇に改造したい」なんてケースで、「オレができるから、やってあげる。費用は材料費だけでいいよ」なんて、手をあげる人(Bさん)がいます。
そうなると、業者に頼む費用の「数分の1」で済みますから、管理組合的には、「ぜひ、お願いします」っことになるでしょう。でも、しょせんは素人で、「出来上がりがイマイチ」「1ケ月たったら、レンガが壊れてしまった」なんてことがよく起きます。そうすると、全部最初からやり直しで、あらためて、専門のプロに依頼することになり、当初の費用よりも余計にかかってしまった、なんて事が起きます。
当然、Bさんは、「申し訳ない」って謝らないといけません。となると、Bさん家族は、このマンションにいづらくなります。また、逆のパターンで、「素人なんだから、しょうがねえだろ!」「無料でやってあげたことに、文句なんて言うんじゃねえよ」って開き直ってしまう人もいます。そうなると、住民のコミュニティにひびが入ります。
また、工事自体はうまくいっても、その「デザイン」とか「意匠」が不評の場合もあります。Bさんが、「ただでやるんだから、俺の好きなようにやらせろよ」って言ったために、Bさんの個人的趣向で作ってしまったからです。

 当マンションで実際にあった例ですと。「マンション内のバリアフリー工事をしよう」となった際に、「私はホームヘルパーをやっているので、そういうことに詳しいです」と手を上げてくれた住民がいたので、その人を責任者にして、いろいろ設計して、バリアフリー工事をしたら、実際には、この人がたいした知識はなく、いい加減なことを言ってたので、工事が完成した後に、実際の利用者から「このてすり使いにくい場所にあるねえ」とか、不具合がいろいろ発見されたことがあります。ホームヘルパーとしてはプロなのかもしれませんが、バリアフリー工事のプロではないですからね。そういうことを理解しないで、頼んでしまった管理組合の失敗です。

一方、工事がうまくいって、出来上がりも上々で、他住民からも好評、といったケースでも、すべてうまくはいきません。
工事をしてくれた人(Cさん)が、ことあるごとに、「あれ、オレがやったんだぜ。材料費だけもらったけど、工賃は無料でやってあげたんだぜ。ワイルドだろう?」とか恩着せがましく、自慢するのです。「本来なら、30万円かかるのを、オレがやったから、3万円で済んだんだぜ。ワイルドだろ?」とか、いろいろな住民に言いふらします。「ワイルドだろ?」を7回言ったりします。

そうなると、次の理事会の席上で、役員の口から「やっぱり、多少なりとも、工賃を払ったほうが良かったんじゃないの?」「Cさんは、本当はお金が欲しいから、ああやって言いふらしているんじゃないの?」って意見が出てきます。「いや、自分で無料でやるって言ったんだから、払う必要はない」「そうはいっても、5万円くらいは払ったほうがいいんじゃないの?」「いや、自慢されないように、正規の料金を払うべきだ」とか、お金のことで、役員同士で喧々諤々の議論が戦わされ、「この問題だけで、1回の理事会が費やされてしまった」なんていう、不毛の時間が浪費されることもあります。この議論した時間の労賃を考えると、「最初からプロに頼んだほうがよかったのでは?」なんて、振り出しに戻ったりします。
また、このCさんが、翌年、役員になったりすると、理事会の席上で意見が割れた際に、「あの工事をやったのはオレだぜ。オレがこう言ってるんだから、みんな従ってくれよ。オレは管理組合に貢献している度合いが違うんだから」とか、言い出します。

「良質な仕事をする」「みんなの意見もちゃんと取り入れる」「ほぼ無料でボランティアしてくれる」「でも、えばらない」っていうような人は、実はなかなかいないのです。


 そういうわけで、上記のような失敗を経験した管理組合の場合、
「住民の中に、その道の専門家がいたとしても、その人に工事をやってもらうようなことはしない」という暗黙のルールを定めているところもあります。
なお、ベテランの管理会社フロントマンになると、こういう事例をいっぱい知っていることから、それを理由にして、「管理会社経由で工事をしたほうがいいですよ」と、自分のところで工事をしようと誘導する人もいます。
実際、私の経験上、マンション住民の中で、ちゃんとした&優良な仕事をしている業者さんは、あえて、自分の住むマンションの仕事はやらないと思います。そこそこ儲かっていれば、「なんでもかんでも仕事をくれ」ってことにもならないだろうし。ビジネスライクにするほうが楽なんです。

 今回は、ちょっとディープな話になってしまいましたが、マンション管理士のブログなどでは出てこない話なので、それなりに参考になったかな?

<追記>
「中途半端なセミプロ」ということで思い出しましたが、うちのマンションでは、ウィンドウズとかが発売される前に、その期の理事長がパソコンマニアで、おそらく、「自分が欲しい」ということで、「パソコンがあると、文書作成とか便利ですよ」と、当時の役員を騙して、管理組合のお金を使って、業務用のパソコンを150万円出して購入し(20世紀のパソコンは高かった)、実際には何の役にも立たずに、1枚の文書も作らず、今は、集会室の押入れの中に入ったまま、という事例もあります。回収してもらうにもお金がかかりますから。






2013/1