管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 張り込み 


 ある朝、出勤と同時に、住民が慌てた顔で管理人室に飛び込んできました。「ねえ、ねえ管理人さん。西棟の前に怪しいワゴン車が早朝から駐車してるのよ。窓に真っ黒のフィルム貼っちゃって、どうやら、中で複数の人間が仮眠しているみたいなんだけど。ちょっと見てきてよ」というお話。う〜ん、確かに怪しいです。

 早速、車のフロントガラスをトントン。運転席で寝ていた人相の悪い大柄な男が、ムックリ起き上がってきました。ちょっと恐怖を感じました。しかし、こっちも仕事ですから、「すいません。ここは駐車禁止区域です。困ります」と注意しました。すると相手は、急に襟を正し、「これはどうも。気がつきませんですいませんでした。管理人さんですか? 実は私どもこういうもので・・・」と差し出したのは、警察手帳。こっちもビックリして、「警察の人が何か?」と聞きました。

 ことの顛末は以下のとおり。

 彼らはT県警の警察官でした。実は不法入国でT県内で働いていたタイ人女性2人が暴力団から逃げたらしく、それを追って、ここまで来たとのこと。昨日の夜、4人の刑事さんは、はるばるT県から明石海峡を越えて、車でやってきました。早朝に到着して仮眠をとっていた次第。当マンションの住民がそのタイ人女性をかくまっているらしいという情報を得て、捜査令状も持って来ていました。彼女たちを保護して、その暴力団の犯罪を立証するそうです。

 該当するマンションの住民というのは、ふだんまったく顔を合わせない独身男性で、どんな人かもわかりません。「留守の場合は、家宅捜索しますのでよろしく」と言われ、立ち会わされました。ご本人はやはり留守で、中に入っても、女性が同居していた痕跡はありませんでした。「すでに別のところに移動したか?」「どうも今日はご迷惑おかけしました」と言って、刑事さんたちは引き上げていきました。この住民は数ヵ月後転居し、結局一度も会うことはありませんでした。まあ、かくまっていたとしたら悪人ではないでしょうが、いずれにしろ暴力団がらみの危ない話です。警察でなくて、暴力団が女性を奪いに来たとしたら大変なことになったかもしれません。

 マンションというのはさまざまな人が住んでいます。そういうのに関わる管理人業も、怖いなあ。
 


2004/2