管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 上下階トラブル  騒音 振動
フローリングについて
 




                      

 最近のマスコミにはマンション関連の話題が多く載るようになってきました。関心を持つ人が増えているんでしょう。ちなみに、東京都心では「過去最高の供給戸数更新」とか言ってます。都心回帰によるマンション建設ラッシュのようです。

 マスコミでマンション問題を取り上げる際に、最も多く載るのが、「ペット」、そして次は「騒音問題」ではないでしょうか? 以前にも書いたことがありますが再度。


 遠くて近きは男女の仲。なんていいますが、マンション内で”遠くて近い”のは、上下階の部屋です。両隣なら、日ごろ顔を合わせることはありますが、上下というのは接触することがほとんどありません。上の階で布団で寝ている人の頭と、下の階で立っている人の頭は、最短で1メートルくらいに接近することがあるというのに、実生活においては、まったく顔を会わせない人も多いのです。(ドリフの「全員集合」の張りぼての家だと、その近さがはっきりわかるんですが)

 さて、ある土曜(8月)の昼下がり。普通の人は休みですが、管理人は働いています。「なんで土曜日なんかに・・・」とヘソを曲げてはいるものの、土曜日というのは貴重な曜日です。というのも、勤め人など、ふだん平日では顔を会わせない人と会うことができるからです。今年の理事長は会社勤めのため、直接話ができるのは土曜日だけです。奥さんは主婦で、いつもいるんですが、「私は管理組合のことはまったく無関心」と宣言して、何か急用で伺っても、「主人がいないからわかりません」と門前払いです。急ぎの車庫証明発行など、「ハンコだけ代わりに押してくれませんか?」という時も、「だめです」とむげに断られます。

 さて、今日は理事長のほうから、管理人室にやってきました。世間話程度かな? と思ったのですが、「実はお願いがあるんだけど・・・」とのこと。なにやら、住民間の騒音トラブルが理事長に持ち込まれたようです。というか、2週間前に私が「専有部分内のことは管理会社は関係ないです。」と断ったため、理事長のところに相談に行ったようです。それが結局また私のところに戻ってきたというしだい。業界内で「ブーメラン」と言われる現象です。

 理事長に対しても、「専有部分内のことですから・・・・」と断ったのですが、「そういわずにさあ。私もこういうの苦手なんだよ。それに、双方ともうちにやってきて、大声で騒ぐもんだから、家内も怒っちゃって。助けてくれないかなあ・・・・」と懇願されてしまいました。

 (「ふざけるなよ、そんなの俺の仕事じゃねえよ。激安給料でそこまでやらせるのかよ。こういう問題はすごい難しいんだよ」と思いつつも、何度も頭を上げる理事長の熱意にほだされて) 「とにかく、事情を説明してください」と聞くことにしました。(ほんと、私、お人よし) 「じゃあ、被害者のAさんを呼んでくるから直接聞いてくれない?」 数分後 階下部屋のAさんがやってきました。

<状況>
○Aさんは昔からこのマンションに住んでいる夫婦。子供はいない2人暮らし。定年間近のサラリーマンと主婦。

○階上部屋のBさんは、今年の1月に入居してきたばかり。30代の夫婦と幼稚園と3歳児の子供の4人家族。

○以前より、騒音(おそらく子供の足音)が気になっていたが、この夏のお盆の頃がひどく、夜遅くまでうるさくて眠れなかった。お盆を過ぎた今でも時々うるさい。夏休みのせいか、朝からうるさいこともある。

○お盆の時に直接苦情を言いに行ったが、「そんな騒音は起こしていない」とBさんは否定。逆に「神経質なんじゃないの?」と反論され、怒っている。

 こんな感じです。

 騒音って、客観的に判断するのが難しいです。たしかに異常に神経質な人はいます。以前も相談を受けたことがあって、「かなり気を使って静かに暮らしているのに、しょっちゅう階下の人から、”うるさい!”と怒られるんです。どうしたらいいんでしょうか?」と泣きつかれたことがあります。
 この時は、階下の人が精神障害で、本当に異常に神経質で、自分の家庭内での食器の音とかでも怒るらしく、奥さんが殴られたりしていて、家庭内が崩壊し、奥さんは逃げていき、ご主人もそのあと転居しました。管理人としては無責任に、「よかった。出て行ってくれて。これで解決」というところでした。

 今回のAさんBさんは、個人間ではかなりこじれてしまっているようで、当事者同士の話し合いでは解決しそうがありません。まあ、とにかく「本当にうるさいのかどうか」、これを調べなくてはいけないので、「私が勤務している時間にもし騒音が発生したらすぐに教えてください。私が聞きに行きます」とお願いしました。

 そうしたら30分もしないうちに、「管理人さん、今すごい音がするの。来て」との電話。
 行きました。たしかにすごい音がバタンバタンします。「こりゃひどいなあ」「ねえ、そうでしょう、ひどいでしょう?」「確かにひどい音と振動ですね。このマンションは上下の境のコンクリートスラブは薄いし、二重床でもないから音が響きやすいんだけど、これはひどいねえ」
 「そうでしょう。ねえ、管理人さんからも上の人に苦情を言ってくれません?」(この間いろいろと問答を繰り返し)「う〜ん、わかりました。いっしょに行きましょう」

 Aさんをちょっと離れた場所に置いて、最初は私だけでインターホンを通して話しました。やはり、「音なんか立てていない。相手が神経質なんだ」という主張です。でも、インターホン越しでも、子供たちが暴れている音が聞こえてきます。この様子じゃ、階下だけでなく、両隣も大変そうです。「Bさん、このマンションの防音性能は低いんで、音が響きやすいんです。ところで、Bさんの部屋ってフローリング工事とかしてます? こんなに響くのはカーペットでは考えられないんですけど」 (このマンションはもともとカーペット敷きでフローリングはない。12〜3年前にフローリングが流行ったときにあちこちでリフォームが行なわれ、それに伴い、騒音トラブルもひどかったらしい。そのため、使用細則でリフォームの規定が追加されている) 「え? 引越しの時にフローリング工事しましたけど」 「でも、Bさん、リフォームの申請書出してないでしょ?」「なにそれ?」(おいおい、こういう奴かよ。どうせ、管理規約も使用細則も読んでないんだろうなあ。日曜にリフォーム工事やられると管理人も把握できないし) 「”なにそれ”じゃないですよ。リフォームは届出と理事長の承認が必要です。フローリングにも規定があります」「そんなの知らない。業者に任せたから」

 私も頭にきてしまい、「ちょっと中に入らせてください。フローリングを見ますから」と、中に入りました。フローリングの等級というのは、踏んだ足の感触である程度わかります。(私の自宅を以前フローリングにした時に、モデルルームみたいなところで、等級の差を実感できる装置があったので) 案の定、宍戸錠、安物の低等級を使っているようです。それに、部屋の中での子供のドタバタ動き回る様子、ひどいもんです。遊び盛りだからしょうがないとはいえ、他人の迷惑を教えこまなくてはだめです。

 「奥さん、このフローリング、何等級ですか?」「とうきゅう? 東急って電車のこと?」「違いますよ。遮音性能の段階のことですよ。」「東急ストアの謝恩セール?」「違いますよ・・・・・・・ (素人向けに細かく解説。この人、東京から引っ越してきたみたい)」

 「とにかく、奥さんとこ、リフォームの申請はしてないし、規約に決められた”L−45等級以上の物を使用”に従ってないし、違反ですよ」「そんなの知らなかったんだもん」「知らないっていう言い訳は通用しませんよ。”規約を遵守します”という誓約書にサインしてるでしょう。」「あれは、不動産屋が、”これにサインして”っていうからしただけです」「あなたは、文面も読まないでサインするんですか?」「いや、あのう」・・・・

 「奥さんね、一度、自分が発生している音がどれだけのものか、体験してみたらどうですか? 今からAさんの部屋に行って、実際に聞いてみてください。」 「(Aさんが顔を出す) そう、ぜひそうしてよ。聞いてみればわかるから。キテキテ」

<Aさんの部屋>  Aさん夫婦と、Bさんの奥さん、そして私。私は電話でBさんのご主人とオンライン状態。「ご主人、さっき、おたくのお子さんがやっていたように、椅子の上から床にドスンと飛び降りさせてください。」「は、はい、わかりました」

DoSuuuNN!

「あらら、ずいぶん響くのね。知らなかった。でも、子供が家の中で遊ぶのなんか当たり前でしょう」「奥さん。当たり前かもしれないけど、これだけの音を下に響かせちゃだめでしょ。」「(Aさん) そうですよ、うちはいつもこの音に悩まされていたのよ。お盆の頃なんか、本当にすごくて・・・」「お盆? あ〜、田舎の親戚の子供が泊まりに来てたから・・・」


 このあと、Bさんに頼んで、リフォームをした時の見積書を見せてもらいました。等級はL−55でした。Bさん、フローリング代金けちったようです。証拠がはっきりしましたので、理事長に頼んで、理事長名で 「フローリングの張替え工事命令」を出しました。当然、Bさんは「そんなお金ないわよ」とつっぱねたため、理事長が間に入って、「フローリングの上にカーペットを敷く。子供の行動には十分に気を使う」ということで決着しました。私も疲れました。加害者側というのは、えてして、自分のやっていることがわかりません。(太平洋戦争での日本の侵略行為も日本側はよくわかってません) 被害者側に立たないと真実はわかりません。特に音というのはなかなか、出しているほうはわからないものです。

 今回のものとは別に、「讃岐うどんが大好きで、自宅で手打ちうどん作るようになって、ドスンドスンとうどんを叩きつける音が階下に響いて、揉めた」というのもありました。本人はうどん作りに夢中で階下のことなど、気にも留めません。

 とにかく、いろんなトラブルがありますよ。できれば、管理人とは関係なく解決して下さいませ。お願いです。


参考 <フローリングについて>

 フローリングの遮音性能は「L40」や「L45」(エル)などのL値で表され、この数値が小さいほど音が伝わりにくく、遮音性能に優れた商品になります。一番安いのはL80というものがあります。当マンションでは「L45以上のものを使うこと」と定められています。他のマンションでも、ほとんど同じようです。「遮音性能の高いもの」といった抽象的な表現では意味がありません。具体的な等級を書いてくれると、こちらも説明しやすいです。管理人としても、あとあとのトラブルを防ぐために、リフォームの申請が出た時は、「L45以上ですよ」と確認をします。申請してくれればの話ですけど。

 フローリングは騒音が問題になったときにいったん下火になったんですが、最近は、ダニアレルギーなどの問題で再び「カーペットはよくない」と言われ、また流行っているようです。ペットによるアレルギーもかなりひどいですよ。

 ただ、1階部屋の人から、「うちもL45以上じゃないといけないの?」と聞かれた時は困りました。下に人がいませんから関係ないですもんね。こういうことまで考えて規約決めてください。


遮音等級 重量衝撃音(LH)

子供が飛び跳ねた時などに発生するドンドンという重くてにぶい音。
軽量衝撃音(LL)

イスを引いたり食器を落とした時などに発生する比較的軽くて硬い衝撃音。
説明
L-40
わずかに聞こえる
遠くから聞こえるような感じ
ほとんど聞こえない 上階で物音がかすかにする程度。
気配は感じるが気にならない。
L-45
聞こえるが意識するほどではない 小さく聞こえる

上階の生活が多少意識される状態。
スプーンを落とすとかすかに聞こえる。
大きな動きはわかる。

L-50
小さく聞こえる 聞こえる 上階の生活状況が意識される。
椅子をひきずる音は聞こえる。
歩行などがわかる。
L-55
聞こえる 発生音が気になる 上階の生活行為がある程度わかる。
スリッパ歩行音がよく聞こえる。

重量衝撃音は、建物の構造に左右されます。最近のマンションは「耐震設計」になっており、音に関しても強くなっているようです。

軽量衝撃音は、フローリング素材によって軽減できます。

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 遮音フローリングは、裏にフェルトを貼り、材自体にも細かい切れ目を入れ剛性を、なくしています。そのほか継ぎ目等にも特殊な細工を施しその遮音性を高めています。つまり、遮音等級の高い(数字としては”少ない”)ものは、足で踏んだ時に「柔らかい」感じがします。このため、L40は「柔らかすぎて気持ち悪い」という人がいます。

 等級は価格にも比例し、L−55の平米単価(某業者の例)が8600円に対して、L−40は14000円になります。Bさんのように、「安いものを使いたい」と思うのも無理はありません。でも、良心的な業者は、我々管理人に対して、「施主が”L55でいい”、っていったんだけど、本当か? 規則とかないのか?」と確認してくれることもあります。業者としてもあとでトラブルになって、剥がし工事をさせられたりしても困るからでしょう。

 それから、遮音とは関係ないですが、最近は、「低化学物質」というのも、重要なポイントになっているようです。アレルギーの人増えてますからね。

*ご注意:
 悪質なリフォーム業者の中には、L-40の見積もり金額でお金を請求しておきながら、実際はL-55のフローリングを敷く、「詐欺」をやらかすところもあるそうです。気をつけて。出来れば工事の際に、使用する材料の証拠写真を撮っておきましょう。使用したメーカーとその製品名も把握しておくといいでしょう。


<追記> 騒音の専門家のTakeuchiさんからの情報を記します。(原文まま)

  床の仕上げ材の効果が大きい軽量衝撃(スプーン等の落下)ならまだしも、重量衝撃(足音等)は建物の躯体構造(主にスラブ厚)に大きく左右するものは、住民の住まい方に頼るしか有りません。フローリングの上に絨毯を敷いても軽量衝撃には効果が高いですが、重量衝撃では子供の走りには効果ないですし。
 多くのマンションでLL-45と規定していますが、1つ注意した方が良いと思うのは、直張りフローリングでカタログにJIS又は残響室法の結果と書かれているものは、多くの場合は1ランク程度性能低下するので、期待した結果にならない可能性が有ります。BCJや住宅性能表示制度の特別評価認定制度と同じ評価制度の製品を使用した方が、カタログ値の性能が得られ易いです。
 それにしても、世間に二重床や二重天井が遮音性能が良いという認識が有るのはサッシのせいですかね、空気音遮音や軽量衝撃に対しては遮音性能は高いですが、重量衝撃にはむしろ性能を悪くする方へ働くので一概に良い物では有りません。


2005/9

室内で太鼓叩いちゃだめだよ




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