管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

共用○○






  新聞記事で、「コミュニティ自動車」という特集記事が出ていました。
 駐車場不足に悩む団地で、「十数人の会員で、1台の自動車を共有して利用する。→駐車場不足問題が解決」ということを試しているそうです。保険とか車検とか、いろいろ細かな問題はあるようですが、けっこううまくいっていて好評との事です。(新聞記事ですから。全部真実とはいえませんが)

 当マンションもそうですが、駐車場不足に悩む集合住宅はたくさんあります。駐車場が足らないと、違法駐車も多いわけで、なんとかしてもらいたい問題です。特に、昭和50年代以前に建てられたマンションや団地(公団など)では、「お金がないから団地に住む=当然車など持っていない=駐車場がない」という設計になっており、今のように、「どんな貧乏でも自動車を持っている」という時代になると、駐車場不足は深刻です。加えて、昔だと、「駐車場が足らない→植栽部分をつぶしてスペースを作る」といったことがよく実施されていましたが、「環境の世紀」になり、「緑は大切にしなければならない。植栽部分をつぶすなんてもってのほか」といった思想が主流になってくると、ますます難しくなっています。

 そういう状況下では、共用自動車というのはいいアイデアだと思います。団地全体でレンタカーを借りているようなものです。私も、実際にマンションを管理していて思いますが、「毎日車に乗る人は少ない。車なんかなくてもいいんじゃないか?」と思うような人がたくさんいます。仕事で車が必要なら、持っていなければなりませんが、「たまにレジャーで使う」「大きな買い物ををする時だけ使う」といった人は、共用自動車でいいんじゃないでしょうか? この制度、普及してもらいたいです。


 ところで、同じ「共用」でも
「共用自転車」というのも注目されており、やはり、新聞でそのことを知った理事長が「管理人さん、共用自転車ってどうかなあ? この雑誌ではベタボメだけど、実際にはどうなんだろう? うちのマンションもあちこちに自転車があふれていて問題になっているけど、共用自転車があれば、この問題もずいぶんよくなるんじゃないかな? ちょっと調べてみてくれない?」と私に依頼しました。ネットで調べたり、知り合いの不動産業者などにも聞いてみると、まだまだ実施しているところは少ないものの、「なかなかいいアデアじゃないの?」ということで、注目を浴びているようです。そして、すでに実施しているところでは、おおむね好評のようです。

 自転車というのも、「毎日使っている人」もいれば、「ほとんど使っていない人」「駐輪場スペースを空にするのがもったいなから、とりあえず持っているけど、実際は全然使わない人」というのもけっこういます。毎日巡回しているからわかりますが、当マンションでも1割くらいの自転車は、「ここ数ヶ月まったく乗っていないのでは?」というような埃まみれの姿のまま置かれています。こういう、「使わないなら、始末してよ」みたいな自転車をどければ、自転車置き場不足はかなり解消されるような気がします。

 この問題、理事会で検討された際、以下のような問題点が指摘されたそうです。

「最初の導入にかかる購入費用はどうする?」
「置き場所はどうする?」
「鍵はどうする」
「利用料はとるのか? いくらにするのか?」
「整備(タイヤの空気圧など)はどうする?」
「一度に利用者が集中して、かちあったときはどうする?」
「いつ戻ってくるかわからないと次に借りる人が困るんじゃないか?」
「盗難にあったらどうする?」  etc.....

 たしかに、簡単ではないですね。

 そんなわけで、実際に運用して成功しているマンション(隣りの市。戸数300)の管理人さんに電話で聞いてみました。

「自転車は大人用26インチ3台と子供用2台を購入。安物を買えば、全部で7万円程度で済む。駐輪場を増設すれば何十万〜百万以上かかることを考えれば、全然たいした金額ではない。そう思って予備費から出すことにしたのだが、実際は”そういうことなら、私のを使って下さい。私はほとんどのらなくてほったらかしにしてたから、役に立ててうれしい”という有志住民がいて、寄贈してもらったので、タダで済んでしまった。いつも使っている登録用シールに”共用”と書いて終わり」
「寄付してくれた住民の駐輪場のスペースを利用することにして、少し駐輪場内の入れ替えを行い、”共用自転車コーナー”をつくり、一箇所にまとめた」
「鍵は、”ダイヤル錠にして、住民に番号を教えたらどうか”という意見もあったが、もとの鍵をそのまま利用することにした。管理人室の横の壁に100円ショップで購入した”台所用品引っ掛け用ハンガー”を貼り付け、そこに鍵をひっかけた。簡単になくされてもこまるので、かなり目立つ大きなキーホルダーを買ってきてとりつけた。それにはマンション名と管理室の電話番号、自転車の番号を記入した。管理人室の壁は防犯カメラでばっちり写るので、むき出しでほうっておいてもなんら問題はない。今まで鍵が盗まれたことはない」
「利用料は、”1回の利用につき10円”とした。最初は”無料でいいんじゃないの?”という声もあったが、そうすると、独占される可能性もあるので、いちおう利用料をとることにした。お金は、管理室前のカウンターに貯金箱を置き、そこに入れてもらうことにした。”カメラに写るから盗まれることはないだろう””小額だから盗まれても構わない””管理人さんに管理責任を押し付けない”ということで、実際はほったらかしで、住民の善意に任せている。月に1回、会計担当役員が中身を出して、入金処理している。管理人はノータッチ。しかし、10円という安さから、無賃乗車はいない。」
「自転車は月に1回、整備担当役員が点検している。空気入れや、グリースなどの必要なメンテ道具は新たに購入し、管理室に設置した。”管理人さん、空気が少ないみたいだよ”と言われた時は管理人が空気入れを貸し出す。たいした手間ではない」
「夕方の買い物の時間帯などは、かちあうことが多い。天気のよい土日も同様。これがちょっと悩み」
「貸し出し管理ノートを作り、管理人室前カウンターにひもで結び付けて置いてある。利用者は毎回これに記入する。”返却予定時刻”を書く欄があるため、目安になる。”利用予約したい”という意見が出ていて、予約可能にするかどうか、今検討中である」
「マンション内には各所に防犯カメラがあるため、盗まれたことはないが、”スーパーの駐輪場で盗まれる”ケースが1回あった。新たに購入費用もかかることと、盗まれたことに多少責任を感じてもらい、盗まれないように注意してもらうように、盗難にあった場合は弁償費用の一部として2000円を負担してもらう制度にしている。全額弁償とはしていない。いずれにしろ、”この時代、自転車は盗まれるもの”という認識でおり、盗まれたからといって大騒ぎすることはない」


 こんな感じでした。電話する前は、「管理人に大きな負担がかかっているのではないか?」と予想してたのですが、実際はたいしたことはなく、非常にうまくいっているような気がします。しかし、「乗る人によって、サドルの高さがマチマチなので、それが嫌な人は乗るたびに高さ調整をしなければならない不便さがある」と言ってました。とはいえ、大きな問題ではなさそうです。
 その管理人さんいわく、「最初の頃は、私自身、”なんでも個人所有の時代に、他人の自転車に乗るのは抵抗があるんじゃないか? はたして利用する人はいるのか?”と心配していたんだけど、要は慣れだね。みんな慣れれば平気みたいだよ。この制度がうまくいけば、自転車の総台数は減るだろうし、そうすれば違反放置はなくなるかもしれない。それを期待して、なるべく多くの人に共用自転車を利用してもらおうと、僕も時々自転車をきれいに磨いて、お手伝いしているよ」とのこと。

 これだったら、うちのマンションでも導入可能じゃないかな? 読者のみなさんのところも検討してみたら?



2005/3