管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 理事長という仕事は24時間営業なの? 


1日の疲れを癒そうと風呂に入っている時でも呼び出されます

 定年後の高齢者ならともかく、普通に仕事をしている人にとって、理事長の仕事というのは、大変な”残業”です。今はどこの会社でもリストラが進み、残った正社員には多大な業務が押し付けられていて、サービス残業を強制されているところもあります。仕事は増えても、給料は下がるという悲惨な状況ですから毎日クタクタです。

 さて、ある日の朝、今期の理事長さんが管理人室に現れ、「トホホさん、ちょっと聞いてよ。参ったよ〜。」とボヤキが始まりました。管理人はこういう愚痴を聞くのも仕事です。

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おとといの夜なんだけど、11時半くらいかな、もう家族全員寝てたんだけど、急にピンポンされて、起きて出てみると、○○○号室のおじいちゃんが興奮して、「理事長ですか? あの〜、車ぶつけちゃったんです。保険でなんとかしれくれませんか?・・・・」とまくしたててくるのよ。事情を詳しく聞いてみると、会社から帰宅して駐車場に入れる時に、ブレーキとアクセル間違えて、隣の車に思いっきりぶつけちゃったらしいのよ。現場、見に行ったら、たしかに相手側はデコボコになっていて、悲惨な状況でね。ぶつけたほうは頑丈な高級車だからたいしたことはないんだけど。あの人、もう高齢なのに、でっかい車にのってるでしょう。うまくいれたってスレスレなのに、あんなヨボヨボで、あんな高級車に乗るのがおかしいよね。それでさ、「マンション内といったって、交通事故にはかわりないんですから、警察呼んでご自分で処理して下さいよ」と僕は言ったんだけど、「マンション保険の個人賠償でなんとかやってくれないか?」と言うわけさ。そういえば、この人、3ヶ月前に部屋で漏水事故起こして、階下の損害に関してはマンション保険で対応したんだよね。それを覚えていて、「マンション保険でなんとかなる」と思ってるのさ。参ったよ。そんなことまでマンション保険でやるの? 管理人さん聞いたことある? おかしいよね。それで突っ込んで聞いてみると、この人の車って、自分のじゃないんだって、会社のなんだってさ。会社にばれると困るから、内々にやって欲しいというのが本音みたい。でもさ、うちのマンションの駐車場に会社名義の車置くのって契約違反だよね? おかしいよ、あの人。

 まあ、そんなこんなで深夜になってやっと寝たんだけど、次の朝、結構早いなあ、6時くらいかなあ。うちの家族はまだ全員熟睡の時に、今度はぶつけられた側の△△△号室の人がうちに来てさあ。「理事長さん! うちの車がボコボコです!」と叫んでるわけ。そりゃボコボコだよね。本人は朝会社に出かける際に気づいてびっくりして、うちに来たみたいだけど、うちだって関係ないよね。そりゃ、マンション内の事故だけど、「駐車場使用細則」の中にも、「事故については組合は関係ない」と記載されてるしさ。ろくろく寝ていない状況なのに、さらに早朝に起こされたんだよ。理事長って、24時間営業のコンビニなのかな? みんな非常識すぎるよ。前夜の出来事を詳しく説明してあげてるうちに、こっちも会社に行く時間さ。ろくろく寝ずに、おまけに顔も洗えず、朝飯抜きで出勤だよ。たまんないよ。
 おまけにさ。今日は平日だけど俺会社休みだから、「今朝は久しぶりにゆっくり朝寝坊しよう」と思って寝てたら、朝7時にぶつけた側のじいさんがまたやってきて、「どうもご迷惑をおかけしました。会社に事情を話して、自動車保険で済ませることにしました。マンション保険のほうはけっこうです。あとはすべて自分でやりますから・・・・。出勤前のお忙しい時間とは思いましたが、早急にお伝えしておこうと思いまして、お邪魔しました」ってさ。丁寧なお詫びの挨拶なんだけど、俺は寝てたんだよね。また、起こされちゃったよ。なんなんだろうなあ。手紙とかメモでもいいしさ。管理人さんに伝言するんでもいいでしょ。夕方になってから、電話でだっていいじゃない。なんで、早朝にいちいちやってきて、家族全員に迷惑かけるかな? やってられないよ・・・・

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 といった話でした。ご愁傷様です、理事長様。
 このあとずっと愚痴を聞いていたんですけど、なんやかんやとすぐに直接理事長の部屋に行く人ってけっこう多いようです。このマンションの人って、なにかあるとすぐに文句を言いますからね。でも、手紙とかは嫌なようで(文字アレルギーとか、証拠に残るのが嫌、って言う人多いですね)、どうしても対面で話したがるようです。日中、管理人がいる時間は管理人に文句をいいますが、管理人と会えない生活サイクルの人も多いわけで、そういう人は理事長のところにいきます。(住み込みの管理人って、こういった苦情受付も24時間なのなあ。だったら激務だね) 今期のこの理事長さんは奥さんもいい人なんで、とっさに着替えて、「玄関先で長話もなんですから、奥へどうぞ」とリビングまで相手を入れて、お茶も出してあげるそうです。ただ、これは外面をよくするためにやっているそうで、来客が帰ると、理事長に対して、「なんであんな下らない話の相手を長々としてるのよ。こっちも迷惑よ」と怒るそうです。そりゃ、奥さんにしたって大変ですよね。同じマンションの住民とはいえ、友達でもない人が急にやってきて、自分の部屋の中で長話してるわけですから、プライバシーも何もないです。今は物騒な時代ですから、「住民なんですが・・」と名乗って、実は強盗だったりするケースだって考えられます。200以上も世帯数があれば、たとえ住民であっても顔の知らない人は大勢いるわけで、「本当にここの住民なのかわからない」場合も多々あります。

 理事長っていうのは、組合の仕事の8〜9割を押し付けられている大変な仕事です。しかし、輪番制でまわってきて、ジャンケンで負けて押し付けられた理事長では何も知らないし、何もできません。「理事長に話せば、すぐになんとかなる」というのは甘い考えです。大事な案件は理事会で、役員の総意で決めるもので、理事長が独断でなんでも決めることはできません。何の知識もない理事長は、「はい、わかりました。管理会社と相談して・・・」と、管理会社に丸投げするケースも多いです。

 このマンションでは、「管理組合に関することは組合用ポストに手紙を投函して」と、意見を聞くシステムになっています。緊急時以外はすべて手紙でやってくれればいいんです。わざわざ理事長の部屋にいかないくていいんです。文書になっていれば、コピーして各役員に配布することも可能です。言葉だけだと、それを理事長の口から理事会で他役員へ伝える際に、内容が変化するおそれもあります。このマンションではまだ採用されてませんが、電子メールを利用するのが一番いいのではないか?と私は考えます。このマンションの場合、各階に役員がいて、基本的には「まずその階の役員に言って下さい」となっているものの、それを飛び越えて直接理事長へ行くケースが多いです。役員経由の場合も、その役員が組合組織のことをよくわかっていないと、「それじゃ、理事長へ今すぐ伝えなければ・・」と理事長宅へ夜討ち朝駆けしてしまう、せっかち&非常識な役員もいたりして、結局理事長が起こされるわけです。一家の長として、自分の仕事をきちんとこなして、しばしの短い時間、家庭でくつろごうとしているのに、そこにヅカヅカと土足で入られたらたまりませんでしょう。家族も犠牲になります。理事長の仕事って大変ですね。話をしに来る側の住民にとっては1回限りでも、200超の世帯全部を相手にする理事長にとっては、1回ではありませんからね。

 管理人としても感じることですが、「マンション内で起きたことはなんでもかんでも管理会社や管理組合へ」と思っている人も多いようです。でも、基本的には「マンション内住民の個人対個人のことにはかかわらない」「専用部分内のことにはかかわらない」のです。「上の階の部屋がドタドタやっていてうるさい。眠れない」というのは、本当は自分で解決すべきことで、管理会社や管理組合に対策を求めることではありません。大手の管理会社になるほど、委託契約をしっかり守りますから、「うちは関係ないです」と門前払いされます。区分所有法のことをよく知っている組合なら、同様に「それは組合の範疇ではないです」と断るでしょう。「上の階のベランダからタバコの灰が落ちてくる」という苦情も、本来なら関係なしです。その灰が共用部分である地面に落ち、”それが火事の原因になるかも”という場合には、組合の案件になります。まあ、このマンションでは、そういう杓子定規なことは言わずになんでも対応してしまうので私も理事長も忙しいのです。

 また、トラブルに関することは、理事長宅へ行く段階で、すでにその人が興奮状態になっているケースが多いです。最悪なのは、トラブル発生に頭に来てヤケ酒を飲み、飲んでいるうちに、「このことは誰かに言わないと気がすまねえ」とボルテージがあがって理事長宅へ行くのがいることです。こんなのまともに相手できないですよ。そこまでひどいのは珍しいとしても、興奮している人は、口もしどろもどろだし、論理的に話せません。それに理事長だっていつもいるとは限りません。「すいません。お父さんは今いません」と娘さんが断っても、「おまえ、理事長の娘だろう。だったら組合のことわかってるだろう。お前がなんとかしろ!」などと、ハチャメチャなことを言う”バカ”もいます。そんな大人と接したら、この娘さんもショック大きいでしょう。

 理事長は言います。「家族にも負担をかけて、これだけ、いろいろなことをやってあげても、お礼に言いに来る人って誰もいないんだよね。漏水事故の保険処理をしてあげたり、面倒なことを無償(ここの管理組合役員は無報酬)でやってあげたのに、菓子折りのひとつどころか、お礼の言葉もないんだから、嫌になるよね」 同感です。前述の車ぶっつけおじいさんにしても、何かお詫びの品を持って理事長の部屋へ行くべきなのに、何も持たずに行って、お詫びしながら、さらに理事長を怒らせてるわけですから、常識がないです。
 私も、「そういうことは管理会社の仕事ではありませんよ」と、詳しく解説してから、「でも、生活騒音の問題は当事者だけで話すと、とっくみあいの喧嘩になることも多いので、私がクッションとして間に入ってあげますよ」といって、解決のための努力(かなりしんどい役回りですよ)しますが、あとで、「本当は仕事じゃないのに、悪かったですね。すいませんね。これお口にあうかどうかわからないけど・・・」という住民はほとんどいないです。なんでもかんでもやらせておいて「当然」と思ってるのかもしれません。(物をくれる住民というのは少なからずいて、ありがたいのですが、そうい人って、特に問題を起こすような人じゃないので、「このあいだは大変ご迷惑かけまして」というケースは少ないのです)

 まあ、管理人としては、理事長の苦悩を放っておけないので、「組合に関することは文書で組合用ポストに入れて下さい。直接理事長宅へ行かないで」という案内掲示を作ってみました。効けばいいけど。

 ちなみに、昨年度の理事長さんというのは、こういったプライバシーを大事にする人でした。勤務が不規則で時々夜勤もあり、昼間寝ていることもある人で、また、「家族には絶対に迷惑をかけない」「そういう条件で理事長職を受ける」という姿勢がはっきりしていて、奥さんも「私はわかりませんから。すべて主人がやってます」とはっきりしてました。私が部屋に行くのも嫌がり、こちらからの連絡は基本的に手紙だけ。それでも、すぐあとにむこうから電話が来るのでなんら問題ありませんでした。緊急の話が持ちかけられても、自分の部屋に入れることはせず、「集会室に集りましょう」といって、場所をかえました。(せっかく集会室があるんだから、使ったほうがいいです) 誰か住民が非常識な時間に訪問しても、「帰って下さい。話は明日電話下さい」と、すっぱり断っていました。なんか「クールな人だな」と思っていましたが、今年の理事長さんの苦悩を聞くと、「それくらいドライにしないと理事長なんてやってられないんだな」、と理解できました。たしかに、無償で24時間オープンのコンビニをやる人なんていませんよねえ。今期の理事長さんには、昨期の理事長さんの姿勢を教えてあげ、参考にしてもらいました。

 管理人も超つらいけど、理事長もけっこうつらいよ。

 管理人も心優しい人ほど大変ですが、理事長も優しい人ほど苦労が多いです。全国の理事長様、お察しいたします。
 




2004/11

24時間働けるのはリゲインを飲んだキーファー・サザーランドだけ!


2006/10
 
理事長職 甘くはない
 
 
今期の理事長は本当にやる気のない人です。やる気がないので、「今年度の役員役職はだれだれになりました」という告知もしませんでした。表に出ることがほとんどなく、理事長名での掲示物・配布物もほとんどないため、そのせいか、住民も「今期の理事長って誰だっけ?」という状態の人が多いです。理事長が誰だかわからないと、上記のように、「夜中に突然理事長宅を訪問する」住民もいません。おかげで、理事長は毎日平穏無事に暮らせます。

 ところが、ギッチョンチョン。そんなに甘くはなかったようです。先日、駐車場を新規に契約した住民Aさん。契約書の理事長名で、理事長が誰だか知っていました。そのAさん、昨夜深夜12時に理事長宅を訪れ、「理事長さん、実はうちの部屋のお湯が出ないんですよ。水道に関することって、組合の仕事ですよね。なんとかしてくれませんか?」と言ったそうです。夜中にそんなこと言われても理事長は何にも出来ません。だいたい、共用部分の水道管に関することなら組合の管轄ですが、今回のは、「水は出る。お湯が出ない」というもので、要するに”湯沸かし器の故障”です。完全に専有部分、”個人の問題”です。理事長はまったく関係ありません。管理会社の緊急センターに電話したようですが、「管理会社は関係ないですね。明日の朝、湯沸かし器メーカーのサービスセンターに電話したらどうですか?」とあしらわれたそうです。(優秀な管理会社なら、各湯沸かし器メーカーのサービスセンターの電話番号一覧表を用意してあって、該当する会社の電話を教えてあげることまでするでしょうが、うちはそんなに親切ではありません。

 かわいそうに、この理事長、組合に関係ないトラブルで夜中に起こされてしまいました。1年間、雲隠れ状態で何もせずに過ごそうと思っていたのでしょうが、このマンションはそんなに甘くはありません。さらに、翌朝の6時。Aさんがまたやってきて、「湯沸かし器の電源コンセントを抜いて、リセットしたら直ったよ。今はお湯が出る。騒がせてすまなかった」と挨拶に来たそうです。

 早朝6時に、「昨夜は悪かった」という挨拶ですか。さすが、うちのマンション、ツワモノ揃いです。世間の常識は一切通用しません。