管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

孤立無援


 研修もろくになく、フロント営業マンが来ることもほとんどなく、同僚もいない。管理人は寂しい仕事です。まあ、私の場合、他人との関係を断ち切りたい面もあったので最初は良かったのですが、ずっと一人が続くのもなかなかしんどいです。

 ◇「新しい情報が何もない」
 私は個人的にはインターネットで、マンション管理の情報を仕入れていますが、たいていの管理人さんはパソコンなど扱いません。会社からの情報もないと、情報無人島になります。よそではどういうふうに業務をやっているのかも何もわかりません。前任者からの研修も少ない場合、仕事のやり方というのは、ほとんどが自己流になります。はたして、それが正しいのか、不適切なのか、自分では判断できません。

 ◇「向上心がわかない」
 同僚もないですから、競争する気にもなりません。管理人ががんばっても売り上げが上がるわけではなく、慣れてしまうと、ただ惰性で仕事をしているだけになります。委託契約の中に管理人業務の規定はありますが、あいまいな表現のため、具体的にどこまでやればいいのか、はっきりしません。サービスというのは無限大にあって、どこまでもやろうと思えばできるのですが、線引きがわかりません。このため、管理人一人一人がやることが違うのです。業務を評価する制度もなく、昇給もない、給料は激安、社会的地位も低い。向上心は沸きません。

◇「間違いに気づかない」
 誰か別の人がいないとチェックしてもらえません。何か書類を作るときも、以前の職場では必ず、他の人に読んでもらって校正してもらいました。しかし、今は自分しかいませんから、間違いに気づかずに提出したり、掲示してしまうことがあります。2003年なのに2002年と書いてしまったり、単純なミスを行います。エアコンをオフにするのを忘れて帰ったり、気をつけてはいるものの不注意から来るミスがたくさんあります。ただ、どんな失敗も「自分の責任であることは明らか」なので、「誰のせいだ?」みたいなことはなく、明解です。

◇「プロなんだろうか?」
 会社の業務案内には、「プロならではの技術で・・・」と宣伝されているのですが、管理人の業務も清掃の業務も、なんらプロらしいところがありません。清掃道具にしても、そこらのホームセンターで買えるものしか使用していません。共用部に電気のコンセントがないため、機械で清掃することもできません。プロらしいテクニック(特殊な薬品とか)も、何もありません。聞いたことも教えられたこともありません。清掃パートさんに聞いても、「何も教わっていない」ということで、自分の家でやっている清掃の延長みたいなもののようです。使用しているクロスも、普通のタオルです。それも会社が支給してくれないため、出入り業者が時々置いていってくれる「ご挨拶用タオル」を使用しています。汚れ落ちも悪いです。通信販売のテレビを見ていると、「これ欲しいなあ。会社で買ってくれないものだろうか?」とよく思います。


 オバタリアンと話すことは多いものの、若い女性と話すことはほとんどなく、そのせいかコンビニのお姉さんに声をかけたりするようになりました。(困った中年男だ)
 一人は気楽ですが、ずっとひとりはつらいなあ。管理人室の机も、自分が片づけない限り整頓できないんですよね。


2003/4

孤独に耐えろ!


2004/9追記 
<セカンドオピニオン>

 先日、テレビの特集で「医者のセカンドオピニオン制度がなかなか浸透しない」という問題を扱っていました。一人の医者の判断で治療法を決めるのではなく、別の医者の意見も聞いてから決めよう、というものです。ガンの治療法などは医者によってマチマチですから、この考え方は有効です。
 現在のように医療が複雑化高度化している状況下、たったひとりの医者がすべてを決めるのは危険です。そんな、神様のような有能&万能な医者などいません。普通、どこの企業でも、例えば新製品を出す際は、社員一人ですべて決めることなどありません。多くのスタッフの意見を聞いて、会議を開き、決めます。それなのに、医者の世界だけは、なんでも一人で決めるのが当たり前になっています。他の医者の意見を聞くことがない(白い巨塔の財前みたい)、患者が疑問を投げかけると嫌な顔をする、そんな医者がゴロゴロいます。特殊なおかしい世界だと思いませんか? アメリカのテレビドラマ「ER」では、医師同士が治療法をめぐって口論するシーンがたくさんありますが、日本は閉鎖的です。

 テレビの中では、「自分が見逃したガンの病巣を他の医者が見つけた。やはり、セカンドオピニオンが必要だと痛感した」という医者が、熱心にこの制度の重要性を説いていました。

 ところで、ひるがえって管理人業務を考えると、ここも「セカンドオピニオン」のない職場です。一人勤務ですから、同僚に相談することができません。間違いを犯しても直してくれる人はいません。何がよくて、何がいけないのか、価値判断がわかりません。やはり、一人だけというのは弊害が大きいです。管理会社は管理人のことに詳しい人間はいないし、やはり、管理人経験者が管理会社の重役になるべきだと思います。私も好き勝手愚痴をこぼしていますが、適切な方向に導いてくれるセカンドオピニオンが欲しいです。