管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 認知症住民 徘徊〜失踪

家族の皆さん。管理組合にも報告してくださいよ


2014/1記

 
  認知症の問題。今の日本では、東京オリンピックに浮かれている場合じゃないほど、深刻な問題です。

 このマンションでも、認知症の人が次々に出現し、それがまた、単身で住んでいたりして、その対応で、管理人はものすごく苦労しています。でも、その家族(どこか別の場所に住んでいる)の人から、「いつもお世話になっています」「ご迷惑をおかけしてすいません」とかの言葉はありません。「こういう家族だから、この人もほったらかしにされているのかな?」と思っています。

 認知症の人は、自分で「私は認知症です」とは言いませんから、「この人は認知症なんだ」ということがわかっていない時期が大変です。家族も、こういう「身内の恥」は、公開したくないですから、余計わかりにくいです。

 「強盗が家の中に入ってきた。警察を呼んでください!」と、ある高齢者から、SOSの電話がかかってきたことがありました。その時の口調は普通だったので、「すわ、一大事。110番しなくちゃ」と慌てて警察を呼びました。
 あとから考えれば、「そんな緊急時に、なんで、直接自分で110番しないで、わざわざ間接的に、管理人に電話をかけるんだ? その時点で頭がおかしいだろ」ってわかるんですけど、そんなことを考えてる余裕はなくて。
 その後、警察が来て、警察も、その人が認知症だとは知らないので、真面目に対応して捜査もしたわけですが。

 その後も2回ほど「強盗が来た!」と騒いだため、さすがに「おかしい」ということになり、家族に聞いてみたら、認知症が判明した次第。


 別のケース。電気代を払わず、督促状が来ても無視していたため、電気が止められてしまったのに、そのことが理解できず、「管理人さん、うちの電気がつかないよ。なにかの故障だよ」と騒ぐ人もいます。こっちも真面目に対応し、「おかしいなあ、別に、うちのマンションの電気関係でおかしいことはないのに」と思いつつもあれこれやっていたら、テーブルの上に、電気会社の督促状が・・・・ それで判明しました。

 もっと怖いのは、「火事だということが理解できない」ということ。部屋の中で、小火になってしまい、煙が出て、隣の住民が、「お隣の部屋のベランダの窓の隙間から煙が出ています」と騒ぎ出し、火事だってことがわかったこともありました。その時、火事を起したご本人は在室でしたが騒ぐこともなく、我々が部屋の中に入って状況を聞いても、「火事だ」ってことが理解できなくて・・・・

 
「徘徊」ってのも大変で。
 あるデパートから電話が来て、「おたくのマンションのホームレスが、汚い格好で、店内を歩き回り、棚にある商品を落としたり、ひどいことをしてるので、引き取って欲しい」と管理人に言ってくるのです。その人は単身高齢者なのですが、どうやら、店員に捕まって名前や住所を聞かれた際に、家族がいないので連絡のしようがなかったのですが、マンション名を言ったので、店員が、マンションの管理人に頼もうと思ったらしいです。マンションの管理室の電話番号は104で聞けますから。

 自転車に乗って出かける徘徊もあります。10キロくらい離れた、隣の市の交番から電話があり、「おたくのマンションのステッカーを貼った自転車が、放置されている。調べたが、盗難車ではないようだ。放置は困るので、持ち主に連絡して、引き取りに来させてくれ」という内容。ご本人に聞いてみると、「そんなところに行った記憶はない」と言います。「でも、警察から・・・・」と私が言うと。「何を言ってるんだ。現に自転車は、このマンションの駐輪場にあるぞ」と言うので、いっしょに見に行くと、「あれ、ないなあ? これは、盗難事件だ。おまえ、管理人のくせに、ちゃんと警備しないとだめだろ!」と怒られる始末。自転車で出かけたこと自体を忘れてるんです。

 こういうエピソードが、「スターウォーズなんか目じゃない」ってくらいあって、あたふたしています。だいたい、認知症住民1人で、10回くらいの「面倒」を起しますから、こっちも苦労しています。

 面倒をいろいろ起すと、最終的には、家族の意向もあり、老人ホームに送られます。ただ、そういうのも、連絡がないものですから、こっちは大変なんです。
 老人ホームに行けば、当然、その人は、このマンションにはいないわけで、何日もその人の姿を見かけないと、マンション内の隣室とか同じ階の人も怪しがるわけで、「あの人、最近見かけないけど、どうしてるの?」「もしかして、部屋の中で孤独死してるんじゃないの?」とか騒ぎ出すわけでして。家族の連絡先を教えてもらっていれば、家族に電話して聞くこともできますが、連絡先はたいていわからないことが多く。老人の場合、なんらかで行政と関わっているので、「市役所に聞こう」と思って電話しても、「個人情報なので」と門前払いだし。ある程度の情報は、地域担当の民生委員さんから聞くこともできるんだけど、「行政は、私たちにもそういう情報を隠すので、民生委員であっても、知りうることはわずか」という状況です。



 ある認知症住民Aさんの場合。「徘徊先の路上で車にはねられ、大怪我を負う」→「救急車で病院へ。そのまま入院」→「認知症の診断もしてもらい、通常の生活は無理と判断」→「ケガ治療の病院から直接老人ホームへ移送」→「1年後、老人ホームの中で死去」→「マンションの部屋は売ることに」→「廃品回収業者に部屋の整理を依頼」・・・・という経緯があったのですが、この間、行政とかご家族からの「管理組合への連絡」は一切なし。
 「あの人どうしたんだろう?」という声もけっこうあったので、理事長に「調べたほうがいいんじゃないですか?」と相談しましたが、「個人のことには関わらないほうがいい。部屋から異臭が出ているとかなら別だけど」という判断で、管理会社サイドでは放置してました。我々、管理会社は、あくまでも「共用部分の管理」が仕事であって、個人のことは関係ないし、理事長が「やるな」ということをやるわけにもいきません。
 結局のところ、「廃品回収業者」が、管理人に挨拶することもなく、勝手に、部屋をあけて、おおがかりに作業を始めた時に、「何をしてるんですか? あなた方はどなたですか?」と聞き、「回収業者です。依頼があって仕事をしています」と返答があり、「依頼者は誰ですか?」・・・・ という流れで、初めて、そのAさんの家族の連絡先を得ることができて、家族に連絡をとって、事の次第が判明したわけです。

 ご家族に連絡した際、「こっちも心配しているんですから、なんで、連絡をくれないんですか?」と聞きましたが、「個人のことに管理会社は関係ないだろ」と正論を言われてしまい、なにも反論はできませんでした。でもね、やっぱり、人間として、連絡が欲しいですよねえ。あんなにいろいろと面倒を見たのに、そのお礼の言葉も一切なし。

 世知辛い、世の中です。トホホ。