管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

代理店契約をしている管理人??!







 タイトルだけ見ると、「何それ?」と言いたくなる様な、世にも不思議な話をします。以前書いたことのある、ご近所の「管理会社を変更したマンション」の新管理人さんのお話です。「管理会社を変更するということはすごく大変」ということを、このHPでは何度も書いてますが、現実には想像以上のことが起きたりします。

 近くのGマンションでは、管理会社を変更しました。(業界用語で「リプレイス」と呼びます) 当然、管理人さんも新しい人に変りました。さて、新会社での管理が2ケ月ほど経過したある日のこと。

居住者が管理人室にやってきて、「ねえ、いつものちょうだい」と言いました。

「いつもの、って、なんのことですか?」
「何言ってるのよ、いつもの奴よ」
「すいません、意味がわからないんですが」
「いつも、ここで私が買ってるじゃない! 何、しらばっくれてるのよ」
「いや、このマンションは2ケ月前から管理会社が変更になりまして、私も、ここにきて、わずかしかたっていない新米なんです」
「そんなの、あたしはしったこっちゃないわよ。いつもの出してよ」
「ですから、いつものって、なんですか? 具体的に言っていただかないと」
「あれよ、あれ!」
「いや、ですから、あれ、って何ですか?」
「面倒くさいわね。前の管理人さんなら、あれって言っただけで、すっと出てきたのに」
「ですから、なんなんですか?」
「フィルターよ」
「フィルターって、なんですか?」
「フィルターったら決まってるじゃない。勘の悪い人ね」
「すいません、慣れてないもので。何のフィルターですか?」
「台所のよ!」
「台所のフィルターって、なんですか?」
「あんた、ほんとに頭悪いわね。換気扇に決まってるでしょう」
「ああ    。    はいはい。換気扇にはフィルター使いますね。なるほど。それで、そのフィルターがどうかしたんですか?」
「バカなこと言ってるんじゃないわよ。フィルターを買いに来たのよ!」
「はあ?????  買う????」

こんな会話がありました。
この管理人さん、チンプンカンプンのため、いったん、保留にして、住民には帰ってもらって、自分の会社のフロントマンに聞いてみましたが、「なんなんだろうねえ。俺もわからないよ」との返事。
そのフロントマンは、念のため、以前の管理会社に問い合わせしてみましたが、「もう、うちは関係ねえ。電話なんかしてくるな」と門前払いをくらったそうです。しょうがないので、次に、理事長に聞いてみたら、ようやくわかりました。


Gマンションでは、建設当初設置されていた台所の換気扇が一般のものとはちょっと違う、特殊な形状のものだった。
その換気扇にマッチする特殊な「交換用フィルター」は、一般のホームセンターなどでは売ってない。
住民は、その「専用フィルター」を買わないと、交換できない。
そのフィルターを販売する会社と、管理会社が、代理店契約を結び、なんと管理会社がフィルターを売っていた。
実際には、管理室にフィルターの在庫を置き、管理人が売っていた。

ということでした。住民は、自分で汎用のフィルターを買ってきて、自分ではさみできって、枠にはまるようにすれば、それでもOKなんですが、住民の大半は「面倒だから、専用のものを買う」ということで、みなさん、必要になると管理室にやってきて購入していたそうです。ですから、管理室に行って、「いつもの、ちょうだい」と言えば、すんなり、フィルターが出てきたんだそうです。

ところが、新管理会社と旧管理会社との間で、そのことに関する引継ぎは行なわれませんでした。また、管理組合も、フィルターのことなど忘れて、管理会社変更をしてしまいました。

なお、前の会社の管理人は、在庫が残ってしまっては困るので、残っていたものを「今、買わないと、買えなくなりますよ」とか言って、全部売り払っていたようです。このため、2ケ月間の間隔があいても、それまでは、購入希望者が出てこなかったのです。


さて、次の理事会で、「悪いけど、新管理会社のほうで、販売業務を引き継いでくれないか?」ということに決まったそうです。それを受けて、新管理会社のほうで、フィルターの販売会社のほうにコンタクトをとったら、以前は、「代理店契約している管理会社(旧)が、2500円で仕入れて、住民に3000円で売っていた」らしいことがわかりました。毎回500円の利益をあげていたのです。
(管理会社が稼ぐ方法はいろいろあるんですねえ)

新管理会社としては、こんなことで儲ける気もないため、「住民サービスの一環で、2500円で仕入れて、そのまま2500円で販売する」ことにしようとしたんですが、新しい管理人さんが「え? 契約外の仕事を無理やり押し付けられて、そのうえ、無報酬はひどいんじゃないですか?」「伝票とか領収書の発行とか、そんな事務作業もしたくないです」と猛烈に反対しました。
そりゃ当然でしょう。入社時に聞いていた労働内容と全然違うものを急に付け加えられるんですから。

そこで、管理会社と管理人と管理組合で話し合い、「2500円で仕入れたものを2700円で販売する。利益の200円は管理人さんの労力への報酬として、管理会社を通さずに、自分のポケットマネーにしてかまわない」「領収書の発行とか、現金出納帳の作成などの伝票仕事はしなくてもいい。決算も、なんの記録も残さなくて構わない」という取り決めが交わされました。

形式上は、「管理人が個人的に副業をしているようなもの」「管理会社としてはノータッチ」ということになりました。

そういうわけで、今、そこのGマンションの管理人さんが「個人として代理店契約をしている」状態になっています。

そこの管理室に行くと、狭い部屋の中に、大きなダンボールが重なっています。
フィルターって、けっこうかさばるし、そこもわりと大型のマンションなので、1ケ月に3〜4人が買いに来るそうで、忙しいそうです。
「200円の小遣いはうれしいけど、管理室がこんなに狭くなると、仕事がしにくくてしょうがないよ」
「仕入れの際に10セット分25000円を前払いしないといけないんだよ。そんな、手持ちのお金ないよ」
「やっぱり、面倒だよ。住民によっては、部屋の中に呼び込んで、交換の作業まで押し付ける人もいるし」
「この仕事断ればよかったなあ」
と今、その管理人さんは嘆いています。

管理人業務には、こんな、「不思議な仕事」もあるんです。

そういえば、私のところでも、管理人が「市民火災共済の取りまとめ先」に勝手に指定されていて、共済金の預かり業務とかやらされています。それも、無報酬でです。本当は管理組合役員の仕事なのに、管理人に押し付けられてるんです。

やってられませんよ。

やっぱり、マンション管理人は超つらいよ。





2011/1