管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 部屋の位置の差による対抗意識 

無いようでもあるんです。これからマンションを購入される方、参考にして下さい。




2005/2 初稿 2014/2 追記



 
 新築の分譲マンションを購入する時には、各部屋の価格が一覧になった料金表を見ながら、懐具合を考えながら、「どれにしようか?」と悩むものです。マンションの価格というのは同じ建物の中でも様々です。数字が一目瞭然となっているのは、スポーツ選手の成績同様、ランク付けにもつながります。

<価格差の要因>

「広さ」・・・”広いほど高い”、これは至極当然です。

「日当たり」・・・部屋が位置する方角でも、ずいぶん価格差が生じます。やはり、南向きのほうがいいです。

「階数」・・・まったく同じ広さ、位置でも、階数によって価格が大きく異なるものです。10階建てのマンションだと、1階上昇するごとに、2〜3%程度上がります。超高層になると、1階ごとの上昇率はさほどではないですが、それでも上に行くほど高くなるのは変わりません。

※「1階住居」・・・1階の部屋というのは、「空き巣に入られる可能性が高くなる」「のぞかれる」「上からゴミが落ちてくる」といったマイナス要因から敬遠されることが多く、「1階だけは特に安い」「中古マンションでも、1階の部屋は売りにくい」というものだったのですが、高齢化社会が進んだために、車椅子やストレッチャーの利用者が「階段を使わなくて住むから便利」といったことで、最近は、「1階が人気」という現象が起きています。1階だと、「訪問入浴の車から直接、お湯のホースをベランダ経由で室内に入れることが出来る」という利点もあります。また、高齢者は「植物」が好きな人が多く、専用庭がついている1階住居を好む人も多くなっています。
※「最上階」・・・最上階を好む人は多いです。自分の上に誰もいなければ、天井からの騒音振動もなくて良いのですが、最上階というのは、「夏は暑い(屋上からの熱が伝導する)」「冬は寒い」というもので、光熱費がバカにならないものです。その点は注意が必要です。また、老朽化してくると、「屋上の防水の不備に寄る雨漏り」も発生する場合があります。
「テレビアンテナの電波の強さの差」・・・ここまで考える人は相当の「専門家」だと思いますが、これも老朽化マンションでは問題になります。テレビアンテナの電波というのは、電線を伝わって、最上階から1階まで降りてくる構造になっている場合が多く、この電線は「距離が長くなるほど減衰する」という性質があります。つまり、「10階だとレベル70」の電波が、「2階だとレベル50」に落ちたりするのです。(しかし、不思議なことに、1階だけは、ちょっと持ち直して、レベル55だったりする) これは、電線が老朽化したり、ブースター機器(電波を増幅する機械)の老朽化によって顕著になります。ですから、「電波が弱くなり、テレビが映らない」という不具合症状は、まず「2階の部屋」から始まります。その後、1階3階4階〜と続き、最上階は最後です。テレビ大好きな人は2階を避けたほうがいいかもしれません。

「部屋の位置」・・・エレベーターの隣の部屋、すぐ前の部屋というのは、機械音がしたり、人通りが多くてうるさいため、安くなります。端っこや角部屋は、”自分しか廊下を通らない””共用廊下のスペースを自分専用の荷物置き場にできる(本当は管理規約違反行為)”ため、高くなります。
また、ゴミ集積場に近いとか、自転車置き場に近い、というのも騒音や治安の関係で安くなります。ただ、設計者の配慮不足で、「実際に住み始めると、予想に反して、201号室の前を通る住民が非常に多くて、うるさくて困る。この分のマイナスポイントが価格に反映されていない、ずるい」といった苦情が後から出ることもあります。こういったことは、モデルルームで見学してもわからないことなので、マンション購入初心者は気をつけないといけません。

「その他の要因」・・・部屋の中の設備の違い。トランクルームの有無など。間取りの合理性。いろいろ。



 こういった価格差というのは、住んでからも意外と意識の中に残っているものです。

A:
「階数のこだわり」、これは大きいです。
 10階建てのマンションを例にとると、”1〜3階は低層階””4〜7階くらいまで中層階””8〜10階が高層階”といった分類をします。これは単なる”高さの差”なんですが、「お金があれば高い階の部屋を買いたかったたけれど、価格が高くて買えなかった」という人がいるわけで、そのために住民のレベルの差までも感じさせるようです。「なんで低層っていわれなければならないんだ。うちの生活レベルは高いぞ」「うちは高層階なのよ。エヘン」みたいな、意識の差が出てきます。「ひがみ」と「優越感」とでもいえばいいでしょうか?
理事会の席で、議論が白熱してくると、役員同士で、「あなた、低層階のくせに、何、生意気なことを言ってるのよ!」とか「高層階だからって、えらそうにしないでよ!」なんていう罵倒合戦が始まったりします。

エレベーター利用時・・・低層階の人は高層階の人のことを、「おまえがボタン押すから、エレベーターが上までいっちゃって、なかなか下りてこないんだ。迷惑だ。朝の出勤時は1分が大事なのに・・・」と勝手に思います。一方、高層階の人は低層階の人に対して、「2階なら、階段使えよ」と思ってます。

落し物・・・洗濯物が落ちてきたり、蛍族のタバコの吸殻が落ちてきたり、マンションには様々な落下物がつきものです。特に1階の専用庭がある部屋の場合、そういった落し物の処理をするのが仕事みたいになってしまうわけで、「上の奴はしょうがねえなあ」と憤慨します。

騒音・・・自分が下の階の人に迷惑をかけていても気がつきませんが、自分が上の階の騒音に悩まされることが良くあります。「上の奴はしょうがねえなあ」となります。一番上の階はこういった悩みはありませんが、「最上階なんてさ、一番高額な部屋かもしれないし、眺めもいいかもしれないけど、意外と泥棒に入られやすいし、太陽光で天井が熱せられるから、暑いんだぜ。きっとそういうことわかんないで買ったんだろうな。頭悪い奴だなあ」と下の人からひがまれてます。

 こういったことというのは、例えば、「最上階の人が漏水事故を起こして、下の階(複数)の人に迷惑をかけた」場合などに、表面化することがあります。「だから、あの人はだめなんだ」とか理不尽な批判をされるのです。
 

B:部屋の位置
 当マンションもそうなんですが(東棟と西棟の2棟で構成されたひとつの建物)、登記簿上はひとつの建物でも、実際はいくつか棟が分かれている時、棟同士で張り合うことがあります。例えば、東棟は日当たり良好だが、西棟はイマイチ、といった場合、東は優越感、西は劣等感を持ちやすいです。これも、「東棟の誰それの子供が消火器をいたずらした」なんて事件が起きると、「だから、東の奴はだめなんだ」といったことになります。民族紛争みたいなものです。
 こういった「張り合い」とか「温度差」というのはけっこうあって、理事会の会議の中でも東西で言い合いになることもあるそうです。
 「東棟の東側にマンションが出来るので、反対運動をしようと思うのですが・・」と提案しても、西棟の役員は、「うちは関係ないよ。勝手にやんな」みたいなこともあるそうで、棟がいくつかあるというのは、理事運営上、やりにくいみたいです。
 植栽の剪定も、植木がある場所の部屋は、「樹が邪魔」「虫がベランダに入ってくる」と、とても気にしますが、植木のない場所の部屋や、上の階の人は全然気にしなかったりします。

C:部屋の広さ
 広さが違うということは、家族構成も違います。ワンルームには家族は住みませんし、ファミリ−タイプに独身者が住むことは珍しいです。部屋の広さのバリエーションが豊富なマンションの場合も、いろいろあります。
 例えば、「ゴミの出し方が悪い人がいます」といった問題が提起されると、「一人もんに決まってる。だから、ワンルームの連中は困る」といった声が出ます。逆に、「小学生がエレベーターのボタンを全部押す遊びをして、迷惑をかけている」といった問題の時は、「家族持ちはこれだから困る」と言われます。ただ総体的にいうと、ワンルームの人の方がマナーが悪いし、管理組合活動に非協力的で、なにかと問題あり、なので、分が悪いです。
 また、理事会や総会での議決権というのは、普通は「広さ」によるものではなく、一部屋1票となっていることが多いため、広い部屋の人は「私たちはワンルームの人の3倍の管理費払ってるのに、なんで、議決権は同じ1票なのよ。不平等じゃないないの?」という文句が出ます。(これは妥当な意見です)
 ペットの問題とか、重要な案件になると、1票の差が大きな意味を持ってくるので、こういう意見も出てくるのです。



 マンションに住む人というのは、基本的に「自己中心的」な人が多いですから、こういった対抗意識や差別化・競争などが起き易いのです。「みんなで協力して、お互いを思いやって、仲良くやっていきましょう」といった人だけで役員が構成されることはまずないです。

 ですから、マンション管理は難しいです。

2014/2 こういった記事を書いているため、これを読んだ某雑誌記者から取材を受けました。(=無報酬)
「マンションの階数によるヒエラルキー」という論点のものでした。いちおう、ちゃんと答えたつもりなんですが、雑誌側は最初に「結論」が決まっていて、それを裏付けるために私に取材に来たので、なんか、私が意図したことではないような、誤解を与えられる感じの文章に仕上がっていました。(文章をきちんと細かく読めば、私がそんなことを言っていないのに気づくはずなんですが、流し読みで読むと、私が、そういうふうに主張しているように読めてしまう)
この記事はネットでも読めるのですが、誤解ないようにきちんと読んでいただけたらと思います。

マスコミって難しいなあ。

追記2 読者の方からの情報提供を受けて加筆

 「価格差」に関してですが、不動産価格が急速に下落していた時期特有の問題があります。それは、「値下げ販売」というもの。
 同じマンションの中なのに、「分譲当初の”正規価格”で購入した人」と、「売れ残った部屋がダンピングされて、正規価格から1000万円引きで購入した人」が混在するケースが大変なんです。
 当時を思い出すと、当初4000万円だった部屋が、売れ残ったために、3000万円に値下げした、なんてこと、しょっちゅうありました。良心的な業者だと、正規価格で買った人にも値下げして、「全員が値下げ価格で購入」って形にしたところもあったようですが、「正規価格はそのまま放置」ってところも多かったですから、「同じものを、私は、あの人よりも1000万円も高く買った」という人がいるわけです。この人の気持ちと言ったら、たまらんものがあります。
(私自身も、高い時期に自分のマンションを買った人間なので、悔しさがいっぱいです。「マンション買うのを、あと2年遅くしたら、1500万円は安く買えたのに」 ちくしょう! って感じです)

 こうやって、同じ条件の部屋を、「4000万円」と「3000万円」の異なる価格で買った人が、いっしょに住めば、心穏やかでいられるはずがありません。不合理な反論だとわかっていても、「値上げしたから買ったくせに、何、生意気なこと言ってるのよ!」とか口論になるわけです。中には、「値下げは不当だ」とか裁判まで起している人もいますから。
 そういうマンションの管理組合はほんと大変でしょうねえ。ご同情申し上げます。