管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

向こう3軒両隣



 
 管理員業務を「管理委託契約書」に基づいて厳密に解釈すると、契約書では「管理の範囲」が「敷地内に限定する」とされているため、「マンション敷地から一歩でも外に出たことは関係ない。業務ではない」といえます。

 しかし、実際には、そのマンションの敷地内のことだけやっていればいいかと思うと、そうではありません。

 
例えば、ゴミ。マンションの前の路上に落ちているゴミは、やはり掃除しなければなりません。本当は無視していいんですが、やはり、常識的にはまずいでしょう。当マンションは比較的交通量の多い道に面しているため、多くのゴミが捨てられます。(特に道路に面した植栽の中にゴミを投げ込む悪い奴がいて困ります。剪定作業でバサッと切り取ると、ワッとゴミが現れてビックリします。「なんでもかんでも投げ込みやがって・・・」と掃除します) 自分の建物の前ですから、まあ仕方ないです。しかし、隣の建物の前のゴミも清掃します。これは私ではなく清掃パートさんがやってます。まわりの建物の人はどちらかというとだらしない住民が多く、路上にゴミがあっても、そのままにしていることが多いのです。当マンションの住民が、「汚いわね。みんなが歩く場所なのに・・・」などと苦情を言うため、「お互い様だから、向こう三軒両隣くらいは掃除しないと」と言って、彼女はせっせと掃除するわけです。マンション管理人の中には「週に2回とか3回だけの巡回勤務」というのもあり、毎日勤務しているわけではないところがけっこうあります。ですから、そういったマンションの「管理人が来ない日」は我々が奉仕します。

 他のマンションの管理人のなかには、生来の掃除好きという人もいます。この人の場合、かなり離れたところの家の前まで掃除してしまうため、気味悪がれて、町内会長から、「そこまで掃除しなくてもいい」と注意されたことがあるそうです。

 掃除以外でも、「あそこの家の前の町内会の看板の裏に、ハンドバッグが昨日から置いたままなんだけど、なんなのでしょうね? 管理人さん調べてよ」といわれて、調べることもあります。その家の住民に聞いても「知らない」という返答。犯罪危険地帯であるこの地域の事情を考えると、何か犯罪がらみの臭いがします。バッグの中身を見ると、定期入れや免許証も入ってます。怪しいです。何かの店の会員証に電話番号が書いてあったため、持ち主に連絡しました。残念ながら、留守番電話でした。メッセージを残しましたが、おそらく「ひったくり」か何かにあって、犯人が捨てたと思われますから、警察に電話しました。警官が来て、調べてみると、やはり4日前にひったくりにあった被害者のカバンでした。現金だけ取られて、あとは捨てたようです。まあ、不幸中の幸いです。でも、この被害者、その後私に対しては何の連絡もありません。お礼の電話くらいしてもいいんじゃないでしょうか? 盗むほうも盗まれるほうも、現代人にはモラルがありません。

 隣家の住民から、「すいません。うちの犬が逃げちゃったんです。いっしょに探してくれませんか?」とか言われることもあります。「角の弁当屋の横に、変な男がいるのよ。ちょっと見てきてくれない? さっきからずっと股間に手を当てていて、変態みたいなの」という依頼もあります。「あの信号機のそばにいつも駐車違反する車があって、歩きにくくて困るんだ。管理人さん注意してきてくれ」「あそこのコイン駐車場に住み着いている猫が、よくうちのベランダに入っていたずらするのよ。退治してくれない」・・・ なんやかんやいろいろきます。けっこう、マンション外に出て、仕事することが多いのです。

 「管理人さん、3丁目のアパートで火事だって。見てきなよ」なんてのもあります。野次馬のお誘い、って??


2003/10 2004/12加筆改訂