管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 近隣マンションとの協力体制 



  


 私がここに事前研修も全くなく赴任して、前管理人との引継を行なったあと、1本立ちした際、まだ右も左もわからない状況の中、最もあてにした人というのは、清掃パートさんです。当時のフロントマンは何にもしない、してくれない人でしたから、会社をあてにできず、その分彼女にずいぶん助けられました。
 といっても、あくまでも清掃員ですから、管理人の実務を100%知っているわけもないため、私は近隣のマンションを訪れ、頭を下げて、そこの管理人さんにいろいろな話を聞いて教えてもらいました。今から考えるとラッキーだと思うのですが、当時のこの周囲のマンションの管理人さんはとても親切な人ばかりで、一銭にもならない部外者に対して、丁寧に教えてくれました。おかげで、仕事を早く覚えることができた次第です。

 でも、残念ながら、その後、当時の親切な人たちは皆退職・転職されてしまいました。

 今は昼飯を一緒に食べる人もおらず、情報も入らず、寂しい思いをしています。たまに、他の管理人がやって来るときは、たいていが苦情です。「あんたのとこの住民が犬の散歩をさせて、うちのマンションの前でウンコさせている・・・・」といった類の物です。さすがに苦情を言われると、いい気はしませんので、そこから仲良しになることは無理です。この周辺も数年の間にマンションが増えてきました。「
管理人同士のネットワークが組めたらなあ」と思ってはいますが、簡単にはいきません。

 新しく管理人になる人にアドバイスしたいのですが、
赴任する時は近隣マンションの管理人に挨拶周りをしたほうがいいと思います。できれば、菓子折りのひとつでも持って。(何もないと、「この忙しいのに、おまえの相手なんかしてられねえよ」と言う人もいますから) 「初めての仕事で何もわからないので、よろしく・・・」と正直にお願いすれば、そんなに邪険にする人はいません。マンション管理上の「問題」というのは、けっこう「共通」だったりしますし。
 その中に一人でも、”あてにできる人”を見つけることが出来ればラッキーです。いろいろな相談に乗ってもらえます。管理人はたいてい孤独な仕事です。孤独を愛する人は別としても、同業者同士で話し合いたいものなのです。同じ会社の人間といっても、フロントマン相手では腹をわって話すことはできません。(管理人をバカにするフロントマンも多いし)

 管理会社としても、多少の予算をつけてでも、赴任時にはフロントマンがつきそって、近隣を挨拶するような仕組みを、研修のひとつとして構築しておくべきだと思います。(他の管理会社の情報が入れば、会社的にも役に立つでしょうし)

 

 さて、上記は管理人側の話ですが、このネットワークは管理組合でも有効だと思うのです。意外なことですが、これだけたくさんのマンションがひしめきあっているというのに、どこの管理組合でも、他のマンションと協力しあっているというのはほとんどありません。どこも皆、管理会社をあてにするばかりで、生の情報を得られる他のマンションに聞きにいくことがありません。思うに、大規模修繕工事などは、ちょっと前に実際に行なったマンションに出向き、当時の役員に話を聞くのが一番いいと思います。工事費の相場もわかります。こういった情報は、お金を払ったとしても、それ以上の価値があるものだと思います。飲み会とか食事会とか開いて、向こうの役員を招いて、話を聞いて親交を深めたらどうでしょうか?

 「いきなり、見ず知らずのマンションに行くのは難しい」と思う人もいるかもしれません。もし、大手管理会社に管理を委託しているなら、その会社が扱っている近隣のマンションを紹介してもらう手があります。これなら、向こうも門前払いにすることはないでしょう。(ただし、管理会社サイドからすると、情報が広まることは、管理会社にとっては不具合が多く、こういったことには積極的ではありません。「向こうのマンションの方が管理委託費が安いじゃないか。どうしてだ?」といったことになるからです)
 
 このネットワークの恩恵に預かり易いのは、規模の小さいマンションです。戸数が50戸以下のマンションだと、役員の数も少ないため、「みんなで智恵を出し合って」ということがやりにくいです。少ない人数であれこれ悩むより、「他はどうしてるんだろう」と調べたほうが早いのです。また、管理人さんも常駐ではなく、週に2〜3回の巡回勤務になるでしょうから、十分な管理が出来ません。マンションは何かにつけてスケールメリットが出てくるものですから、小さなマンションは不利です。30戸だろうと80戸だろうと、エレベーター1基のメンテ費用はあまり変わりませんから。

 逆に、最近増えてきている「タワーマンション」も、高層住宅ゆえの特殊な事情もあって、その管理の情報は少ないですから、タワーマンション同士で、情報交換するのはいいことだと思います。

 情報のみならず、設備や備品面でもネットワークの有効性は出てくると思います。例えば、小さなマンションでは集会室がありません。理事会を開くにも会場が大変です。役員の部屋に集るケースもあるでしょうが、家族の迷惑になったりします。狭い管理人室に集る場合もありますが、資料を広げるスペースもない状態では会議がしにくいです。といって、近くの公共施設の会議室を借りるのも、出かけるのも面倒だし、お金もかかります。(最近、自治体が運営する施設は財政難から、値上げをするケースが多く、”ただ同然”といった会議室は減っています) そんな時に、近くの大きなマンションの集会室が借りられたら便利だと思います。
 また、ひとつのマンションだけでは購入しづらい、高価なもの、例えばコピー機など、こういったものを共同購入する手もあります。実際、私のマンションでも、欲しいものがあります。
「ラミネーター」・・・私はいろいろな掲示物を作るんですが、室内はいいとしても、雨風があたる場所で、紙そのものを貼ってもすぐにボロボロになってしまいます。特にインクジェットは水に弱く、すぐに文字が滲んで流れてしまいます。そういった場所、もしくは長期間貼り出すようなものは、ラミネートをしないとだめです。しかし、ラミネーターは高価で簡単には買えません。管理会社によっては、そういうことを見越して社内で保有しているところもあるんですが、当社にはありません。(あったとしても、イチイチ会社にまで書類を持っていくのも大変です)
 そんなわけで、「当マンション専用のラミネーターを購入してもらえないか?」、組合さんにお願いしてますが、「たまにしか使わない物だから」と断られました。こういったものも、複数のマンションで共同購入すればいいのではないでしょうか?

「草刈機」・・・・植栽が多いマンションでは雑草がたくさん生えます。これを鎌で切るのは大変です。腰にも悪いです。やはり機械が欲しいです。でも、これもたまにしか使わない物です。同様に、「消毒液散布機」、これもあると便利です。

 こういった物品は一度に同じ日に使うものではないですから、共同購入すれば、予算の少ないマンションでも保有することができて便利だと思います。

 また、共同修理もスケールメリットがあります。例えば、「ピッキング被害防止のために鍵を取り替える。もしくは、ダブルロックにする」とか「インターホンが古くなったために、一斉に交換する」などの場合、複数マンションでまとまって注文すれば、単価は安くなります。
 その他にも、「清掃員をわざわざ恒常的に雇うのは費用的に難しい。しかし、週に1回のような清掃では意味がない。やはり、毎日清掃して欲しい」といった場合に、複数のマンションで共同して雇用すれば、毎日清掃してもらえます。小さなマンションでは、管理員も「週に2〜3回」というケースが多いですが、近くの小さなマンションと共同で、一人の管理人を雇い、「基本的には、月水金はAマンション、火木土はBマンションで勤務。ただし、1日のうち1〜2時間程度は、向こうのマンションに出向いて巡回する」などのようにすれば、擬似的に毎日勤務にすることも不可能ではありません。

 最初のとっかかりは大変かもしれません、でも、一度協力体制を作れば、あとは簡単ではないでしょうか?

 マンション管理士の顧問契約なども、小規模マンション1棟では費用的に無理ですが、近くのマンションと共同で顧問契約して、費用を安くする手もあります。

 とにかく、近隣マンションが相互に協力しあうことで、ずいぶん改善されることがあるのではないか? と考えるわけです。(管理会社としては嫌がることだけど)



2004/8