管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

管理会社の広報誌・HPでの「管理人業務紹介」考察



ええかっこしい、なことを書かれては現場が困るんです。


ある程度の大きさの「マンション管理会社」ですと、「3ケ月に1回」とか、会社としての「広報誌」を作って、管理先マンションの全住民に配布することがあります。
うちの会社ではやってませんが、他のマンションで、そういう広報誌を見せてもらうことがあり、たまに読んでいます。
この中には時々、「マンション管理人の1日」みたいな特集が組まれ、「どんな仕事をしているか」を紹介したりしています。

「ひたすら清掃ばかりしている管理人」
その管理会社は「管理人=清掃員」と考えているのか、その管理人さんの1日は「清掃に始まり清掃に終わる」ような感じでした。こんなこと書くと、実際には他の細々とした事務作業だってやっているのに、そういうことをしていなかのような誤解を与えて、現場の管理人に迷惑をかけると思います。
また、その清掃業務の中には、「通常清掃の範囲で、こんなことまでしないだろう?」と疑問に思うことが、「毎日やってます」と紹介されていました。例えば、各部屋の玄関ドアのドアノブや新聞受け部分の清掃とか。これも、「この会社で考えている、管理員が行なう清掃とは、こんなに広くて深い範囲なんだ。」と住民に誤解を与えてしまいます。実際、この会社の管理人に聞いたら、「俺はそんなことしないよ」って言ってました。

「毎日の業務日誌を書くのに1時間もかかる管理人」
何か重大&複雑なトラブルが発生した日の業務日誌は、「書くのに1時間かかった」という場合もありますけど、毎日、日報を書いている管理人の場合、1時間もかかることはないです。実際は、「ぼーっとしながら、事務所の中にいて、日誌を書きながら時間をつぶしている」というところです。「1時間もかけて詳細な日報を毎日書いている」とか誤解されては困ります。

「時間をきっちり決めて動いている管理人」
広報に書く場合に、わかりやすい例として書いているのかもしれませんが、「午前10時 館内巡回 10時30分終了」とか、細かく時間を書いて、業務内容を紹介している広報がありました。でも、実際は、「おしゃべり住民に捕まって、1時間半かかった」なんてこともよくあり、毎日、時間がはっきり決まっている、なんてことはないです。広報を見た住民が「午前11時は必ず管理室にいるはずだから、外から電話をかけたのに、留守だった。どうしてだ!」とか苦情を言うかもしれません。はっきり決めるのはやめたほうがいいです。

さて、では、実際の管理会社のHPを参考に、もっと深く論じてみます。

http://www.union-cs.co.jp/sp/200804/index.html

この会社の「管理人の業務紹介」のページ。とても細かくわかりやすく書かれていて、一見すると、好感を持つんですが、中身を細かく読むといろいろと問題があります。

「始業時間が朝の7時45分になっている」
8時間労働という法律を考えると、この会社では「8時始業」になっているはずです。それなのに、会社のHPで、「7時45分から、ゴミの仕分け業務を開始」と書くのはどうなんでしょう? これだけでも問題ですが、「7時45分から開始」ということは、おそらく、作業着に着替える時間を考えると、事実上の出社時刻は7時半だと思います。
(法律上、作業着に着替える時間も労働時間ということになっている) 
とすると、この会社は、「8時間労働」という法律を守らず、毎日、30分長く働かせ、かつ、その分の給料を払っていない、極悪違法企業ということになります。
まあ、実際のマンション管理の現場では、どの管理人さんも始業時間よりも前に仕事を始めている(なぜかそういう人が多い。朝、早く仕事を開始すると、住民に目立つし、住民から「よく働いてくれる」と好評だからか?)ため、この記事を書いた人は、ある意味、「正直に実情を書いた」のだと思うけど、会社のHPに掲載してはだめだと思います。労基法違反を自分で暴露していることになります。

管理人がゴミの分別をやることになっているように誤解させてしまう
管理委託契約では普通はゴミに関しては「自治体のゴミ回収の立会い」&「回収後の集積場の清掃」というのが、業務になっています。実際は、今の「なんでもかんでも細かく分別」という社会情勢の中、「ルールを守らない住民がいっぱいいるから、その人の分のゴミを管理人が分別している」というのは事実なんですが、委託契約にないことを書くべきではないと思います。管理人の大変さをしってもらうのに好例なのはわかりますが。

「リサイクル業務も管理人の仕事だろうか?」
=今回取材したマンションでは、ビン・カン・ペットボトル、古紙をリサイクルとして出しています。リサイクルに出すだけではなく、カン、ビン、ペットボトルはすべて洗い、潰してから出します。これらを潰す作業を管理員が行っています=
このように書かれていますが。なんで、つぶす作業を管理人がやるんでしょう? リサイクルは住民自治でやるべきこと。まして、自治体から奨励金が出ているのであれば、それこそ、住民がすべきことでしょう? 「へえ、管理人にやらせていいんだ。じゃあ、任せてしまおう」と読者が思い、しわ寄せが他の管理人に及ぶことでしょう?

「写真に写っている管理人(複数・屋外風景)がみな帽子をかぶっていない」
帽子は制服の一部ですから常時かぶっていないといけません。取材時が夏で「暑いから脱いだ」のかもしれませんが、それにしても、写真撮影時だけでもかぶって写真に撮られるべきです。また、マンションというのは、実は非常に恐ろしいところで、上から何が落ちてくるかわかりません。ヘルメット代わりとしても帽子というのは非常に重要な必須アイテムなんです。

「電球の点検を行い、切れているものは交換します」
「巡回業務」の中で、このことを書いていますが、電球の点検は毎日の巡回でやるものではありません。毎日やれば、それだけ、「細かい仕事」でいいことのように思えますが、点検中は一時的に電気を通電します。この電気代もタダではありません。「毎日電球チェックをしています」というのは、「熱心な管理会社」と思わせるようで、実は、鋭い読者には「電気代のことを考えない浪費管理会社」という印象も与えてしまいます。逆効果です。

「敷地外まで掃除する管理人」
=こちらのマンションでは建物内だけでなく、建物外周や近くの歩道橋など広い範囲を清掃していました。= と書いてありましたが。管理会社って、どうしても、「目に見えてわかりやすい」清掃分野のことでアピールするのが好きです。管理委託契約に、管理の範囲として「マンション敷地内」と明記しておきながら、「近くの歩道橋」ってなんですか? それは委託契約外のことで、あくまでも、その管理人の「無償ボランティア」で行なわれている行為であり、会社の広報に書くべきではありません。

「消毒液は標準装備じゃないはず」
=マンションの外周の植栽に大量の毛虫や葉ダニが発生した時に、管理員がすぐ消毒液を散布し虫の駆除をしました。= 植栽の消毒散布って、専門家が別途料金をもらってやるもので、管理人の仕事じゃないです。住民からは喜ばれたでしょうが、「管理人がなんでもやる」という印象をあたえるのは良くないです。

「住民への注意は勝手にしてはいけない」
「共用廊下に置かれる私物」に関することで、
=事故の発生を防ぐためにも、傘は窓サッシにかけないようお願いしたといいます。やはり組合で決められたものではないので反発も出ましたが、皆様の協力もあって現在は1本もかかっていません。居住者の立場に立って物事を考え実行したことにより、結果的に居住者の皆様のお役に立ち、喜んで頂けるのです。 = 
居住者の立場になって考えることは大事ですが、「実行」するには手続きが必要です。管理人の判断だけで、やってはいけません。こういうことはあくまでも「理事長の指示があったのでやりました」というものであり、管理人が個人でやってはいけないのです。実際、「反発も出ました」と書いてあります。理事会で話し合ってもらい「管理人さんに注意をしてもらう」という議決が出てからやるべきことです。自分の判断でやることは越権行為になります。身分相応をわけまえないといけません。特に、「注意する」行為は、「自分がなんか正しいことをしていて優越感を感じることが出来る」ことから、やりたがる人も多いですが、それはNGです。私なんか、反撃が怖いから絶対にそんなことしません。必ず、「理事長に頼まれたから」という理由がないとしません。

以上、今回の編集方針のため、悪いことばかり書きましたが、弁解も兼ねて「いい点」も。

「身分証明書をクビからぶらさげている」・・・これ大事な点です。Good

「コミュニケーション重視」・・・
=管理員は、居住者とのコミュニケーションを良好に保つために、「(1)挨拶をし積極的に声をかけることと、住んでいる子供を大事にすること」と言います。子供に、「おはよう」「行ってらっしゃい」「お帰り」「今日も元気だね」と声をかけ仲良くなることで、お母さんともお話しするようになるのです。日々の小さな積み重ねが大切で、毎日笑顔で接すること、挨拶をすることで良好な人間関係を築くことができ、仕事へのモチベーションアップにもつながるのです。= これ、正解。Very Good

「立ち入らない」・・・=「(2)居住者同士のトラブルに入らないことが大事」といいます。多くの人が同じ建物に住んでいるのでちょっとしたことでトラブルが発生することがありますが、管理員の仕事はそれを仲裁することではありません。= そのとおり。でも、説明がちょっと不足だな。

ところで、よく思うんだけど、管理会社って、「活気あるマンションがいい」と書くけど、マンションに活気って必要でしょうか? 私のところは高齢者が多いせいもあるけど、「活気」=「いいマンション」とは思わないけどなあ。「静かで安心安全」でも、いいんじゃない?

でも、この「ユニオンシティサービス」さんって、まあまあ、いい会社のような感じがする。

http://www.marubeni-sumai.com/club/column/man_05.html

次は「丸紅」という大手会社のHPで見た「管理人の1日に密着」という記事。
これはひどかった。「完全密着」とか言いながら、内容は薄いし。何より、あきれはてたのは、
<業務は9時からですがその前に毎朝30分〜1時間かけて駐車場を重点的にパトロール。>という記述。実際の業務開始を「8時」としています。これ、完全に違法行為。完全密着して違法行為を確認したのであれば、すぐに、労基署に報告すべきことです。丸紅ってひどい会社だなあ。公式HPで「おまえら、毎日、1時間、サービス残業しろよ」と言うなんて。

ついでに、こんなHPも発見。
http://sumai.nikkei.co.jp/edit/kanri/detail/MMSUm0000029072011/
=管理人は単なる受付係でも清掃員でもない。ましてや不満のはけ口でもない。マンション居住者にとっては、よき相談役であり理解者なのだ 〜 本コラムで管理人の業務内容を知ることで、マンション居住者の皆さんは管理人への理解を深め、感謝の心を持ってもらいたいと思う。= おそらく、当HPを読んで勉強なさったんだと思うけど、この文章は秀逸です。お礼を言いたいくらい。
ただ、マンション管理に関するコラムの「第143回」にして、初めて管理人が登場する、というのが、なんとも情けない。それだけ、軽視されてるんだなあ。無念。
(この筆者の平賀功一さん、マンション管理士資格はないけど、そのへんのマンション管理士より、よっぽどましだなあ)

もうひとつついでに
http://m-kanri.blogdehp.ne.jp/
NPO法人 マンション管理研修センター という団体のHPを発見しました。初めて存在を知りました。なんとも怪しく、非常にわかりにくいHPを作っていますが。
マンション管理員のところの記述で、「管理員が控えめで且つ勤勉、迅速な業務対応をしていること。」という記述があります。この「控えめ」というところがものすごく重要です。こういうことが書けるのは、管理会社のことをよくわかっている人間です。そう、マンション管理人は「控えめ」が大事なんです。減塩醤油みたいなもんです。


http://www.kintetsu-community.co.jp/management/member.html
近鉄住宅管理さんのHP

=業務マニュアルの周知徹底と管理員のスキルアップをサポートするため、当社管理員の中から、適性等を考慮し、業務指導員として採用しています。業務指導員は、管理マンションを1年間に3回程度巡回し、「巡回確認報告書」により、関係部署に報告するほか、新任管理員配属時のフォローおよび管理員研修会の補助も行ないます=

これが当たり前だと思います。本物の管理員の中から指導員を選ぶ。それなのに、なんで、自治体の管理員講習では、マンション管理士が講師なんだろう? 理解できない。






2012/2