管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

管理人の業務範囲A 公平な対応 マニュアル 線引き・・・

「管理人さん、今大丈夫?」 いろいろ頼まれる仕事です


 管理人は専有部分内に関わっていいものなのだろうか?

 この問題、難しいです。立場によって大きく変るかもしれません。私がもし管理会社の部長なら、やはり、「部屋に入るな。個人的な依頼には応えるな」と指導するかもしれません。
 これは規則を作るほうからしたら当然かもしれません。もともと業務委託契約には入っていない仕事ですし、あいまいな表現では管理人一人一人によって大きく仕事の仕方は変わるでしょう。また、読者からのコメントにあったように、「照明器具を取り付けてあげたら、落として床を傷つけ、損害賠償を請求される」ということも考えられます。つまり、全社的に考えれば「トラブルの種」になるわけで、そんなことには関わらないのが一番です。こういったことは一度苦情が発生すると、「2度と同じことをしないように」禁止するように対応します。大きな会社になればなるほど、確率論的に苦情の件数が増えますから、大きな会社になるほど、「余計なことはするな。関わるな」「苦情のもとになることをするな」と、安全策に傾いてきます。逆に小さな会社では、苦情の発生件数が当然少ないですから、苦情が寄せられていない問題については、いままだ考えることがないために、まだ禁止していない場合もあります。
 管理会社の立場としたら、「管理人なんて信用できないから、危ない領域には入らせないようにするのが一番」という考え方になるでしょう。私もそう思います。管理人のことを詳しく知っている上司などいませんから。

 組合さんからしたらどうでしょうか? 普通は重宝がってありがたいのではないでしょうか? 住民からも「あの管理人さんはなんでも気軽に応じてくれて助かる。個人的なお願いなのに、嫌な顔せずに浴室の電球を取り替えてくれた」という褒める言葉も出るでしょう。共用部分の中のちょっとした不具合発生に関しても、手先の器用な管理人さんが修復してくれたら、無料で済みますから、組合さんも喜ぶでしょう。「ネジが1本外れた」よう軽微な不具合でも、専門業者を呼べばすぐに1万円超えてしまいます。本来なら、組合員の中で手先の器用な人がやってくれればいいんですが、そういうマンションはまだ少なく、「できれば管理人さんがやってくれると助かるな」というのが正直なところではないでしょうか? 「できません」と答えられたら、「ネジ1本取り付けるのもやってくれないのか? そりゃ業務委託契約にはないかもしれないが、その程度の簡易なことくらいやってくれてもいいじゃないか?」と怒る理事長さんもいるかもしれません。なるべくやってあげたほうがいいと思います。まあ、共用部分に関しては、「ありがたい。助かるなあ」でしょうが、専有部分内に関しては、「公平、不公平を考えるとよくないかなあ?」「サービスとしてやってくれるのはありがたいけど、なんか壊したりすると問題だなあ」と諸手をあげて喜ぶことにはならないかもしれません。

 住民の個人的な依頼に関しては、安全策としては、管理人の業務マニュアルの中に、「専有部分内のことには一切関わらない」とするのが一番楽です。実際、「管理業務の業務範囲は共用部分に限る」となっている契約がほとんどですから、「専有部分には入りません」という条項がなくても、専用部分内には関わらないものです。
 でも、現場で働く管理人からすると、困ります。管理人もいろいろいるから決め付けられませんが、少なくとも私はこういうの嫌です。自分自身もマンション住まいですから、居住者の気持ちで考えてしまいます。「自分がもし、家族に先立たれ一人暮らしになって足腰が弱った時には電球1個取り替えられなくなるかもしれない。近所付き合いもろくにしてないから、頼れる人もいない。管理人さんがやってくれると非常にうれしい」と考えます。そんな時に、「専有部分には一切関われません」なんて言われたら、理屈ではわかっているものの、「ケチな奴」と非難すると思います。(もちろん、業務範囲以外のことをやってもらうのですから、相応の御礼はします) 
 ひどいのになると、「専有部分内のことには関わらない」という規定を厳密に実行している管理人の場合、「風呂場の湯沸かし器が壊れてしまったんだけど、修理はどこに頼めばいいのかなあ」という住民からの質問に対し、「業務範囲外です。お答えできません。」と返答する人もいるそうです。「3年しかたっていないのに、台所の給水栓がこわれちゃったのよ。欠陥商品じゃないの?」という質問にも、「関係ありません。当方ではなにもできません」と断ります。杓子定規に考えればそれで正しいのかもしれませんが、これが「良い管理」なのでしょうか? 私はサービス業が長いため、どうしてもそういった公務員的な対応はできないのです。湯沸かし器の故障とか、給水栓の故障、インターホンの故障・・・・、などなど経年劣化で故障するものはたくさんあります。製造時の欠陥で故障するものもあるかもしれません。欠陥の場合、1個では「その商品だけ、たまたま」とメーカーに逃げられますが、「いくつもいくつも同じ症状で壊れる」となれば、明らかに欠陥です。そういったデータが揃えば、メーカーを追及することができます。本当の故障でも、マンション内の各室で同じ製品を使用しているのであれば、メーカーも当然わかっているはずですから、あらかじめサービスステーションの電話番号くらい調べて置く事も可能です。故障事例によっての費用の概算のデータも貯まってくるでしょう。料金の幅が非常に広い、といわれている水道工事も、件数が増えれば、「どこの業者が一番安くて、いい工事をしてくれる」というデータも集るでしょう。「管理人は一切関係ない。何にも言ってくるな」ではなく、積極的にデータを集めて、それを開示して、皆さんに役立ててもらうほうがよくないでしょうか? 住民の中にはこういうことがわかっている人がいて、「うちでインターホンを工事したんだけど、○○という業者で、○○円かかったよ。 今後の参考のために、記録しておいてよ」と言ってきてくれる人もいます。こういう善意を「関係ない。契約にない」という返事で無にしていいのでしょうか? 

 「マンションの敷地内、及び共用部分内のみ」という条文は他にも影響が出ます。例えば清掃の範囲。敷地内ということになると、一歩敷地を出ただけでも、業務範囲外になります。つまり、マンション前の歩道にゴミが落ちていても、犬のウンコが落ちていても、掃除する必要はないのです。でも、そんなわけにはいかないですよね。道路の向こう側ならともかく、マンションの前だったら、掃除するでしょう、普通? 住民としても「掃除しておいて」と頼むのは当然だと思います。昔の奈良の町の鹿のように、「自分の罪にならないように、隣の家の前に鹿の死体を移動する」みたいに、敷地内のゴミを蹴飛ばして、敷地外に出して、知らん振りする人もいるようです。

 困っている人がいるなら、電球の交換くらいしてあげてもいいんじゃないでしょうか? 「それは、勤務時間外にサービスとしてやるならいいが、勤務時間内にやるのはよくない」と管理側から非難する人もいますが、じゃあ、やってあげようと思ったら、終業時まで待ってもらうのでしょうか? その場でやってあげてはいけないのでしょうか? たいした時間がかかることではなし、通常業務が暇な時ならいいのではないでしょうか? 管理人室の行き先表示に「何号室に行ってます」と書いておけば、急な用件なら呼びにきてくれるでしょう。それに「勤務時間外にやれ」というのはサービス残業を強いていることになります。使用者側としては、適切な発言ではありません。
 「作業まではしなくてもアドバイスをする」というケースもあります。我々管理人も長くやってくると専有部分内の不都合に関することもかなりわかってきます。「蛇口から水が漏れてるんだけど、パッキンかな?」と聞かれた時に、「じゃ、ちょっと見てみましょう」と部屋の中に入り、「いや、パッキンじゃないですね。蛇口の根元がひび割れることが多いんで、それかもしれません。ネジをはずして見てみましょう」「やっぱり、割れてますね。この部品は近くのホームセンターで2000円で買えますよ。業者に頼むと2万円は取られますから、自分で買って来て交換したらどうですか? ご主人が帰ってきてからやってもらえばどうですか・・・・」と的確なアドバイスができることもあります。これを「関係ない」と断ったら、この奥さんは水道工事業者を呼んで見てもらい、騙されて不必要な工事までやらされて、十万円取られるかもしれません。こういったものの場合、騙されたことに気づかないことも多く、そのまま素直に払ってしまうケースが多いです。なるべくなら皆さんのお役に立ちたいと思っている私としては、十万円浪費させるよりも2000円で済ませてあげたいです。それに、こういったサービスができることが「長年やって経験豊富な管理人さん」という差別化になり、「勤務年数が長いんだから給料も上げてよ」ということになるんじゃないでしょうか。なんか、「ダメ」といわれると、経験を否定される様な気がして、いい気がしません。

 「電球交換はいいけど、それ以上のことはだめ」とか決めてもらえるのが一番なのかもしれませんが、前から、「細かく具体的に業務範囲を決めて欲しい」と言って置きながらなんなんですが、こういった種類の仕事の場合、マニュアル化するのはかなり難しいです。それに、なんでもかんでも細かくマニュアル化して、それを売り物にしているところもあるようですが、資質に乏しい管理人が規定どおりに業務をできるかどうかも疑問ですし、「単独で気軽、ある程度自分の裁量で出来る」という気楽さがなくなると息が詰まるような気もします。激安給料で、超細かい規則じゃ、やる気がなくなるんじゃないでしょうか? 現場の人間の正直な気持ちです。甘いかもしれませんが。


 「マニュアルっていうのは難しいなあ」と思います。
 例えば、電車の「優先席」、意味はわかっているものの、実際の運用面ではいろいろと問題があります。「お年寄りって何歳からなの? 身分証明書を首からぶらさげているわけはないし。白髪だらけでも若い人はいるし。見た目ヨボヨボでも、実は足腰カクシャクで元気な人もいるし、そんな人に席を譲ると”老人扱いするな”と怒られたりするし・・・」悩むことが多いです。
 最近は体の不自由な人という範疇に、病弱な人とか妊婦さんも加わっています。でも、松葉杖をついていれば、体が不自由だとわかりますが、すべてのケガ人や病人が表面的にすぐにわかることはありません。妊婦にしても、一番つらいのは、まだお腹が目立たない時期です。これでは、譲りにくいし、本人も「座らせて」と言いいにくいです。私はさすがに中年になってからは、「なんで席を譲らないんだ」と怒られることはなくなりましたが、若手サラリーマンだったころは言われたことがあります。でも、ふだんは譲る私でも、残業でクタクタになって疲労困憊の状態でやっと席にありついた状態では、譲りたくても譲る体力がありません。このように、優先席のマニュアルというのは実際には作れないようなファジーなものです。ですから、新聞の投書欄にも、3ヶ月に1回は優先席に関する話題が投稿されます。

 マニュアル化も難しいし、「公平にする」ということも難しいです。私の前職、流通業でも、顧客サービスの一環として、「ベビーカーを持ったお母さんや、重い買い物をしたお年寄りがレジを通る際は、レジ係員がそのカゴを持って、袋詰めする台まで持っていってあげる」ということが議論されました。
 本来、スーパーはセルフサービスが基本ですから、常識ではそういうことをする必要はないんですが、他社との差別化、サービス向上のために、そうしようと考えたのです。ここでも、「いくつくらいからがお年寄りか?」「重い荷物、大量の品物って、どれくらいからか?」、マニュアル化は難航し、あいまいな表現で決着させました。イトーヨーカ堂などは、これをきちんと実行してますが、「前の客の時は運んでくれたのに、あたしは運んでくれないの?」「別のレジの人は、これくらいの量の時は運んでくれたのに、あなたはなんでやってくれないの?」など、たまにチェックが厳しい女性顧客から苦情がくることもあるそうです。このサービスは、「レジにお客が滞留しないで、スムーズに流れるようにする」という裏事情があるんでやめるつもりはないでしょうが、「公平さ」というのは非常に難しいものです。ダイエーは、経営悪化によって、今、職員の質が非常に悪くなっており、こんなサービスなど考える余裕もないようです。でも、たまに優しい女性スタッフがやっていることがあります。私は、「この人いい人だなあ」と思いつつ、「この人しかやらないサービスだとしたら、客からだけでなく、同僚からも、”なんであんただけ、マニュアルにないことをするのよ”と非難されているかもしれないなあ」と心配しています。すべて厳密に公平というのは、本当に難しく、その点が共産主義社会が破綻した原因ではないか?とも思います。

 うちの会社の場合、いい加減なんで、「何するな、これするな」と言われることはありません。小さな会社でもあり、全社的に管理人マニュアルを作る能力も意思もないです。現場の裁量に任せてくれるのでありがたいです。最初のうちは「”いい加減”は悪いこと」と考えていましたが、このサイトを開設してから、「場合によっては”いい加減”もいいこと。良い”加減”ではないか」とも思うようになってきました。

 管理会社やマンション管理組合によって、「厳密にマニュアル化すべき」と考えるところもあるでしょうが、ある程度の資質のある管理人の場合は、「その人に任せる」ことも大事ではないでしょうか?
 「専有部分に関することはシャットアウト」「住民個人の話相手にはならない」と言われても、そうすると無駄話をしにくるおばあさんに対しても「規定によりあなたの話を聞くことはできません。お帰り下さい」とかあしらわなければならないわけでしょう? そんなことできないなあ。他に仕事が入ってくれば、「ちょっとごめんね○○さん」と切ることは簡単なんだから、暇な時に相手してあげてもいいと思うんだけど。それも、「Aさんばかり相手にしている。不公平な管理人だ」と非難されるのかな。なんか嫌な仕事というか、嫌な人間社会ですねえ。

 まあ、今後は苦情や誤解にならないように、「本当はこんなことしないんですよ。契約外のことなんですから」「他に仕事がはいったら中断しますよ」「もし、失敗しても私に責任を押し付けないで下さいね」・・・・などなどあらかじめよく伝えてから、相手が納得したうえで業務範囲外のことをするようにします。そうすれば、「管理人って、住民のためならなんでもやる雑用係じゃないんだ」と初めて気がつく住民もたくさんいるでしょう。




2004/10