管理人はつらいよ　　　
マンション管理最前線

　ちょっと深刻な問題です。

　私が赴任してすぐの頃です。あるあばあちゃんが電話をしてきて、「出かけるときに鍵を閉めたのに、帰ってきたら開いてるのよ」とのこと。部屋に行って、「何かなくなってますか？　大丈夫のようですね。鍵のかけ忘れじゃないですか」と、その日は一段落。
　しかし、数ケ月後。同じおばあちゃんから「管理人さん、強盗！強盗よ！助けて」という電話。「すわ！一大事」。携帯で１１０番しながら部屋へ急行。でも、犯人はいないし、部屋も荒らされていないし、おばあちゃんもピンピンしているし、目撃者もいないし。警察が来て大騒ぎになり、指紋も取っていきましたが、どうもおかしいです。

　翌日、息子さんのＳさんが勤務先から電話がしてきました。「おそらく狂言だと思います。実は母は痴呆症なんです。ご迷惑をおかけしました」という話。謎は解けましたが、心境は複雑です。子供のいない夫婦Ｓさんは、痴呆症になってしまった母親を引き取ったのでした。近所や管理人にも説明せず、同居を始めました。ただし、夫婦共稼ぎのため、日中は老母１人で、世話する人はいません。最初はさほどの症状は出なかったものの、徐々に重篤な症状が発生してきたようでした。

　考えて見れば、すぐに１１０番せずに管理人に電話をかけてきたという段階でおかしな話でした。このおばあちゃん、それから後にも、ベランダで「助けて！閉じ込められた！」と大騒ぎしたり、いろいろあったため、息子さんも面倒を見れなくなり、施設へ入ることになりました。

　
　つい先日は、別のおばあちゃんが「エレベーターが動かないのよ。家に帰れないわ」と言ってきました。そりゃそうです。点検中ですから。何日も前から掲示を出して予告しているのに読んでいないんですね。軽い痴呆のようです。しかたなく、背負って、８階まで登りました。

　高齢化社会になると、こういうことが日常茶飯事になるのでしょう。管理人もいろいろ勉強しなければいけません。ただ、恥ずかしいかもしれませんが、家族の方が最初に正直に、実情を言っていただけると助かります。それなりの心の準備ができますから。

2003/4