管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

孤独死
高齢者問題の縮図がマンションにある





 いつも言いますが、この仕事を長年していると、つくづく、「マンションって、社会の縮図だなあ」と感じます。今回は高齢者問題です。

 このマンションのように築年が古いと、大勢の高齢者がいます。それでずいぶん苦労しています。今回問題となったのが「高齢者の一人暮らし」です。これが10人以上いらっしゃるんです。以前も同様のことがあったのですが、再度起きました。

 12階に住むAさん。実は、失礼ながら一度もそのお姿を見たことがありません。週に2回、ヘルパーさんが来ているので、存在していることは把握しています。
 ある日、そのヘルパーさんが管理室に来て、「Aさん宅に来たんだけど、インターホン鳴らしても返事がない。しかし、(廊下側にある)電気メーターは、(夏なので、エアコンとか大容量のものを使用しているかのように)グルグル回っている。旅行に行く予定もないのに、新聞が2〜3日分、新聞受けに無理矢理差し込まれている。もしかして、何かあったのかも? 管理人さん、マスターキーは持っていないの?」とのこと。
 「マスターキーはないよ」といいつつ、やはり心配なので、いっしょにそのお部屋へ。ドンドンと部屋のドアをたたくが、返答はなし。大きな声で呼んでも、返答なし。今日はヘルパーさんの日だから、当然、来訪を待っているはず。失礼ながら、新聞受けから新聞を抜き取り、中をのぞいてみると、よくは見えないが、部屋の中は電気がついている様子。なんかいやな予感がします。

 ヘルパーさんは、自分の会社の所長に電話をかけて、なにやら相談しています。その後、その所長から私のほうに電話がありました。「もしかすると、中でAさんが倒れているかもしれない。警察に電話をかけてもらえないですか?」 なんで私が電話をかけないといけないのか、よくわかりませんが、福祉の専門家がそういうので、とりあえず、110番。
 いつものように、電話をかけてから30分くらいしたら(遅すぎる。警察は人命をなんだと思っているのか!)、おまわりさんが、バイクでノコノコやってきました。私のほうは待っている間に、「親戚などがいないか、名簿を調べる」、「名簿には載っていなかったので、マンション内の隣近所の部屋を訪ね、緊急時の連絡先を知らないか、たずねる」、「知っている人が誰もいないので、理事長に連絡し、”警察の指示があったら、鍵屋さんを呼んで、鍵をあけてもらって下さい”という指示を受ける」「なじみの鍵屋に電話して、”すぐに来れるか”事前確認をしておく」といったことを済ませておきました。

 たよりない警官も、「鍵をあけて確認したほうがいいですね」と言ったので、鍵屋に来てもらい、開錠。このとき、すでに、最悪の事態に備えてか、警官の数も増え、事件性にも考慮して、鑑識?と思える人もスタンバイしてました。

 ドアがあいて、警官が中へ。

 残念なことに、Aさんは寝室でなくなっていました。ヘルパーさんによると、前回訪問した際に、かなり具合が悪そうで、心配していたそうです。そういうわけなんで、警察がご遺体を簡単に調べて、病死ということで処理されました。119通報もできずに、そのまま死亡したようです。そして、死後3日経過していたようです。エアコンがつけっぱなしだったため、腐敗はそれほどでもなかったようです。テレビドラマ「臨場」みたいな感じでした。
 私は、中に入るのも嫌だし、死んだ人を見たい気もないので、あとはすべて警察に任せて引っ込みました。

 管理組合の役員さんと「どこか、連絡先はないのかなあ?」「子供もいないようだし、ずっと一人だったみたいだけど、身よりはないのかなあ?」「天涯孤独な人だと、今後どうなるんだろう? 葬儀はどうするんだろう? 無縁仏になっちゃうの? 部屋とかの遺産の処理は?」などと、せちがらい話をしていました。管理会社としては、後始末のことを考えなくてはいけませんから。

 そんな心配をしていたところ、警察が役所の福祉課の連絡を取り、「実の妹さんが隣県にいる」ということが判明し、警察のほうで、その妹さんに連絡をとってくれました。(警察もたまには役に立つことをします)  なるほど、福祉サービスを受けている人だから、そういう記録が役所にあるんですねえ。

 その後、その妹さんがご遺体を引き取ってくれました。そして、その部屋はすぐに売却になりました。
 
 自殺とか強盗に殺された、というケースでは売買の際に、「必要情報」として、「重要事項説明」の際に買い手に伝えなくてはいけないそうですが、病死の場合は、言わなくてもいいそうでして。扱った不動産業者さんには、「管理人さん、買い手の人が見学に来たときに、余計なことを言わないでね」と釘を刺されました。私も、早く、別の人に入って欲しかったので、それに従い、緘口しました。

 妹さんも、部屋の売買で儲けるつもりはないため、安値で設定していて、おそらくすぐに売れるでしょう。

 ただ、個人的には、「こういう事情なんだから、リフォームをきちんとしてから売った方がよかったんじゃないのかな?」と、ちょっとひっかかっております。畳とかそのままなんですもん。

  それにしても、この妹さん、「兄に会うのは15年ぶりです」とか言ってました。Aさん、ずっと一人で寂しくなかったのでしょうか? いろいろ考えさせられます。それでも、「天涯孤独」ではなく、親族がいただけよかったとすべきなのかもしれません。

 この事件のあと、私から理事会さんのほうに「高齢者に限らず、一人暮らしの方の場合は、緊急時連絡先名簿みたいなものを作っておくべきではないでしょうか?」と、提案させていただきましたが、予想通り、「個人情報保護法なんたら」で、お流れになりました。作ったほうがいいんだけどなあ。



2009/7