管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

経年劣化による漏水事故 加害者意識のない加害者
そして、責任の所在 負担は??



最近は、上記のようなサヤ管を使うマンションが多く、漏水のリスクが少ないのですが、当マンションのように古いところは、昔の銅管(=給湯管)なので、事故が多いです。

 当マンションも古いのですが、近くに「築27年」というマンション(根本的な給排水管更新をしていないまま)があり、そこでは、ここ2〜3年の間に、「水道管 老朽化による漏水事故」が頻発しており、管理人さんがとても苦労されています。私のところも漏水事故が多く、お互いに、昼休みにグチを言い合って、慰め あっています。

 漏水事故で困るのは、「漏水を起こした当事者である、上の階の住民に加害者意識がない」ということです。

 下の階の天井から、ボタボタ、雨漏りのような漏水が起こっても、上の階に住んでいる人にはなんの関係もありません。マンションの漏水事故のトップ原因である、「全自動洗濯機の蛇口を開いたままで、留守中に、その蛇口が水の圧力で外れて、水が大量にあふれ、その水が階下 にしみて落ちていく」といったものですと、自分の部屋も水浸しになっていますし、蛇口を閉めていなかったという「過失」がありますから、加害者としての意 識を持つのですが、自分の部屋の床下で起きた「水道管からの漏水(経年劣化で、穴があいたり、継ぎ手部部分から漏れたり)」というのは、自分の目で見えな いこともあり、なにか他人事になってしまいます。
 また、こういう漏水は、あくまでも事故であり、階上部屋の人に責任があるわけでもなく、要するに、「アンラッキー」というものであり、立場上は加害者になるものの、本人の意識の中には、ほとんど加害者とは思わない人が大勢います。無理もないです。

 先般、こういう漏水事故があった際、天井から水が漏れ出している部屋からのSOSを受けた、そのマンションの管理人さんは、すぐに、上の階に急行し、その 時は奥さん一人だったのですが、「階下で漏水が起きています。すいませんが、メーターボックスの中の水道の元栓を締めさせて頂きます。」と断って、元栓を 締めたそうです。
 この「元栓を締める」という行為は、マンション業界の中では「常識」「イロハのイ」とも言えるものです。(ちゃんと研修を受けていれば)100人中、100人の管理人がそうするでしょう。

 そして、その管理人さんは、「これから、急いで水道工事業者を手配しますが、現時点ではいつくるかはわかりません。また、来たとしても、どこから漏れているか探すのに時間がかかり、すぐに直せるもので はありません。しばらくの間、元栓は締めたままにさせていただきます。トイレなど、どうしても水を使う際は、その時だけ、瞬間的に水道栓を空けて使用して 下さい。ご不便をかけますが、緊急事態ですので、よろしくお願いします」と、丁寧に説明し、その奥さんに指示をしました。

 その後、夕方に水道工事業者が来て、いろいろ調べたそうですが、その日の調査では、原因はわからずしまい。ただ、とにかく、どこかの水道管に漏れがあるようで、引き続き、 「元栓は締めたまま」「必要な時だけ、部屋の外に出て、元栓をあけて、水を使用する」ということで、いったん、業者は引き上げました。

 その翌朝、その奥さんのご主人が管理人室にどなりこんできて、「おまえなあ、メーターボックスというのは、俺のものなんだ。水道局員以外が元栓をとめると いうのは、違法行為なんだよ。管理人であろうがメーターボックスを開けてはいけないんだよ。俺は昔、市の職員に知人がいたから、よく知ってるんだ。元栓をしめたら生活ができ ないじゃないか? この責任をどうとってくれるんだ。警察に訴えることだってできるんだぞ!。だいたい、漏水なんてのはな、排水管で起きるんだ。上水道を とめてどうするんだ」と脅迫されたそうです。

 また、このご主人、階下の被害者に対しても、あやまるどころか、「おまえのおかげで、うちは大変だぞ」と文句を言いに行ったそうでして・・・・。 階下の被害者は、てっきり「謝罪に来たのだろう」と思って、ドアをあけて対応したのですが、逆に怒られたということで、「なんで、被害者の私が加害者のあの人から怒られなければいけないんですか! 責任はむこうでしょ!」と、この人から管理人が抗議を受けたそうで・・・・・

 管理人はどっちからも怒られてしまうのです。かわいそうでした。「今日は食欲がないんだ」としょぼんとしています。研修で受けた、マニュアルどおりの正しい対応をしたのに、怒られるんですからたまったもんじゃないです。

 この加害者、気持ちはわからないでもないですが、言ってることが完全に破綻しています。頭おかしいです。マンションの漏水事故の大部分は、上水道で起きているのは常識だし(圧力がかかってま すから)、メーターボックスは、共用部分だし、「水道局しかあけてはいけない」なんていうのはウソだし、元栓とめないで、被害が拡大し、階下のそのまた階 下に被害が及ぶ心配もあるし。

 とにかく、「まず最初に、元栓を締める」というのは、火事の際に、「まず、消火器」と同じくらい「基本」です。

 まあ、自分のことを加害者と認めるのは、なかなか納得できないとは思いますが、こういう行動はいけません。こんなのを相手にする管理人は頭が痛いです。

 うちのマンションでは、幸い、ここまで頭のおかしな奴はいませんが、とにかく漏水事故は、完結までに意外と時間がかかり、管理人の仕事は大変です。管理人にとっても「災難」です。


<復旧工事の費用の負担はどうなるか? 床下配管は専有部分なのか共用部分なのか?>


 まず、一般的には、たいていのマンションは「マンション保険」というものに入っており、その中の「個人賠償特約」にも入っているのが普通です。(古いマンションなどで、加入していないマンションは、」今すぐに加入するほうがいいですよ)  この保険により、「原因特定のための調査費用」や「階下住居に与えた損害」は補償されます。(特約の詳細内容によっては、調査費用が入っていない場合もあるそうです。調査費用は意外と高額なので要チェック。)

 しかし、問題となるのは、漏水を発生させた、階上の住居のほうです。これは、ご本人は「自分こそ被害者だ」と思うでしょうが、形式上は「加害者扱い」となります。加害者の損害や補修復旧費用は、上記保険では補償されず(被害者救済のための保険だから)、その費用は、階上室の所有者に請求されるのが一般的です。(このため、「階下の部屋の修理工事のための、調査作業を階上の部屋でやった」という名目で、上の階の部屋の補修工事の費用を保険請求することがあります)

 このときの根拠が、「メーターから先の、専有部分の床下に配置された配水管は、専有部分扱いである」という理論です。これは、法律上に明文化されているわけでもなく、管理規約でも、はっきり記述していない組合が多い(これが大きな問題)のが普通なのですが、「一般論」としては、そうなっており、保険会社も同様に解釈しています。

 しかし、ネットで調べた裁判例をひもとくと、「床下の空間内に配置された管であれば、比較的容易にメンテナンスできるが、築20年以上の古いマンションの中で多く採用されている広報である、コンクリートの中に埋まった配水管のメンテは、その部屋の所有者には困難であり、このようなコンクリート内部の配管は、共用部分と考えるのが妥当であり、そこの事故は管理組合で責任を負うべき」としている例もあるそうです。
 また、古いマンションの中には、「階上室の水道の配管が、床下コンクリートスラブの、そのまた下の、階下室の天井裏にある構造」というのもあり、これも、物理的に、階上室の所有者がメンテナンスをするのは不可能であり、「専有部分とは考えず、共用部分と考えるのが妥当」なんだそうです。

 当マンションの場合も、上記判例を根拠にしたのかどうかわかりませんが、「床下コンクリート内部の配管の事故の場合は、管理組合負担」、「床下コンクリートよりも上にある部分からの漏水(お風呂場の給湯蛇口の裏側の、継ぎ手部分からの漏水など)」は専有部分の事故なので、その部屋の所有者の負担」といったふうに、区別しているようです。ただ、管理組合負担といっても、保険業者的には、どんなケースでも、漏水発生箇所に関する費用は、賠償責任ではないもので、保険ではカバーできず、管理組合が「予備費」などの会計からお金を支出しています。無論、「洗濯機から水が溢れ出した」といった、過失がある場合の漏水事故は、ご本人に費用を負担してもらいます。

 こういったことも、規約や細則で明文化しているわけではなく、ある期の理事長に、当時のフロントが知恵を与えて、その後の「慣習」としたもので、正式なものではなく、出入りの水道業者の意見を聞きながら、そのときどきのフロントと理事長が判断しています。

 ところで、漏水事故の場合、「いくら調査しても、結局、原因がわからなかった。そのうちに漏水が止まったので、原因不明のまま、それでよし、と調査が終わってしまうこと」も、たまにですが、ありうることです。この場合は、区分所有法9条を解釈して、「原因がわからない場合は、共用部分からの漏水と判断する」ということになっているそうです。「みんなで助け合おうよ」という考えなんだと思います。

 ただ、私が、経験にもとづいて、個人的に考えるのは、

「通常は目に見えない。点検のための点検口があるわけでもない」、そういった、「居住者が日常点検をできないような場所にある配管」、そこからの漏水に関しては、「共用部だから」「専有部分だから」といった区分ではなく、「マンションの管理組合全体で、そういった不可抗力な事故に対する互助意識」から、「全額、管理組合負担で工事する」というふうに規則で決めてしまうほうがいいと思います。
(もちろん、個人の過失がある場合を除きます)

 
要するに、毎月払っている管理費の中に、「事故に対する保険料を払っている」ようなものである、という考えです。「施工不良」(業者に請求できるものは請求するが、老朽マンションではまず無理)とか「経年劣化」による、漏水事故というのは、やはり、個々の住民に責任を問えるものではなく、「いつ、自分の身にふりかかってくるかわからないのだから、お互いに助け合う」という考えで、規約内に盛り込むのはいいんではないでしょうか? 当然、組合の年次予算にも、こういった事故に対する予算を計上しておくのがいいでしょう?

 まあ、全額管理組合負担だと、「自己負担が無料だと思って、汚れていないクロスの交換まで要求する悪質住民もいるかもしれないよ」と、異論がある人もいるでしょうから、健康保険みたいに、「3割は自己負担。7割は管理組合で負担する」といったシステムでもいいかもしれません。

 とにかく、ネットで「漏水事故」と検索すると、「どこに責任があるのか? 費用負担は誰にあるのか?」「床下配管は専有か共有か?」といった議論が展開され、そのいずれも、法律上の解釈と、住民としての意識の差が大きく、みなが納得できる明確な答えが出ておらず、ケンケンガクガクです。まあ、法律がはっきりしていないから、仕方がないんですが。

 法律が明確ではないのなら、デベロッパーとか管理会社とか、マンション管理士の団体とか、そういうところが音頭をとって、「管理規約を改正し、床下配管の事故は、組合で対処する」という項目を加筆するように、運動してもいいんじゃないかと、私は思います。

 毎回、もめているのを見ているので、すっきりしてもらいたいです。そうじゃないと、安心して住めないし。

 どんなものでしょうか? 



2010/1