管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

管理規約 考察 1 常識 


 「管理規約」について論じられている方がいらっしゃるので、私も、私論を。

 私は某マンションの管理員であると同時に、自宅はマンションで、マンション居住者でもありますから、両方の立場がわかります。
 管理規約は、マンション生活の根幹の決まりです。しかし、「分譲会社が勝手に、国の標準規約をもとに決めたもの。いわば、押し付けた物。完全に合意して購入したわけでもない」という気持ちもわかります。ただ、マンションの憲法たる管理規約を、「そういうわけだから、守る必要はない」(日本国憲法でも、こういうこという政治家いますね)としてしまうと、すべてが瓦解してしまいます。やはり、きちんと守るべきものにすべきです。そのためには、当初の規約を後生大事に保持するのではなく、個々のマンションの実情に合わせた最適なものに早く改正することが必須です。居住者全員の理解・合意をえたうえで、完全に守るべき規則を決めることが肝要です。

 居住者サイドからの、「そこの慣わしみたいなモノがガイドライン」という考え方も理解できないわけではありません。しかし、そういう曖昧な基準だと、管理する側(理事長さんもそうでしょうが)は困ります。規則で「敷地内は全面駐車禁止」となっているマンションで、「今までの習慣で、1時間程度の駐車は許されるんだよ」と主張するドライバーがいても、その一方で「規則で禁止なんだから、1分たりとも駐車は認められない。きちんと取り締まれ」と厳しい対応を求められることがあります。原則論からすると後者のほうが正しいです。”習慣”とか”他ではそうかもしれないが、ここでは・・・”というのも、わかるんですが、根拠としては弱いです。また、築浅のマンションでは、”習慣”が形成されておらず、この理論は通用しません。挟まれた管理人はつらいです。個々のマンションで、そこならではの”
常識”というのもあるでしょうが、住民一人一人によって常識のレベルが違います。「人の乗り降りや、荷物の積み下ろし程度ならいい」とされていても、それが「3分なのか」「15分なのか」「2時間なのか」、絶対値として指定されていない限り、判断基準はバラバラなんです。この仕事をしていると、「常識って何?」「今まで自分自身で培ってきた常識というのは世間では通用しないのかな?」とノイローゼになるくらい悩むこともあります。それくらい、自分の持つ常識が、見事に壊されているからです。
 けたたましく吠え続ける犬がいても、その飼主は「犬が吠えるのは当たり前よ。五月蝿いなんて思うほうがおかしいのよ」と反論します。「犬が電柱にオシッコするのは当然でしょ」とも。彼女の常識はそういうものなのです。自分の子供が火災報知器を誤作動させても、「子供がいたずらするのは当たり前なのよ」と開き直る母親もいます。駐車場の枠から大きくはみだすような巨大な改造車を置いても、「自家用車には変わりない。使用細則に違反してないだろう」というお兄さんもいます。そういう常識のレベルの人と相対して、「常識から考えたら・・・」と論じても始まりません。もともとの価値基準がかけ離れていますから。

 となると、管理サイドとしては、規約とか使用細則とか、明文化されたものを基準にするしかありません。「習慣ではこうなっている」と言われるなら、その習慣をきちんとした文面・数値で表してもらわないと、困ります。曖昧なままでは、対応が難しく、「あの管理人は不公平だ、相手によって、日によって、対応がまちまちだ」と非難されます。また、管理人が入れ替わると、当然対応も微妙に変わるでしょう。我々が最も嫌な、「前の管理人は○○だったのに・・・」という批判がきます。

 一番いいのは、規約とは別に、使用細則よりももっとくだいた内容で、現実的・常識的&細かな「生活ルール」のようなものを、全居住者が理解・同意したうえで、各マンションごとに明確に作成していただくことです。そういうものがあれば、それを拠り所にして日々の管理が出来ますし、不公平な対応も発生しません。理事会側でマナー違反住民に対して警告する時も役立つでしょう。理事長さんも、住民から「前の理事長はそんなこと言わなかった。あんたになってから初めて言われた」などと反論されて、困ることが多いみたいですから、役立つはずです。

 いずれにしても、「他人の迷惑になる違反行為に対しては、組合が毅然とした態度で、該当者に注意・警告を与える」ことが大事です。理事長が「同じ屋根の下で住んでいる仲間だし、自分の口から注意するのは嫌だなあ」などという態度は、気持ちはわかりますが、相手を増長させるだけで、改善されません。そして、スラム化します。直接言うのが嫌なら、管理会社名で代弁することは可能ですから、管理会社を上手に使ってください。多少の汚れ役は引き受けます。

PS 「自転車・バイクには登録シールを貼らなくてはならない」という規則を守らないMさん。「貼らなきゃダメでしょ」という理事長の言葉に反論し、「じゃ、何よ。貼ればいいのね。だったら、バイクのトランクの中に貼るわよ。これだって、”貼る”ことには変らないでしょ!」と言いました。このように、”常識”なんて通用しないんです。マンション管理では。


2004/8 2004/11追記