管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

面倒なことをあえてしたほうが、住民同士のコミュニティ形成には、
いいのかもしれない





 世の中、なんでもかんでも「効率優先」「楽な方がいい」という考えがはびこっています。まあ、それは言えてることかもしれないのですが、逆の場合もあるんです。夏祭りの季節になったため、その話題に関連して書きます。

 ご近所のマンションの話です。8月上旬に開催される地元神社の夏祭りのために、「地域住民から寄付を募る」ってのがあります。マンションでは、その仕事は管理組合に押し付けられます。こういう「寄付」というのは、「一戸一戸回ってお金をもらうのは面倒だ。管理組合としてまとめていくらか払ってしまえ」という考えのマンションが多いようです。ただ、「神社のお祭」は”宗教儀式”ということで、「うちはキリスト教だ。日本神道の儀式のためにお金は出したくない」という人もいて、「組合として支出するの不適当」と考えるところもあります。(その他、地元自治会との絡みもあるので、いろいろ大変です)

 というわけで、そのマンションでは、管理組合の「会計担当役員」&「平役員3名」の計4名で、全150世帯を一軒一軒回って、「お祭りの寄付を頂戴する」(任意)という方式を取っていました。
 しかし、ある年の役員が、「そんな面倒な仕事はしたくない」「1宗教団体のことを管理組合としてやるのは不適切ではないか?」という意見が出てしまい(要するに「仕事をしたくない」ってこと。また、「他人からお金をもらう行為は乞食みたいで嫌」という気持ちの問題でもあります)、「そういうのは管理人にやらせてしまえ!」となり、それを管理会社のフロントくんが安請け合いして、管理委託費の付加料金もなしに、「無償奉仕」で、管理人がやることになってしまったのです。その役員曰く、「毎日、マンション内を巡回してるんだから、その時についでにお金をもらえばいいじゃない」という理論だったそうです。

 管理人一人で全150世帯をまわり、それも、日中は留守の家も多いので、「何度も何度もまわったり」「いつも留守なので手紙を書いたり」「残業したり」・・・・ とにかく、ものすごく大変な仕事で、その愚痴だけで、記事を一本かけそうなくらいですが、今回はそれを省略します。

 こういう経緯で、「役員が寄付を集める」ということはなくなって、役員としては「あ〜、楽」「良かった良かった」となったわけですが。この結果、住民同士の結びつきが今まで以上に希薄になってしまい、いろんな問題が発生するようになったそうです。

 役員就任が2巡目になり、「以前、役員をやった際に、寄付を集める仕事をしたことがある」という役員が、こんなことを言ったそうです。



「あの時は、すごく面倒だと思ったけど、あとから考えてみると、あの仕事のおかげで、”この部屋にはこんな人が住んでいる””あの部屋の人は、あんな人なんだ”とわかることができたし、あれがきっかけで、その後、ご近所付き合いが始まった人もいるし、今から考えると、ああいうふうに、直接、個人と個人が顔を合わせる機会というのも、大事なんじゃないかな?」

「役員として戸別訪問しているようなものだから、管理組合への意見質問なんかも、そこで受けることができたし」

なんてことも。

 そう、「なんでもかんでも管理会社に押し付けてしまえばいい」というのも、ひとつの考えですが、このように、アナログ的ですが、住民同士が顔を合わせて、どんな形にしろ、コミュニケーションを取るというのは、管理組合として有益ではないか? と私は思うのです。特に、「子供のいるお母さん同士」なんかはお互いにつきあいがありますが、日頃、孤立化しやすい高齢者の場合、「仕事としてマンション内の住民の部屋を訪問して言葉を交わすことができる」というのは、「しゃべりたがり」の人の場合、ご本人の精神衛生上も良かったりします。

 実際、自分から手を上げて、「あたし、お祭りの寄付を集める仕事やるわよ」と立候補する人もいたそうです。「今は、管理会社のほうでやってますから」と断られ、しょぼんとしたそうです。

 私は、このHPとかブログで「管理組合役員は全然働かない。困ったもんだ」ということを何度も書いていますが、「役所の広報の配布」(この記事をお読み下さい)の役割だけはすごく人気だったりします。実は、「たいして疲れない」「楽」「頭を使わない」「汚れない」「人間相手ではない」「単純」といった仕事は、「あたしは役員だから、ちゃんと仕事をしてるのよ。えらいでしょ!」と主張したい人にとっては、「やりたい仕事」だったりするのです。
 こういう心理を利用して、組合役員にいろいろ働いてもらうといいと思うのです。管理会社のフロントくんは、管理人や清掃員の苦労も知らずに、「ええかっこしい」で、安易に、「それはうちでやりますよ」とか受けてしまいますが、それはアホです。役員に対しては、「仕事を与える」ということも大事なのです。(こういう「心理」が理解できるようになるには相当の経験が必要ですけどね)

 というわけで、面倒な仕事をあえてすることで、「住民同士の良好なコミュニティ」も形成できたりします。マンション管理、奥が深いです、




2015/7