管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「管理費」と「管理委託費」
両者は似てますが全然違うものです。混同しないで下さい。
再整理



2015/5


 
この前のNHKのテレビで「”管理費”と”修繕積立金”の違い」ってのを説明していましたが、

「管理費」と「管理委託費」(「委託業務費」という呼称もあり)の差も非常に大事なんですが、これがわかっていない人が多すぎるのです。

「素人がそんなことわからないよ」と言う人もいるかもしれませんが、マンション管理士などの「頭のいいはずの専門家」といった”玄人”でも混同するのが困っています。


ではまずは、ど素人さん向けにその定義をご説明します。




「管理費」・・・
分譲マンションに住んでいる人が毎月「管理費」として自動引き落としされているお金です。マンションの維持管理にかかる費用に充填されるお金です。具体的には「管理人人件費」「清掃員人件費」などの「管理会社に払っているお金」とか「廊下の電灯の電気代」とか「廊下の蛍光灯の補充交換費用」とか「機械式駐車場のメンテナンス費用」とか「エレベーターのメンテナンス代 電気代」(これ、すごい大きいです)とか「理事会の席上で配布されるペットボトル飲料の購入費用」とか「強制加入が義務づけられている地元町内会の会費」とか「理事会に出席した役員に支払われる役員報酬」とか「共用部の植栽の管理の費用」とか「ゴミ置き場のフェンスが壊れたから修理したといった小修繕費用」とか「防犯カメラやAED機器のリース料」「マンション保険の掛け金」「住民同士のコミュニティ活動にかかる費用」・・・、いろいろあります。マンションをひとつの「家庭」として考えた場合の「生活費」というふうに認識して下さい。

※なお、実際に銀行口座から引落しされているのは、「管理費等」となっています。これは「管理費」&「修繕積立金」&その他(「駐車場利用料」「バイク置き場利用料」「ルーフバルコニー使用料」「1階専用庭使用料」などがある)の合計を示す用語です。
古くて、修理ばかりしているマンションでは、実際には、管理費よりも修繕積み立て金の金額のほうが大きいことがよくあります。また、良心的な管理組合では、分譲会社が設定した初期設定の修繕積立金を一気に3倍に値上げするところもあり(=適正価格にしただけの話で、暴挙ではありません)、いずれにしろ、「まともなマンションであれば、管理費よりも修繕積立金のほうが金額が大きい」場合が多数ですから、私の感覚では「修繕積立金等」としたほうがいいんじゃないの? と思っています。とにかく、「管理費等」という用語はあまり良いものではありません。「修繕積立金の重要性を低くする」悪影響があると考えます。

「管理委託費」・・・
これは、「管理組合」が「管理会社」に、管理業務を委託するために払うお金になります。管理会社によっては「委託業務費」とか「総合管理費」なんていう用語を使うところもあります。
管理委託費の内容は、一番大きなものは「管理人人件費」「清掃員人件費」です。管理会社の「儲け分」も大きいです。エレベーターの管理や、機械式駐車場の管理、雑排水管清掃などを管理会社に任せている場合は、その費用も「管理委託費」の中に入ってきます。(管理委託費の詳細な内訳を公表しない管理会社もあって、「一般管理費」という項目が実は管理会社の儲け分だったりして、わかりにくい面はあります。明朗会計をしている管理会社では、いろいろな費用の総額に、ホテルのサービス料みたいに、10%を加算して、「この10%が管理会社の手数料です」としているところもあります。ボッタクリ会社の場合は、これが20%とか30%だったりするわけです)
いずれにしろ、共用部分の電気代とか、自動ドアが壊れた際の修理費とか、マンション保険の保険料、そういうのは、管理委託費の中には入ってきませんので、
管理費と管理委託費は、重なる部分は大きいものの、「完全に同一」というものではありません。


ややこしいのは両者の金額です。

(内容ではなく金額だけの話をします)
普通の感覚では、住民からもらった「管理費」の中から、電気代とか管球費とか、修繕費なんかを抜いた、残りのお金を管理会社に「管理委託費」として払っているのではないか? だから、「管理費>管理委託費」ではないか? と思います。具体的に言うと、「管理費収入 年間合計1000万円」のうち「700万円」を「管理委託費」として管理会社に払っている、とかです。

でも、そうじゃないことも多いのです。
「管理費=管理委託費」というところもありますし、「管理費<管理委託費」というところもあるのです。

「え? だったら、電気代とか払えないじゃない?」と思うでしょう。
このへんがややこしいのですが、ここで登場するのが「駐車場料金」でして。これがクセモノです。



新しいマンションでは駐車場料金無料とか「1000円」とか、そういう激安のところもあります。(平置きではなく、機械式駐車場で、電気代とかメンテナンス費用や更新費用がかかるのに、それを無料にするってことは、駐車場を利用していない人からも、駐車場の維持管理費用をとっているということであり、不公平だと思います)
ただ、一般的には5000円とか1万円とか、都心部では3万円とか、そういうある程度の大きな料金を取っているわけで、駐車場が何十台分もあれば、それなりの大きな金額になります。それを「管理費収入の赤字分」に充当して、高額な「管理委託費」を支払うのです。

一例をご紹介すると、年間計算で
「管理費収入 1500万円」+「駐車場料金収入 300万円」=「合計 1800万円」
「管理委託費 1600万円」
「残りの200万円で電気代等を支払う」
「最終的に、収支はトントンで次年度に繰越できない」
なんていうマンションがあります。

というか、マンション分譲会社の初期設定はたいていこうなっています。最初から「数年後には破綻するよ」という会計の計画を立てているのです。ひどい話です。

ここでは、管理委託費が管理費を上回っています。ボッタクリと言ってもいいかもしれません。このマンションは新築時はこれでなんとかやっていけると思いますが、築10年をすぎて、あれこれと痛みや不具合で出てくると、修繕やメンテナンスの費用が足らなくなり、管理費会計は早々に破綻することが予想されます。

また、現在はアベノミクスの大失敗。消費税増税で、貧乏になり、「車を手放す人が増えて、駐車場に空きが出ている」というマンションが大量に発生しています。うまく外部貸しできない場合、「空き駐車場」の存在は、そのまま「収入源」につながります。となると、「管理費会計は赤字」に転落します。

当マンションの場合、老朽化であちこちボロボロなので小修繕費もかなりかかるため、上記マンションのような金額体系ではとても無理です。

当マンションでは、「管理費の7割が管理委託費に回る」「駐車場は平置きで維持管理費用はほぼゼロ円」「駐車場収入は全額を修繕積立金へまわす」ということをしています。このため、健全な会計であり、修繕積立金の財政も比較的潤沢で、大幅な値上げなどはいまのところ不要です。


 ちょっとややこしい話をしましたが、とにかく、「管理費」と「管理委託費」は違うものということを理解して欲しいのです。
 しかし、それをわからない人は非常に多くて。


http://rijichosan.blog.fc2.com/
理事長さんブログ
私が指摘したので今は直ってますが、この理事長さんも、「管理費」と「管理委託費」の区別ができない人で、「管理費を50%削減した」ってずっと書いていて。困ったもんです。管理費の削減は総会の特別決議がないとできないのに、「管理会社との交渉で管理費を半額にさせた」とか書いてました。正確なのは「管理会社に払う管理委託費を半額にした」ということで、住民から徴収する管理費の金額は変更していません。

そして、それに関わった、ベテランマンション管理士さんも、そのブログ記事の中で「管理費」と「管理委託費」を混同していて、「これでもプロかよ?」と情けなくなりました。

でもって、今話題になっている、大和ライフネクストの問題が出ているサンケイ新聞の記事がこうです。

大和ハウス子会社、マンション管理業務の委託先変更を「妨害」

産経新聞 5月12日(火)7時55分配信

 ■匿名ビラ・戸別訪問・反対質問集も

 東京都内の高級マンションの管理を委託されていた大手管理会社が、委託先の変更を決める臨時総会前、変更に反対する匿名のビラの配布や委託継続を要請す る戸別訪問をしていたことが11日、関係者への取材で分かった。マンション住民でつくる管理組合側は一連の行為について「妨害工作だ」と反発。管理会社は 事実関係を認め、「一部の住民の要請を受けて行った部分もあるが、配慮が足りなかった」としている。

 このマンション管理会社は大手住宅メーカー「大和ハウス工業」(大阪市、東証1部上場)の子会社「大和ライフネクスト」(東京都港区)。このマンションには約200戸が入居し、管理費は年間3200万円に上る。

 関係者によると、マンションでは、トラックが外壁を破損した事故の後処理で不手際があったことなどから、管理会社の変更を決める臨時総会を1月に開催す る予定だった。しかし、同社が派遣する管理人が事前に「私は変更には反対」「変えれば必ず問題が起きる」などと書かれた匿名のビラを住民の郵便受けに投函 (とうかん)。反対を依頼する住民リストを作成し、同社社員と戸別訪問していた。同社に有利な総会向け質問集も作り、反対派住民に渡した。

 管理組合理事会がビラ配布や戸別訪問を防犯カメラの映像などで確認し、総会で報告。管理会社の変更が議決され、4月に別の大手管理会社が管理を始めた。

 大和ライフネクストは産経新聞の取材に「(委託先変更の)反対派住民が作ったビラをコピーして配布するよう頼まれた。質問集は問い合わせをまとめたも の。投票呼びかけも投票率向上のために過去にも行っていたが、それまでのお付き合いもあり、一部の住民には継続をお願いした。配慮が足りなかったかもしれ ない」としている。

 住民からは「(一連の行為は)明らかに委託業務の範囲を超えている。自社の利益を図るために総会の公正性を損なう妨害工作だ」との声が上がっている。

 マンション管理士の資格を持つ桃尾俊明弁護士は「マンション管理適正化法では、管理会社は管理組合への誠実義務がある。管理委託契約の変更のように住民 の意見が分かれる場面で、一方に肩入れするのは公平性を欠き、立場上よくない行為だ」と指摘。一般社団法人マンション管理業協会は「一般論として、住民リ ストの目的外使用は管理組合理事会の了承を得るべきだ。理事会を通さずに管理会社単独で動くのは軽率だ」としている。

 同社は昭和51年創業。平成21年に大和ハウスグループ入りし、全国約23万戸の分譲マンションを管理する。信用調査会社によると売上高で業界7位の大手。

 この文章の中で「管理費は年間3200万円に上る」と書かれています。これについてはサンケイ新聞さんに直接問い合わせたところ、「管理委託費」ではなく、「管理費」で間違いないそうです。
 でも、この記事の趣旨からしたら、管理費の金額はどうでもよく、管理会社に支払っている金額を明示することに意味があると私は思います。200世帯で年間3200万円の管理委託費はかなり高額だからです。


次に、このサンケイの記事のもとになったと思われる記事を発見しました。
http://www.mynewsjapan.com/reports/2147

◇3300万円の管理費、積算根拠は不明で内訳は「コピペ」
 こうした大和の一連の対応に対し、竣工以来、同社に毎年約3300万円の委託管理費を支払ってきたマンションAの管理組合理事会では、同社に管理委託費の内訳とその算定根拠を示すことを要求した。

これがまたややこしいのです。小見出しでは「管理費」と書いてあるのに、本文では「委託管理費」と書かれています。まあ、でも、「同社に払ってきた」という文ですから、これは「管理委託費」のほうが正解だと思います。

だとすると、サンケイの記事が間違いってことになります。(もしかすると、このマンションでは、管理費と管理委託費がたまたま、まったく同一なのかもしれませんが)



いろいろ書いてきて、読者の中には、「そんなのどうだっていいじゃねえか? 意味ねえだろ」って言う人もいるかもしれません。でも、我々にとっては大事なことなんです。

というのも、マンション住民は、バカな人が多く、「管理費」も「修繕積立金」も「駐車場代金」も、なんでもかんでもひっくるめて、それが全部、「管理会社」に支払われているものだと誤解している人が多いのです。だから、「管理会社はものすごく儲かっているはず」と勝手に思い込んでいます。こういう人は「管理組合」と「管理会社」の区別もできませんが。

でもって、管理室に来て、管理人や管理会社への苦情を云う際に、「うちは毎月2万円もお前の会社に払っているのに、その態度はなんだ。自分のマンションの中の土地に、車を2〜3日とめたっていいだろ!」とか開き直るんです。(駐車違反だよ! ボケ)
実際には、管理会社に払っているのは、この人の場合、6千円くらいだと計算されます。そのうちの2千円は大手エレベーター会社に持って行かれるし。6千円を2万円って言われてもねえ。こっちはほぼ最低賃金で働いているのに。サービス残業もして。


というわけで、私個人は「管理費全部を管理会社がもらっているわけじゃない!」「いっしょにするな!」と強く有権者の皆さんに訴えたいわけです。(by ナイツ 塙)

というわけで、アホなマンション管理士事務所が、「当事務所が関わったことで、Aマンションでは管理費を50%削減しました!」とかHPによく書いてますが、「お前、ほんとにそのマンションの管理費を下げたのかよ? 下げたのは管理委託費のことで、住民から自動引落している管理費をほんとうに50%下げたのか? 普通は管理委託費の削減分は積立金会計に回して、積立金の赤字を補填する方法にしているマンションが多いんだぞ」と指摘したいわけです。


追記:本記事を補足する意味でも、2015/8に書かれた、はるぶーさんのブログ記事も併読されることを強くおすすめします。