管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「管理人は誰にでもできる」
はたしてそうでしょうか?


サルでもできる?





 世間の常識では、「管理人職は誰にでもできる仕事」となっています。私にとっては、この認識が非常に悲しく、その誤解をとくために、当サイトをたちあげたといっても過言ではありません。

 マンション管理に関するサイトを覗くと、ある程度知識のある人でも、「誰にでもできるから待遇は悪い」とか書いています。なかには、「管理人は実はいろいろ大変な仕事をしている・・・・・・」と実情を知っているかのごとき筆者でも、「誰にでもできる」と書いてあったりします。果ては管理人自身が「誰にでもできる簡単な仕事です」と書いてある場合もあります。ちょっと残念です。

 いい加減な管理会社の場合、いい加減な面接を行ない、「来る者拒まず。うちの激安給料で働いてくれるだけ、メッケモノ」と、「即採用」ということもあり、この点では、「誰にでもなれる」ということはできますが、「なれたとしても、仕事をきちんとできる人は少数」だと思います。

 私も若輩ながらさまざまな仕事をしてきましたが、その経験から言えることは、
「世の中に、"誰にでもできる仕事”などない」ということです。

 前職の流通業界を例に出すと、
「スーパーのレジ打ちなんて誰にでもできる」とよく言われます。しかし、そんなことはありません。私は人事・研修もやっていましたからよくわかります。時給800円のパートさんの採用でも神経を使ってあたります。まず、面接の段階で「あちゃ、こりゃだめだ」という人がけっこういます。「人間としての言葉遣いの基本がなっていない」「数を数えらない」なんて人がけっこういるんです。今大人気の「爆笑問題」の太田君は、あんなに頭がいいのに、数字に関しては完全にバカなんだそうです。二桁の足し算もできないそうです。引き算となるともっと大変だそうで。それなのに、コンビニのバイトをしたことがあって、「540円の買い物をした客が、1000円札1枚じゃなくて、気を利かせて、1040円を差し出してきた。そんな余計なことをされると計算が狂うんだよ!」と怒ってました。当然、すぐにクビになったそうです。こういうケースは実際のレジの現場でもよくあることで、上記のケースでいえば、客が1000円札を出してきて「はい、これ」というので"預かり 1000円”と打ち込んだ後に、「あ、ちょっと待って。40円あったから出すわね」と後出しをすることがあります。客側からすると、これで、おつりが500円玉1枚になるから楽なんですが、店員からすると、いったん打ち込んだ1000円を取り消して、再度1040円と打ち直して・・・・・と、慣れない店員だと一瞬パニックになるのです。ベテランの店員の場合、客一人一人の性格を把握していて、「このおばあちゃんは、あとから小銭を出してくるから、入力は少し待ったほうがいい」ということまで考えが及び、上手にこなします。
 また、恥ずかしがり屋で、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と大きな声で言えない人がいます。接客業が初めての人の場合、最初は誰しも言えない為、「すぐに慣れますから大丈夫ですよ」と言って採用するんですが、何日たっても言えずに、「参ったな、この人」と私が悩んであるうちに、ご自身が「やっぱり無理です、言えません。辞めます」と去っていく人もいました。
 レジ係さんも実はけっこう経験がものをいう仕事で、初心者とベテランではスピードが3倍〜4倍違います。迅速さが要求される職場でこれは大きいです。ベテランの優秀な店員というのは、「接客態度がしっかりしている」「落ち着いた態度でも手はものすごく早く動く。スキャンも早い。」「カゴからカゴへ移し変えた商品の並べ方も合理的でお客様が袋詰めする際に楽になるように考えている」「商品知識が豊富で、どの商品がどこにあるか把握している」・・・・・ 実はすごい技能を持っているのです。
 各商品係が、商品の金額をPOS登録する際に間違えることがよくあります。通常90円の豆腐がこの1週間は60円の特売になっているのに、入力を忘れて、商品棚では60円なのに、レジでは90円と出てしまうのです。ベテランレジ係さんは、すぐに気がつき、修正を指示します。また、お客様に、「これの金額違うんじゃないの?」と聞かれると、「ちょっとお待ちください。確認してまいります」とレジを離れるケースがありますが、ベテランの場合、その商品がどこの陳列棚にあるのか頭に入っていますから、すぐに現場にいって表示価格の確認をしますが、初心者だと、「え〜と、豆腐ってどこだっけ? え〜と」という具合に確認するだけで長い時間がかかり、その間にお客様をお待たせします。客からすると、「値段は間違えているし、確認と言って長時間ほったらかしにするし、ろくなスーパーじゃないわね」とお怒りになります。
 同じ商品を複数買うお客さんがいます。レジでは、1個をスキャンしてから個数を入力して掛け算で入力します。これも落とし穴があって、例えばトマトジュース。表面的には同じように見ても「無塩」と「食塩添加」の2種類があります。この2種類を混ぜて購入するお客様の場合、「あ、同じものが10本だな じゃ、個数10」と入力しては間違いになります。商品知識があれば、「トマトジュースは無塩と添加の2種類あるから、気をつけなくては」と瞬時に思い、1個1個を確認します。(こういうトラブルを避けるために、店によっては、”×かける”を使わせずに、1個1個スキャンさせるところもあります)
 最新のレジの機械は、お金の出し入れに関しては自動化が進んで、おつりも札を数えずに、8000円が自動的に出てきたり、預かり金も、500円はここ、100円はここ、とうふうに入れずにまとめて一箇所にコインをザーっと入れれば、あとは機械が自動的に仕分けしてくれたりして、非常に便利になっており、私がいたころの初心者とベテランの差が、ハイテクによって縮まってきていますが、いまだに、歴然とした差があると思われます。ですから、「誰でもできる」仕事なんかではないんです。このため、昔、「ベテランパートさんをもっと大事にしないと・・・」「キャッシャーなんかみんな同じだよ」「そんなことないですよ」・・・と上司と喧嘩したこともあります。

「街頭のティッシュ配布」。これも「誰にでもできる」とよくいわれますが、実際は違います。以前、なにかのドラマで主人公が「自分が配っても誰も受け取ってくれないんです」と悩む場面がありました。そうなんです。配布する人間によって、「みんなが受け取ってくれる」場合と「敬遠されて受け取ってもらえない」差があるんです。誰にでもできるもんじゃないんです。

「チラシまき」。これも代表格です。でもね、そうでもないんですよ。今はチラシ撒きに関して制限のあるマンションが多いですから、「管理人の勤務時間外を狙って撒く(昼休みは狙い目)」「管理人と仲良くなって、お目こぼしをしてもらって撒く」「管理人が清掃している時間を調べておいて、その隙に撒く」・・・・苦労してるんです。バカじゃできません。また、配布OKの場合でも、その撒き方にはテクニックがあります。初心者とベテランでは5倍上の時間の差があります。うちみたいに200を超えるポストがあるマンションでは顕著にわかります。2分で終わらせる人もいれば、10分かかる人もいます。うまい人はあらかじめ、配布しやすいように折り込んでおきますし、投函の仕方も忍者の手裏剣のようにすばやいです。投函する位置の順番も、どうやるのが効率的か考えています。いっぽう、何も準備をせずに、何も効率を考えない人の場合は、時間がすごくかかります。「時給いくら」で働いているのなら遅くてもいいのかもしれませんが、「1枚配布で何銭」という条件の場合は、枚数が命です。

 「誰にでもできる仕事です」と言い切れる管理人さんは、よほどご自身が優秀な人なんでしょう。そして、世の中にはご自分が知らないような「不器用な人間」がいることを知らないのでしょう。ある意味、社会的に恵まれた人の中でしか生活してこなかった幸福な人かもしれません。石原慎太郎のように、強い人間のことしか知らず、「弱いものは死ね」と思っているのかもしれません。健常者としか付き合わず、身体的ハンデを負った人間も視界に入らないのかもしれません。もしくは、職場環境がすごくいいんでしょう。住民全員が100%いい人ですと、管理人はすごく楽で、「誰にでもできる仕事」と思うかもしれません。でなければ、ご自分がものすごいやる気がある人で、かつ、この仕事が大好きなんでしょう。であれば、どんな苦労があっても、住民から罵倒されても、それが喜びに感じ(Mみたいなもの)、「こんなに楽で簡単だから、誰にでもできる」と勘違いしてしまうのでしょう。

 ところで、「マンション管理会社なんて誰にでもできる」と思われていることも事実です。このため、管理会社の社会的地位は非常に低く、ろくな人材が集まりません。グループ企業の中でもマンション管理は最下層に位置されています。しかし、マンション管理というのは実は非常に難しい仕事なのです。難しい仕事なのに、人材が貧困で、このため、手抜きやいい加減な仕事が蔓延し、それが問題化したために、「適正化法」なんていう法律ができたのです。「誰にでもできる仕事」であれば、法律なんかできません。

 昔とも事情がずいぶん違ってきました。今、当サイトではIHクッキングヒーターのことを提起してますが、こういった”電気”に関する知識も必要です。犯罪が増え、防犯のことも重要になってきました。防犯機器もハイテク化が進んでおり、最新の知識が必要です。インターネットなど通信に関する環境も日進月歩です。エレベーターの安全神話も崩れ、エレベーター会社に任せっぱなしにはできません。社会全体のモラルが低下し、それがマンション生活にもダイレクトに影響しています。子供の犯罪も増えました。小学生が殺人する時代です。広範囲に豊かな知識・見識が必要です。不良住民に迷惑行為をやめさせるのは、心理学のテクニックも必要です。これほど、業務の裾野の広い仕事は珍しいんじゃないでしょうか? そのへんの公務員じゃとてもできません。そんな大変な仕事であっても、「プライドは完全に捨てなくてはいけない」職業です。前職でそれなりの立場にいた人にとっては、屈辱感を克服しないと勤まりません。ある意味、「人生経験が必要な大変な仕事だから、高齢者しかできない」とも言えます。血の気の多い若者には無理でしょう。


 「誰にでもできる仕事だから給料が安い」と言われています。実際に安いです。たしかに、年金生活者にとっては、「これ以上もらうと年金支給に支障が生じる」という事情もあります。しかし、これにあぐらをかいて、「管理人は激安でもいいんだ。中国人労働者と同じ扱いでいいんだ。残業代なんて出さないでいいんだ。休日なんか不要なんだ。・・・・」と不当な労働環境を認めるのはおかしいです。また、高齢者が多いせいか、「耐えることが日本人の美徳」と考える人がいます。なかには、「俺はサービス残業をやってるんだ。休日でも無給で出勤しているんだ。」ということを、「私はえらいんだ」と勘違いして声高に唱えている人がいます。そういう人が多いから待遇が最底辺のまま変わらないんです。そんなの美徳でも何でもないです。


 今絶好調のジャ○ーズ事務所ですが、ちょっと前まで、ものすごいピンハネをしていました。一日3回公演などという過酷な労働を強いて、ギャラはごっそりピンハネ。経営者だけがウハウハの状態でした。子供を長時間&深夜働かせて、労働基準監督署のチェックが入ったこともあったはずです。ジャ○ーズ事務所の場合、子供たちは「有名になりたい」と思って入ってくるため、ピンハネされても文句を言えませんでした。「文句を言うならデビューさせない」などと脅されるからです。「管理人になりたくてなったんだから、管理会社にピンハネされても文句はいわない」というのと同じです。キム○クが一人立ち上がり、待遇改善を訴えた結果、大物タレントに関しては巨額のピンハネはなくなり、スマッ○のメンバーが高額納税者に名を連ねるようになりましたが、キム○クが何もしなかったら、いまだにピンハネしていたことでしょう。


 全国の管理員の皆さん、「誰にでもできる仕事だから、給料はこんなもんでいい」などとあきらめないで下さい。サービス残業・業務範囲外労働は美徳でもなんでもありません。実際は大変な仕事です。真面目に働けば働くほど大変です。そういう大変な仕事をしているのだということを誇りに思って、待遇改善を訴えてください。これを読んでいる区分所有者の皆さんもご理解をお願いします。
 長文失礼しました。
 



2006/11




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